25話 ゲボク残機???
目をあけると、見覚えのある場所。
白、白、白。
とにかく雪だらけだけど、地面はところどころ赤い。
兵士たちはみんな、おそろいの青い軍服をきている。
雪原で青い服ってめだちそうだと思った。だけど、意外とめだたない。雪の影が青っぽいから、とけこんでいる。
「ここは……」
さっき殺された場所の近くだ。でも、まったく同じ場所じゃない。
私の死体が消えて、とまどっている兵士が見えた。
「またすぐ死なれたら、つまらない」
なんて考えてそう。あの魔神。
「いたぞ! あそこだ!」
「ケガが治ってやがる!」
「整列! かこめかこめ!」
でも、すぐにかこまれてしまった。
ぐるりと長いヤリでかこまれた場合って、どうしたらいいの? オロオロしてたら、おなかと背中をグサグサやられた。
だけど、こわれたのはヤリのほう。雷竜のロープに負けて、こなごなにくだけていく。
「顔だ! 頭をねらえ!」
あっ、それはこまる。
ロープのフードをかぶったけど、顔面に矢がささってダメだった。
「3回め」
魔神のカウント。
にたような場所にもどされた。
「あそこだ!」
すぐ見つかった。
こんどはさっとフードをかぶる。剣で斬りかかってきたのを右腕で受け止めた。
エドラのおかげだ。
どうやって動けばいいのか、なんとなく体がおぼえてる。
だけど……頭で考えてなかったせいかな。とうとうやってしまった。
私……人を殺した。
受け止めた剣がくだけちるより先に。虫をはらうように手をはらったら、うでがあたって。兵士の頭がつぶれてしまった。
こんなにあっさり。
べつにこの人のこと嫌いじゃないのに。うらみもなんにもないのに。どうして魔神の頭を使って戦ってたのかも、しらない。名前すらしらない。
「ごめんなさい」
「うわああああああ!」
仲間が死んだからか、男がパニックになって斬りかかってきた。
ちょっとジャンプしただけで高く体がまいあがる。
男が空ぶりしてつんのめってるあいだに。私は上空で2つのこぶしを合わせてふりおろした。
「あれ?」
ちゃんとねらいどおり男の頭にあたったのに。ぜんぜんきかなかった。
彼はほんの少しひるんだだけ。
すぐに剣のきっさきで私の首をつらぬいた。
「4回め」
魔神のカウント。
◆
「あ、そっか。手はすでだった」
ゾンビになってからちょっと強くなった。でも、私の攻撃力と防御力はそんなにない。せいぜい、きたえてる成人男性くらい。
まともに戦いたいなら、竜装備をちゃんと使わないと。ローブでおおわれてるところと、ブーツのとこだけ強いんだから。
「うしろだ!」
また見つかった。
「行け!」
兵士たちの背後から、のそりとなにかが姿をあらわした。
雪みたいにまっしろな、モンスター。
ふわふわの毛皮で全身おおわれてる。だけど、手足には毛がない。四つ足で歩いてるけど、なんだかサルみたいな動き。顔は金色の目玉が1つ。その下に、顔の半分くらいある大きなくち。
みんなおそろいの、青い首輪をつけていた。
ぜんぶで10頭くらい。数は少ないけど、力が強そう。
思わずあとずさりする。
だけど、目があったとたん。1つ目たちは動きを止めた。
毛がブワーッとさかだってる。なんかガタガタふるえてるし。さっきまでニヤニヤしてたのに、こまり顔になってた。
あきらかにおびえてる。
「クーさまの匂いでもするの……?」
それとも竜の気配かな?
私に近づこうとしないモンスターたち。
それをみて、近くの兵士たちが号令をだした。
「どうした!? 行け!」
「殺せ!」
この人たちだけ、腕に赤い布をまいている。
彼らがモンスターを調教したのかな? どうやったんだろう。場合によっては、私ともなかよくなれる?
ちょっと期待したのに。
テイマー(調教師)が1つ目のおしりをなぐった。
「おそえ!」
「ギャンッ」
トゲトゲつきのこんぼうでなぐったものだから、血がにじんでる。ふだんからボコボコなぐってるんだろうなぁ。すごく手なれてた。
怒った1つ目がテイマーの右肩にかぶりつく。
「ぎゃあああ!」
テイマーはとてもびっくりした顔してた。
「はなせ! はなさないと殺すぞ!」
彼らは必死でなぐり続ける。
だけど魔物はキバをはなさない。他の1つ目たちは、ビクビクしながら見守っている。
「もういい! 7番! おまえは処分だ!」
1つ目の青い首輪が赤く光り、きゅっとちぢんだ。
「ギッ」
首がしまる、なんてレベルじゃない。
ちょんぎろうとしてるってくらい、首輪がちぢんでる。
魔物はたまらず雪原にたおれた。あわをふきながら、ジタバタあばれている。テイマーは彼めがけてヤリをふりおろした。トドメをさす気だ。
……なるほど、なるほど。やっぱり人間とモンスターの関係ってこんな感じなんだね。
なかよくなんて、なれそうにない。
私は白いモフモフの胸にとびのった。背中にヤリがあたった感触。でもすぐこわれたみたいで、大したことなかった。
それより1つ目の方がこまる。
「ギャオウ! ギャオオオオオオッ!」
すごくおびえてる。テイマーたちより私がこわいみたい。
でたらめにあばれて、ふり落とそうとしてる。
「ちょっとじっとして!」
つぶされるまえに、なんとか首輪をひきちぎった。
トゲトゲがびっしりついてたから、手にたくさんささった。両手ボロボロだけど、やったかいはあったみたい。
首輪がとれたとたん、魔物はあばれるのをやめた。
「大丈夫?」
大きな目玉がこちらを見上げる。
でも、返事は聞けなかった。
動きまわってる間にフードがぬげてたみたい。トゲトゲハンマーでなぐられたのかな。
背後から頭をつぶされて、意識がとだえた。
「5回め」
魔神のカウント。
◆
1つ目があばれてる。
さっき首輪をとってあげた子みたいだ。テイマーたちがよってたかって攻撃してる。でも、あの子も負けてない。パンチ1つで2人殺した。
まともに戦ってたら、3回くらい殺されてたかも……。
「バケモノめ! 何度もよみがえりやがって!」
ボーっとしてたら、なにかパチンと背中に当たった。いたくもかゆくもない。
ふり返ると、魔法使いの1人が雷竜の杖をかまえていた。ずっとほっといてたから、とられちゃったんだ。
だけど、ぜんぜん怖くない。
雷竜のローブをきてる私に電撃は効かない。それに、エドラがあの人のいうことをきくと思えない。
「クソッ!」
何度も電撃をはなってから、効かないことに気づいたみたい。
魔法使いはするどく杖を投げてきた。
エドラがやってたやつだ。彼女のときはすごい威力だった。次々と敵をつらぬき、殺していったっけ。
「おかえり、エドラ」
私は杖にむかってそっと手をのばす。
杖は手前でふっとスピードを落とした。ころんと手の中におさまる。
「なぜだ!?」
魔法使いがさけぶ。
「だってこの杖、魂やどってるから」
攻撃魔法だと思う。
次から次へと氷のかたまりがとんでくる。とがっててするどくて、まるでたくさんのナイフみたい。
それをかわしながら、杖に話しかけた。
「エドラ、お願いがあるんだけど」
杖の先っちょがぐるんとこちらをむく。
ちょっとグロ……ごめん、なんでもない。杖の先、竜の目玉にあらためて願う。
「モンスターたちの首輪だけこわしたいんだ。できる?」
いいよって感じに目玉が笑う。
目玉だから、くちなんかないんだけど。優しい感じになったから、たぶんオッケーのはず。
私は両手で杖を高くかかげ、ふりおろした。
光耐性がついてなかったら、目がチカチカしてたと思う。とても細い。小さなカミナリがあちこちに走る。枝分かれする光みたいだった。
1つ目たちの首輪がボロボロととれていく。
テイマーたちがひるむ。
「首輪が!」
それからは速かった。
いままで大人しかった1つ目たちが、いっせいにあばれた。テイマーは少なかったから、すぐ全滅。モンスターたちが兵士や魔法使いもたおしていく。
「うわああああああああ!」
「ぎゃあああああ!」
あちこちで悲鳴がとどろいた。
ずっとひどいあつかいされて、うらみがたまっていたみたい。
最高の笑顔で大虐殺を楽しむさまが、まさに魔物って感じ。お仲間とはいえ、ちょっとひいてしまった。
「この……バケモノめ!」
ふり返ると、オノをかかえた戦士。
あっフードかぶるの忘れた。また首を斬られる。
ヤダなあって思ってたら、1つ目が彼をパンチした。
軽くなぐっただけなのに、さすが魔物。戦士がふっとび、木にたたきつけられて死ぬ。
近くにいた人間をねらっただけだと思った。
でも、ちがったみたい。
「ウガッ」
モンスターはニコリとほほえんだ。
ふわふわのおしりには血のにじんだ傷。
他にもケガしてる子はたくさんいる。だけど、その傷の位置は……私が首輪をひきちぎった子のような気がした。
「たすけてくれたの?」
「ウッガ、ウッガ」
1つ目はニコニコして、私の前に立ちふさがる。四つ足で歩いていたのに。上半身をおこして、人間たちを威嚇した。
まるで、兵士たちからかばうように。
さっきからずっと、さめない悪夢の中にいる気分だった。
だけど、この子のおかげでちょっとだけなごんだ。
「ありがとう。でも大丈夫だよ。もう終わらせるから」
私は大きく息をすって、さけんだ。
「ねえ、あなたたちの中で1番えらいのはだれ!? 話がしたい! 私ムダに殺したくない!」
彼らはザワついて、それぞれの顔を見くらべる。
「指揮官は?」
「どこだ?」
「ポートマスさま!」
「もう死んだんじゃないか?」
「ちがう! 俺は見てたぞ! あいつは逃げた! 俺たちをおいて逃げたんだ!」
あたりがしんと静まり返った。
さっきまで必死に私や魔物たちと戦っていたのに。
彼らの顔は青ざめて、泣きそうだった。
みんないい歳したおじさんたちなのに。親にみすてられた子どもみたいで、胸がいたんだ。
そのおかしな空気が伝わったのか、魔物たちまで攻撃を止める。
「逃げて!」
このチャンスを逃がしちゃいけない。
「私はこのホネをもらえたらそれでいい! 逃げるなら殺さないし、攻撃もしない! みんな逃げて!」
兵士たちはおたがいの顔を見るばかり。
だれも逃げようとしないから、私は杖を強くついた。
「さっさと逃げなさーい!」
天から雷が落ちた。
暗い空を明るくてらし、雪も大地もきりさくような。爆発みたいな大きな音がひびいて、大地がゆれる。
ただのおどしの雷だったんだけど……エドラのサービスかな?
かつてない威力。
そのおかげだろう。兵士も魔物も、みんな逃げた。