39話 VS白ワイバーンwith青ザル

 2本の白い角。
 爬虫類特有の顔に、大きな口とたくさんの牙。
 水色の瞳に白銀のウロコ。雪に溶けこむような色をしたその生き物は、竜みたいに大きな2つの翼で空をびゅんびゅん飛んでいる。
 雷竜エドラとのちがいは、前足が翼と一体化していて、ちょっと小さいとこくらい?
 それでも後ろ足にあるするどいカギ爪は恐ろしい存在感だし、上にのってる青いサルが不気味だ。
 まっすぐこちらにむかって飛んでくる彼らはざっと見ただけで300匹くらいいそう。
 スカルコーンとエラーをたおせたんだから、ワイバーン1匹くらいならなんとかなったけど……。
 300匹なんてたおせる気がしない。しかもエドラはいま充電まち。
 死ぬじゃん!
 絶望で放心していたら、
「光魔法をツカウ!」
 スケアが鳴いた。
 いまから私とルファス、スケアの姿を光魔法で消す。
 だからルファスを攻撃しないように気をつけろ、と。
 姿を消していても足音や声、匂いや影は消えない。それになにか魔法を使ったり攻撃したり、負傷したりすると光魔法がとけて姿がみえるようになってしまう。
 じゅうぶん気をつけて敵から身をひそめ、杖でやつらを殲滅しろ。
 彼女はそう告げてすぐに呪文を詠唱した。
「わかりました!」
 とはいっても、エドラの充電が終わるまでなんにもやることないんだけど。
 虹色の光に身体がつつまれ、自分の腕や足、スケアが消えていく。
 これなら敵に攻撃されなくてすむかも。
 地上組も光魔法を使ったらしく、同じ色の光とともに姿が消えた。よくみると影が残ったままだけど、あれなら安心……って、消えてない人たちがたくさんいる!?
 特に目立つのはフリッツ司祭ひきいるなんちゃら騎士団の人たちだ。騎士団の名前はちらっとルファスに聞いた気がしたけど忘れた。
 司祭よりちょっと地味だけどおそろいの変な服をきて、おそろいの髪形をしているお坊さんグループ。
 一番後ろにいた彼らは、ささっと中央へ集まると、いっせいに同じ動きで踊りだした。
 20人くらいのおじさんたちがロングスカート姿で両手をたたき、くるくる陽気に回る姿は戦場でひどく浮いている。
 え、なに!? 混乱しちゃったの!?
 しかも大声でなんか歌ってる。
「ヤーレンヤーレンヤーレンヤーレンヤーレン……」
 ヤーレン?
 魔法使いの呪文は古代語とからしくてぜんぜん聞きとれないんだけど、なんかそれに似ている。
「讃美歌にヨル神の祝福ダ」
 スケアがつぶやく。
 直後、お坊さんグループから青い光がほとばしった。
 うわっ、まぶしっ!
 まっくらな夜空の下で光輝くそれは、周囲にいた人たちをつつんでいく。
 ケガ人を回復する魔法だったみたい。
 道ばたでたおれていた人たちがむくりと身体をおこし、あわてて態勢をととのえる様子がみえた。
「神をたたえよ!」
 フリッツ司祭が大声でさけぶと、黄金色の光が周囲にふりそそぐ。
 光をはなつ巨体は太陽みたいで、目がちかちかする。
 キュインッ!
「えっ?」
 司祭のはなった光につつまれて、エドラの杖が充電完了した。
 これはすごく助かる!
 しかも、地上組の武器がすべて同じ色に発光している。
 もしかしてこれ、全員に雷属性を付与してくれたんじゃないかな?
 すごいよ司祭さま! ただの怖い人じゃなかった!
「充電完了しました。いまから溜めます!」
「ギリギリまでタメロ」
 とスケア。
 エラーもそうだったけど、ワイバーンは手ごわいので一撃でたおすのは難しいらしい。
 どんどん近づいてくるワイバーンたちにおびえながら、ひたすら杖をぐるぐる回し続ける。
 地上組はシアーナ人が活躍していた。
 魔法使いである女性たちがどんどんイグルーを作り、みんながその中に隠れてハヤブサ騎士団が光魔法でイグルーごと透明にしていく。
 上空からの攻撃にそなえているらしい。
 なんていうんだっけ、こういうの。
 トーチカ? 防空壕?
 それの代わりだろう。
 いくら武器を雷属性にしたところで、上空のワイバーンには攻撃が届かない。
 だから、空を飛んでいるルファスと私ががんばってワイバーンたちをたおすか、地上へ落とすかしなきゃいけない。
 緊張している間に、ワイバーンがとうとう目の前までせまってきた。
 まだあっちには私がみえてない。私もまだエドラのチャージを続けている。
 風をきって旋回し、さりげなくワイバーンから遠ざかるスケアのすぐ横を、巨大な影が通過していってゾッとした。
「キキッ!」
 ワイバーンの上にのっている青ザルが大きな鉄のヤリを振り上げる。
 キインッと音がして、ヤリの周囲だけ気温が急激に下がった。
「キーッ!」
 サルがヤリをするどく投げた。
 小さな竜巻のように冷気をまとったヤリは空気を切り裂き、地上へ落ちていく。
 それはまだイグルーへ避難できていなかったシアーナ人たちのところへ突き刺さり、周囲にいたシアーナ人たちが5人くらい、一瞬凍った。
「あっ」
 思わず声を上げると、スケアが小声で告げる。
「ダイジョウブだ」
 その言葉どおり、凍ったシアーナ人たちはすぐに復活し、走って逃げだした。
 シアーナ人たちは生まれつき氷耐性があるから、氷属性の攻撃ならば深手にはならないらしい。
 でも、冷気は平気でもヤリが刺さるとどうしようもない。ヤリが当たったイグルーは粉々に破壊され、中にいた人たちはオロオロと逃げまどっている。
 あちこちのサルがいっせいにヤリを、弓矢をかまえた。
 銀色の武器がスコールのようにふりそそぐさまを想像してしまい、私は反射的にドラゴンスタッフをふるった。
 それはまるで嵐のような光景だった。
 チャージ中に呼びよせていた黒い雨雲から、ワイバーンと同じ数だけの雷が走り、青ザルもろともつらぬいていく。
 ワイバーンやサルの骨が一瞬浮かび上がったけれど、昼間以上にまぶしい光につつまれてあまり見えなかった。
 視界がもどったときには、私やスケアの身体の透明化は消えていた。
 大量の白ワイバーンと青ザルたちはけいれんしながらまっさかさまに落ちていく。
 どどどどど、と岩石のなだれがおきたような地ひびき。
 あちこちの地面へワイバーンたちが転がり、ぴくぴくとかすかに動いている。
 ただ、まだ死んでない。
 やっぱり何発か攻撃しないとダメみたいだ。
 地上組はいまがチャンスとばかりにワイバーンと青ザルに斬りかかっていく。
 巨体のシアーナ人兵士に混じって、それよりひときわ大きな男の姿。
 ヒーラーだと思っていたフリッツ司祭が、これまた巨大な鉄球のついた長い鎖をブオンブオンと振り回し、青ザルやワイバーンの頭を一撃で粉砕していた。
 赤い返り血をあびてガハハハハハハと狂ったように笑うその姿は、とても聖職者にはみえない。
 お坊さんなのに殺生していいの?
 と思わないでもないけど、まあ戦場だし。すごく頼もしいから、いいか……。
 ちなみに他のお坊さんたち……助祭っていうんだっけ? はすみっこで踊ってみんなを回復したり、補助魔法で強化したりしている。
 雷属性はやっぱり効くらしく、ユーグリアス人はもちろん、シアーナ人でも青ザルをたおせている。
 あっ、すごい。司祭が鉄球ふり回して一気に5匹くらいたおしちゃった。
 この勢いなら勝てるかも……。
 なんて考えていたとき、なぜか背筋にぞわっと悪寒が走った。
 なんだろ?
 安全な空中にいるはずなのに、なぜか怖くて気味が悪い。ヘビに食べられそうになってるカエルみたいな気分だ。
「ナナシちゃん!」
 地上組に混じってワイバーンを惨殺しまくっていたルファスがスケア2号にのってそばへもどってきた。
 彼が指さす先には赤く、丸い月が2つ浮かんでいる。
 2つ?
 月だと思っていたそれは、白目がなく、赤く光るモンスターの目だった。
 暗い空にうっすらとみえる白い肌。長くとがった耳。
 シアーナ人の特徴とよく似ているけれど、人間の肌というにはあまりに白すぎる。
 形のよい鼻にほほえんだくちびるからのぞく牙。
 青くて長い髪はあるんだけど、人間の髪とはあきらかに質感がちがう。カチコチで固そうなそれはまるでウロコか角みたい。実際に白い角も4本くらい生えている。
 白や青、銀色のアクセサリーを髪やおでこ、首とかにじゃらじゃらたくさんつけている。
 けれど、まるで空にあいた大きな穴から顔だけだしているみたいに、首から下の身体はなにもない。
 美しい青年のようにもみえるけれど、明らかに人間じゃないこの生き物はもしかして……。
「雪の王?」
 ごうっと、激しい吹雪があたりを白くうめつくした。