36話 意外な味方

 ルファスと町を探索していたら、オズと遭遇した。お供を何人か連れている。
 おじさんばかりの兵士たちの中では子どもみたいに見えてしまう彼だけど、堂々としたたたずまいはどことなくカリスマ性がある。
 けっこう強いみたいだし、おじさんたちが大人しく従っているところをみると、やっぱりえらい人なんだなぁ。
 一番大きな館から出てきた彼は、こちらを見るとよってきた。
「ゲボクちゃん、答えは決まった?」
「答え?」
「君の装備をルファスに貸すって話」
 そういえばあったなぁ、そんな話。
「いいですよ」
「お断りします」
 私が答えると同時に、ルファスが横からきっぱり断った。
 え、私の装備を使うのが嫌ってこと?
「私の装備は臭くないよ! そりゃ毎日きてるけど私汗かかないし、お手入れくらいはしてるし!」
「そういう意味じゃないよ、ナナシちゃん」
 ルファスはそれだけ告げてオズをみる。
「この装備を手放したら、ナナシは無力です。無力なモンスターは協力するメリットがないとみなされて、殺されてしまうでしょう。だからお断りします」
「殺されるなんて、初耳なんだけど……装備だけ貸したら私は安全地帯でお留守番、みたいなこと言ってなかったっけ?」
 オズがあははと笑う。
「ゲボクちゃんはもっと人を疑うことを覚えた方がいーね! 装備だけ手に入れたら、ルファスが戦闘中で不在の時にでもぶっ殺すに決まってるじゃん」
 こ……こいつ……。
 怒りに震える私に、ルファスは申し訳なさそうに告げる。
「戦いなれてない君に戦えっていうのは不本意だけど、君は戦わなきゃダメだ。もっと活躍して、君を味方にするメリットを見せつけないと立場が悪くなる。ここで戦うのをやめたら、魔神の人質にされるだけだよ」
「……わかった」
 私の装備をルファスやオズが使えば、戦死者がぐっと減るかもしれない。
 それをわかっていて装備を貸さないのは罪悪感でモヤモヤするけど、私だって死にたくない。
「いまの内に戦いの基本くらいは教えてあげなよ」
 とオズが笑い、声をひそめてルファスに顔を近づけた。
「態度にも気をつけた方がいい。おまえゲボクの味方しすぎて要注意人物あつかいされてるぞ。上官たちの前では騎士らしい態度をとるとか、もっと上手く立ち回りなよ。あとゲボクも。アルバ帝国が合流予定だから、気をつけないとその場で処刑されるぞ」
 ルファスはにっこりとほほえんだ。
「かしこまりました。ご忠告感謝いたします」
 オズはさっさと立ち去ってしまい、ルファスがこちらをふり返る。
「いますぐ特訓しよう、ナナシちゃん」

◆

 ユーグリアス王国の王さまは変わり者で、身分制度や差別、奴隷をなくそうとがんばっている人らしい。
 反対が多すぎてなかなか改善されていないけど、そのおかげで上下関係なども他国に比べればゆるい方。
 それプラス、オズたちは全滅寸前のところを私とルファスに救われた。
 だからいままで無礼な態度をとっても許されていたらしい。
 しかし援軍が増えたし、合流予定のアルバ帝国は上下関係や身分差がとても厳しいところ。
 これからはもっと丁寧な態度をとる必要があるそうだ。
 具体的には、人と話すときは地面にひざをついてうつむき、敬語を使うこと。
「この奴隷の首輪さえなければ平民相手の時はふつうにしてていいんだけど……」
 とルファスが眉をひそめる。
「やっちゃったものはしかたないよ」
「他人事みたいにいわないでナナシちゃん……あと、僕もいちおう貴族だから、人前ではそういう対応をしてね。2人のときはいままでどおりでいいから」
「うん、もっと他人行儀にしないとルファスに迷惑がかかるんだよね。気をつける!」
「ごめんね。君はもっと英雄あつかいされてもいいくらいなのに、モンスターで魔神のゲボクだからってこんなあつかいされて……かわいそうに」
「いや迫害するのに十分な理由だと思うよ?」
「迫害されていい理由なんかない」
 断言するルファスがまぶしい。
「でもルファスだってモンスター殺すじゃん」
「ナナシちゃんみたいに和解できるモンスターなら殺さないよ」
「じゃあ魔神は?」
「一瞬みただけだから、もっと話してみないとわからないかな」
「そう……」
 クーさまの態度しだいでは、ルファスが仲間になってくれる可能性もあるのかな?
「それと、ナナシちゃんはたぶん誤解してるけど、オズは君の味方だよ」
「え!? どこが!?」
 オズと仲悪そうだったルファスがこんなことをいうなんて。
「悪ぶった態度をみせるのは、姫や他の騎士たちに自分は中立だってアピールしてるからだと思う。さっきオズがいっていたように、僕みたいにおおっぴらにナナシちゃんの味方をすると他の仲間たちから反感を買って孤立してしまうから」
「ごめんね、私をかばったせいで」
「それはいいんだ。オズは中立をアピールしながら、上手く君への待遇が良くなるように裏でがんばってるんだよ」
「でも、装備を盗もうとしたし」
「殺そうとはしてないよ。殺すつもりなら、姿を隠して忍びこんだときにすぐやってる。オズは状態異常魔法の使い手みたいだし、あの距離なら雷竜の杖で反撃される前に殺せるし、無理やり君を脱がしてうばえたはず。なのに僕がたずねていくまでなにもしなかった」
「たしかに……」
「あのとき僕がナナシちゃんを助けた行為も、騎士団への反逆行為として追放や降格処分にされてもおかしくなかった。1発殴るだけで許してくれたオズはとても優しい」
「う~ん……そういうもの? でもついさっき、ルファスに装備を貸すようにそそのかして私を殺すつもりだったって言ってたよ?」
「僕がいっしょに聞いていた以上、僕がナナシちゃんを止めることはわかっていたはずだし、本気じゃない。警告みたいなものだったんじゃないかな? これから先、オズ以外の上官からあんな提案をもちかけられる可能性は高いから」
 私が考えもしなかったことを次々指摘されて、目からウロコが落ちそう。
「オズって意外といい人……?」
「それでも、姫や上官たちの命令には逆らえないから、完全には信用しちゃダメだよ。僕のこともね。僕1人だったら命令にそむいてでも君を逃がしてあげたいけど、僕には故郷に残してきた母がいるから。母の安全を確保するまでは、あまり無茶はできない」
 まさか、場合によっては私のせいでルファスのお母さんが処刑されちゃったりする?
 考えてぞっと血の気が引いた。
「ごめんね、いろいろ……私のことは考えずにちゃんと自分の保身を考えてね! 追放とか降格とかされるかもしれないんでしょ? お母さん大事にして!」
 ルファスがほほえむ。
「ユーグリアス王国と協力関係にある君の待遇についてちょっと口をはさむくらいは大丈夫。僕はこれでも上級貴族で黒ヒゲ騎士団の団長だから簡単には殺せないし、彼らの命の恩人らしいから。あとは戦場で役に立ってれば、まず処分なんかされない」
 細マッチョというか、男にしてはほっそりと中性的な身体つきなのに、やたら頼もしい。
 顔も化粧が似合いそうな感じだけど、そういえばスカルコーン戦のときめちゃくちゃ強かったっけ。
 エドラのときはあんまり強い印象なかったんだけど、あれは相性が悪かったのかな? それともエドラが強すぎたの?
「ルファスってえらい人だったんだね。オズとどっちがえらいの?」
 オズはハヤブサ騎士団の小隊長だっけ?
「僕が騎士団をひきいて行動してたら、現時点では僕が上。だけど、いまはハヤブサ騎士団や他の騎士団、平民の兵士たち混合軍に僕が参加してて、その現場指揮官の小隊長がオズだから、オズの方がえらいよ。もしかしたらオズは姫と結婚するかもしれないし」
「そうなの!?」
 オズの片思いかと思ってたけど、叶うかもしれないんだ。
 お姫さまはあんまりオズに興味なさそうだったけど、どう思ってるんだろ?
 恋バナにちょっとわくわくしていたら、いつのまにか町はずれについた。
「それじゃ、そろそろ訓練しようか」
 とルファス。
 少しはなれた場所では、他の騎士や兵士たちが訓練したり装備の手入れをしたりしていた。