46話 VSガーゴイル

「せっかく持ってきてくれたのに、ごめんね」
 マッチョなちびっこたちが5人がかりでもってきてくれた巨大ハンマーは、重すぎてルファスにはあつかえなかった。
 彼はふだん魔法で身体を強化して戦っているけど、強化魔法にも限度があるらしい。
 この100キロくらいありそうなハンマーはシアーナ男性専用の武器といえるかも。
「なんだ、こんなのも持てないのか。外国の男は女みたいだな」
「すみません」
 ペインさんのちょっと失礼な発言をルファスは気にせず笑って流す。
 そういうペインさんは戦ってくれないのかな?
 大人のシアーナ男性だし、マッチョで強いはず。
 フードの隙間からこっそり観察してみたら、ペインさんは右腕と左足がなかった。ごめんなさい寝ててください。
「さっき大声をだしたから、のどが痛くて頭がくらくらします……」
 シスターマルティナは生まれつき病弱で、魔法を使うと気絶するらしい。
「俺たちも戦う!」
「ダメ」
 ルファスが即答した。
 男の子たちはまだ元気そうだけど、基本的にみんな飲まず食わずだからぐったりしている。
「おなかすいたよ~」
 特に女の子たちは歩く気力もなく、しゃがみこんでいた。魔法は使えるみたいだけど、さすがに小さい子を戦わせるわけにはいかない。
「みんなでわけて食べながら、まっていてください」
 ルファスが彼らに自分の携帯食をすべてあげているのをみて、あわてて私も自分の分をさしだした。
 ルファスが冗談っぽく笑って小声で耳打ちする。
「お腹がすいたら僕を食べてもいいからね」
「た、食べないよ」
 1度かじりついたら指1本とかじゃ我慢できそうにないし。
 とはいえなかった。

◆

 様子をうかがいながら外へでると、ガーゴイルたちは消えていた。
 おそらく体を保護色にして近くにかくれているんだろう。
 ルファスはさっそくガーゴイルを1匹みつけたようだ。
「僕がおとりになるから、ナナシちゃんは後ろからあいつに殴りかかって」
 ガーゴイルは全身が固い石でできた悪魔だ。
 ルファスは武器がなく手ぶら。
 防寒仕様のぶ厚い服を着ているとはいえ、ガーゴイルに噛まれたり引っかかれたりしたらひとたまりもない。
 まして、彼はもう蘇生できない。
 かといって、私1人でガーゴイルたちを全滅させられる自信はない。
「危なくなったら、すぐに教会へ逃げてね」
「ありがと、君もね」
 教会の前方に噴水がある。
 その中央に、銅像のふりをしているガーゴイルがすわっている。
 ピクリともしないけど、モンスター特有の赤く光る目はごまかせない。
 ルファスが辺りを警戒しながらじりじりと近づいていく。
 その間に、私もそうっとガーゴイルの背後へ移動する。
 教会の人たちには、「危ないから窓に近づかないで。物音がしても外をのぞいたりしないように」とルファスが伝えていたし、もうフードをとっても大丈夫かな。
 フードをとって杖をかまえると、ルファスがうなずいた。
 道ばたの小石をひろい、ガーゴイルめがけて投げる。
 しかし傷一つつかず、ガーゴイルは怒って翼を広げ、ルファスにむかって飛びかかろうとする。
 その隙に、背後から私が杖をふりかぶった。
 びっくりするくらいあっけなく、ガーゴイルの全身はバラバラになってくだけちった。
「し……死んだの……?」
 脳天から打ちくだいたのに、ほとんど手ごたえがなかった。
 それだけエドラが固いってこと?
「やったねナナシちゃん。この調子でいこう」
 ルファスが笑顔で告げて、ふと考えるようなそぶりをする。
「何か変だと思ったら、この町だけ雪がふってないし、つもってないんだ。ガーゴイルには雪だけでもダメージになるから、ここだけ雪がふらないように雪の王が調整してるのかもしれないね」
「へー、器用だね?」
 それからサクサクとガーゴイルを撲殺していき、10匹くらいやっつけた。
 背筋がざわざわするような殺気が減っていき、ずいぶんと町が静かになった。
 あちこち探しまわったけど、どこにもガーゴイルがいない。
「もういないのかな?」
「いや、僕がみたときガーゴイルはあと3匹いた。どこかにかくれて」
 ルファスの言葉の最中で、私たちの頭上に大きな影がかかった。
 残り3匹のガーゴイルたちがいつのまにか私たちをとりかこんでいて、空中から襲いかかってきた。
 右左まん中。するどい石の爪をふりかざし、大きな口を開けた怖い顔の悪魔がふってくる。
「う、うわあああああああ!?」
 つい頭がまっ白になってさけんでしまったとき。
――伝説の英雄黒ヒゲ男爵は神からさずかった聖剣を1度投げるだけでなんとかかんとか。
 走馬灯のように、ジーク隊長に聞いた豆知識が脳裏をよぎった。
 こーすればいいの!?
 とっさに私をかばったルファスを突き飛ばし、えいやっとエドラをガーゴイルめがけてぶん投げると、闇夜を切り裂くように雷光が走った。
 まばたき1つするよりも速く、杖はガーゴイル3匹の腹部をつらぬき、ご丁寧に頭まで破壊して私の足元の地面へぐさりと突き刺さってもどってきた。
「ほ……ほんとにできるとは思ってなかった」
 エドラめっちゃ賢い。
 ぺたんと地面にしりもちをつくと、同時にガーゴイルの破片がふってくる。
 これ、食べたら魔力になるかも……。
 あーんと大口を開けると、いい感じに入ってきた。
 パチパチしててなんか不思議な触感だけど、甘いしアメみたい。
「それ食べて大丈夫? お腹こわさない……?」
 心配そうにルファスに聞かれて我に返った。
「食べてない! なにも食べてないよ!?」
「そう?」
 ルファスが笑っておこしてくれた。
「突き飛ばしてごめんね」
「いいよ、それよりいつのまにそんな新技を編み出したの?」
「エドラが勝手にやってくれました」
 そんな生ぬるい会話をしながら教会へもどると、異変がおきていた。
 ただならぬ雰囲気で、シスターとペイン、子どもたちがだれかをかこんで泣いている。
 フードを被りなおしたからよくみえないけど、ケガでもしたのかな?
「どうしました?」
 ルファスが近づくと、みんなが口々に彼に訴える。
「トリルの意識がないんです」
「寝てると思ってたけど、様子が変で」
「おきないの!」
「水や食べ物をあげてもこぼしちゃうし」
 ルファスはたおれている子の口元と首筋に手をあて、閉じたまぶたを軽く開いた。
「大丈夫、まだ生きてる。僕たちがこの子を連れて味方と合流します。そこには司祭さまがいますから、万が一のことがあっても蘇生できます。この子の親はいますか?」
 マルティナが首をふる。
「両親は徴兵されて戦争で亡くなりました。ここにいる子たちはみんなそうで、私が親代わりです」
「そうですか、できればつきそって欲しかったのですが、全員は連れていけません。子どもたちを置いていくわけにもいかないし、この子だけで……」
 ルファスのそでを女の子がくいくいと引いた。
「アンナ、ついてってあげる。ペインいるけど、マルティナ体弱い。ダメ。アンナ元気」
 10歳くらいの女の子がか細い声で告げる。健気だ。
「君も元気がなさそうに見えるけど……」
「その子はもともと大人しいんです」
 とマルティナ。
 アンナは子どもたちの中で最年長の7歳で、お姉ちゃん的ポジションらしい。
 やっぱりシアーナ人はみんな大人びてる……。
 おきたときトリルが寂しがるからそうして、とみんなが言うので2人を連れて帰ることになった。
 残されたみんなには救援物資が届けられる予定だ。
 そんなわけで、さっさとグリコの町のオーブを破壊しなければならない。
「僕たちがこの町に来た目的はオーブを破壊することなんです。いそいでオーブを探さないと」
「オーブですか? それなら教会にありますけど……」
 マルティナの一言にひょうし抜けした。

◆

 バタバタしていたからあんまり目に入ってなかったけど、ここの教会はすごく美しい建物だった。
 柱、天井、床、壁。
 建物すべてに細かくて正確な彫刻がきざまれ、絵や模様がえがかれている。
 床も宝石みたいにキレイな色つきの石をしきつめて作られていて、ピカピカだ。
 ところどころ黄金細工のものもある。
 私、金ってみたの初めて。
「この教会は失われた古代技術で作られたもので、私たちもどうやって作るのかわからないんです」
 マルティナに案内された大聖堂の奥には、純金の女神像が立っていた。
 虹を閉じ込めたみたいに光る水晶玉を胸にかかえている。
 それをそっと手にとって、マルティナはルファスへわたした。
「あなたたちは恩人です。女神様もきっとお許しくださるでしょう」
「こんな美しいものを壊すのは気が進みませんが……すみません」
 教会を汚してはいけないからと、ルファスは外へでてからオーブを破壊した。
 オーブを噴水の石にたたきつけたとたん、視界のすべてが光につつまれた。
 ローブで顔をかくしていてもまぶしい。
 目を閉じてもまぶたの上からわかるほどの明るさがすぎると、空に異変がおこった。
「なにあれ」
 おそろしく大きく、半透明のカーテンみたいなものが空に広がり、虹色に発光しながらゆらめいている。
 まっくらな闇夜に広がる虹色のカーテンは息を忘れるほど美しかった。