18話 学園祭~当日~

 学園祭が始まった。
 うちの中学の学園祭は親がきたり、外部からお客さんがきたりはしない。生徒による生徒のためのお祭りである。
 体育館で演劇などの出し物をみるか、校内をぶらつくかは各自の自由。
 そんなわけで、私は午前中は友達と、午後は文人くんと行動することにした。
「半日だけか……」
 文人くんはあざとい仕草でこちらをチラチラみている。
 さっさと行け。友達がまっているんだ。
 そんな思いをこめて「じゃあまたねー」と背中を押したら、
「田中さんに捨てられた……」
 彼はすごくわざとらしい泣きまねをしながら男友達の方へ歩いていった。
 私たまに文人くんのことがよくわからない。
 基本的に無表情かと思ったら、案外コロコロ表情の変わる人だ。

◆

 待ち合わせ場所の更衣室へ行くと、すでにみんな集まっていた。
 咲綾ちゃん、弥生ちゃん、蘭ちゃんの3人。
「蘭ちゃん、なんか劇でるの?」
 思わず聞いてしまう。
 なんで更衣室で待ち合わせなのかと思ったら、着がえるためだったらしい。
 さっきまでふつうのセーラー服だった蘭ちゃんがロリータに変身していた。
「ううん、趣味とロリータ同好会の宣伝」
 ヘッドドレスっていうんだっけ?
 白くてピンクのリボンがついた、ヒラヒラの髪飾り。
 長い髪をドール風に巻いていて、メイクもばっちり。いつもより目がなんかでかくなってるし、まつ毛が長い。ピンクの口紅が似合ってた。
 トップスは白い半そでで、肩のあたりがふんわり丸くふくらんでいる。
 白いレースの手袋。
 スカートはピンクのワンピースドレスみたいな感じで、シャツの上から着ているみたい。
 靴下も白いレースだし、上履きじゃなくてピンクのパンプス。
 ななめがけのカバンはでっかくて白いウサギのぬいぐるみ。
 なんていうか……かなりガチだ。
 びっくりしたけど、似合っててかわいいからいいんじゃないかな。
「蘭ちゃんにこういう趣味があったとは知らなかったよ。すごくかわいいね」
「ふふふ。被服室で展示とカフェやってるから、最初に行こうね」
 得意げな蘭ちゃんに、咲綾ちゃんは嫌そうな顔をした。
「遊ぶときに着てこないでね、これ」
「TPOくらいわかってるよぉ。咲綾ちゃんったらデリカシーなーい。非オタにいきなりエロ同人読ませる人にはいわれたくないんですけど~」
「あー、ごめんね。中学生にもなってそんなフリフリ馬鹿みたいって思っちゃって、ついー」
「ふふふ。おまえのキモイ趣味よりはマシ」
「あ? やんのかコラ」
「なめてんじゃねーぞコラ」
 蘭ちゃんと咲綾ちゃんがガンつけ合っている。
 弥生ちゃんはオロオロしているけど、私はかまわずその手を引いた。
「じゃ、被服室いこっか」
 あの2人のケンカは日常茶飯事だし、あれでけっこう仲良しだから大丈夫なのだ。
 ちなみにパンプスはおうち用のルームシューズだから校内を歩いてもOKらしい。

◆

 蘭ちゃん部長のロリータ同好会。
 手芸部と調理部とコラボしているらしく、そこにはロリータ服が3着くらい展示されていた。
 もちろんそれだけではなく、ぬいぐるみやバラの花なども飾られていて、インテリアに凝っている。
 さすがに本物のお店みたいにはいかないけど、テーブルクロスもお洒落だ。
 ロリータ服とぬいぐるみは手芸部作らしい。
 3段トレーにのったレディースセットは調理部作。
 ロリータ服をきて給仕してくれるメイドたちがロリータ同好会のメンバーだ。
 蘭ちゃんが提供したという、紅茶のティーカップや3段トレーは有名ブランドの物らしく、高級感があった。
 スコーン、サンドイッチ、ケーキ、アップルティー。
 ミニサイズだから量もちょうど良かったし、どれもすごく美味しかった。
 朝ごはんは食べずにきてねと蘭ちゃんにいわれていたんだけど、素敵な朝食になった。
「おいしい!」
「でしょう?」
 絶賛する咲綾ちゃんに蘭ちゃんが嬉しそうにしている。
「ねえねえ、ゆず」
 紅茶の香りを楽しんでいたら、弥生ちゃんがつっついてきた。
「なに?」
「南ヶ丘くんと仲直りしたいんだけど……」
「えっ、なんで?」
 そりゃ仲をとりもとうとは思ってたけど、あんなに怒っていたのに。
「じつは、南ヶ丘くんと別れてから男子に告白される回数が増えて」
「そりゃそうでしょうよ」
 と咲綾ちゃん。
「やっぱり私、ぐいぐい来る男子って怖いなって。南ヶ丘くんはね、告白とかがんばってくれたけど、基本的にヘタレなの。私からがんばらないと手もつなげないような子だから、安心する」
「弥生ちゃんって草食系が好きなんだ」
 目を丸くする咲綾ちゃん。
 カッコイイ系女子な咲綾ちゃんは肉食系男子がお好きらしい。
「味山くんはいいの? 最近、学園祭の実行委員つながりでよく話してたのに」
 正直残念なお顔だけど、デブ専の弥生ちゃんにとってあのぽっちゃり体型は好みだったはず。
 何気なく聞いたら、弥生ちゃんはきっぱりと断言した。
「あの人嫌い! 良い身体だけど性格がぜんぜん好みじゃなかった」
「う~ん、弥生ちゃん狙いのイケメン男子は他のクラスとかにもたくさんいるけど、ほんとに南ヶ丘くんでいいの?」
 南ヶ丘くんには借りがあるから協力する気はあるけど、弥生ちゃんの幸せの方が大切だ。
「ヘタレっていうけど、南ヶ丘くんだって男なんだから、ある日いきなりオオカミになっちゃうかもよ?」
 と蘭ちゃんもいう。
 弥生ちゃんは少し考えるようなそぶりをして、うなずいた。
「まだ一度も手をつないだこともないくらいだし、信用する」
 最近ぜんぜん話してないから寂しくなっちゃった、と。
 完全に恋する乙女モードだ。ほんとなにがあったの? 男どもに押し倒されそうにでもなったの?
 しかし別れるときにけっこうひどいことを言ってしまったらしく、南ヶ丘くんに合わせる顔がない。
 だから私に仲をとりもって欲しいと彼女はいった。
「うん、いいよ。じゃあ午後から南ヶ丘くんに話してみるね」
「ありがとう、ゆず!」
「……なんでみんな、私には恋愛相談してくれないわけ? 勉強の相談とかはしてくるのに」
 咲綾ちゃんはすねている。
「あんたにはデリカシーがないからだよ」
 蘭ちゃんが笑った。

◆

 4人で校内をめぐっている内に、化学室を通りがかった。
 文人くんには「科学部から物を買うな、もらうな」と言われてたけど……。まあ、友達のつき合いで中に入るくらいはいいか、べつに。
 科学部は展示&販売といった感じだった。
 以前みせてもらったときより商品が増えていて、なかなかにぎわっている。展示は商品の作り方みたいな研究レポートが漫画風に描かれていて面白かった。
 3人がお菓子やジュースを買っている間。展示をながめてまっていたら、休憩中らしい駒田くんと目が合った。
「よく来たな、田中」
 駒田くんはにっこり笑ってこっちへやってきた。
 第一印象はメガネのクールビューティなんだけど、人って見かけによらないなぁ。彼の趣味を知っている身としてしみじみ思った。