49話 作戦会議

 音もなくあらわれた青年をみて、一同が姫をかばうように動く。
 魔神はそんな彼らを気にもせず続けた。
「ゲボクを通しておまえたちのことはたまに見ていた。いまさら名乗る必要もないだろ? さっさと雪の王をたおすとしようか」
 一瞬だけあらわれた黒い炎は彼の影のようにおさまった。
 いまは牙も羽もないのに、どうしてもふつうの人間にみえないのはなぜだろう。
 ゾッとするほどの美貌のせいかとも思ったけど、それならお姫さまだって負けてない。
 なんというか……目には見えない魔性の気配が全身からにじみでているからかも。
 ちょっと目をはなしたすきに、バケモノの姿に変わっていそうな怖さがある。
「あとはクーさまがぜんぶやってくれるんですか?」
 ひゃっほうとばかりにはしゃいだら、顔面を片手でわしづかみにされた。
「そんなわけないだろ。俺はまだ封印中の身だ。働け、ゲボク」
「やめて、頭蓋骨つぶさないで」
 べつに痛くないけど、骨がミシミシいってるよ!
 クーさまがそっけなく手をはなすと、ルファスがよってきた。
「大丈夫!?」
「脳みそがこぼれてなければ大丈夫」
 うんとうなずくと、クーさまは眉1つ動かさずしれっとつぶやく。
「ちょっとなでただけだ」
 顔つかんでたけど!?
 ルファスは優しげな眉と目をつり上げて間にわって入った。
「女の子相手に乱暴な人だな。このまえと姿がちがいますけど、あなたは本当に」
「ああハイハイ。これで満足か?」
 クーさまは顔だけ元のオオカミに変えてみせた。
 オオカミといっても犬みたいなのじゃなくて禍々しいやつだから、一気にバケモノ感が増す。
 ルファスが黙ったのをみて、クーさまが切れ長の目を細める。
「そういえばおまえはゲボクに色々と優しくしてくれていたな。まだ雪の王と戦うときに働いてもらわなければいけないし、なにか加護をつけてやろう」
 うーん、顔がケダモノになっても声がセクシーすぎてなぜかカッコイイ。
 クーさまの俺様な性格はともかく、見た目と声は好きだなぁ。
「魔神の加護なんて……なにか見返りを求められるんじゃないですか?」
 警戒するルファスに、クーさまは笑みを深める。
「俺の加護を使うたびに少し魔力を頂くだけだ。いま使っている炎の精霊の加護と変わらない」
 いいながら、彼はなにもないところから剣をとりだした。
 うっすらと青い輝きをはなつ、キレイな剣だ。
 大きすぎず、小さすぎず、ルファスによく似合いそうな清楚なデザイン。
「ほら、これをやる。加護つきのミスリルブレイドだ。これならボキボキ折れないから、ろくな剣をもってないおまえにはぴったりだろ」
「……ありがとうございます」
 ルファスが剣をいろいろと観察していたら、お姫さまが口を開いた。
「わたくしにも加護をいただけませんか? 自分や民の命運がかかっているというのに、なにもしないではいられません」
「ドロシーさま! 姫というのはそういうものです! 革命軍は姫がやられたら負けなのですから、安全なところに引っこんでいてくれるのが一番なんです!」
 カーライルが顔色を変える。
「嫌なこというけど、戦いなれしてない姫が前線にでたところで役に立つとは思えないしね」
 とオズもしぶい顔。
「心配せずともおまえたちにも加護をつけてやる。特に姫の魔力は使えるからな。雪の王の攻撃を防ぐ盾役になってもらおうか」
 クーさまのまさかの発言で、室内はしばらく大騒ぎだった。
 一番守らなきゃいけないお姫さまに盾役ってまずくない?

◆

 クーさまの話というか、命令はこうだった。
 雪の王をたおす魔法を使うには時間がかかる。
 だから準備ができるまで、私たちが時間稼ぎをしろ。
 とはいっても私はクーさまに体を貸すから、実質今回は戦闘不参加。
「いまのままじゃダメなんですか?」
 魂だか幽体だか精神体だかしらないけど、物にさわれるレベルで実体化してるんだからいまのままでも戦えそうにみえる。
「この状態だと常に魔力を消費するから、温存したい。雪の王をたおした後は俺はしばらく眠るから、王妃をたおして俺の頭をとりもどすのはゲボクの仕事だ。王妃は俺の頭を使って攻撃してくるだろうが、ゲボクなら勝てるはずだ」
「えっ、私あんまり自信ないんですけど……」
 がんばるけどさ。
「ゲボクは俺のゲボクだから大丈夫だ」
 意味がわからないよ。
 いままでずっと弱い役立たずといわれ続けてきてるのに、急に勝てるといわれても。
 とまどっている内に彼は話を進めてしまった。
「俺が雪の王をたおすまでにかかる時間は30分だ。持ちこたえるには雪の王と同じ氷属性の結界をはって防ぐのが1番良い」
 革命軍にはシアーナの一般市民も大勢参加しているけど、彼らは弱く全員を守れるような結界は張れない。
 だからこの場でもっとも魔力の高い姫に魔神の加護をつける。
 そうすることで市民たちと協力し、強い結界をはれるという。
 ちなみに、魔力をもたないシアーナ男性や他の兵士たちも役割があるらしい。
「雪の王は氷属性のモンスターを無限に生み出し、したがわせることができる。そいつらは結界で弾けないからしっかりたおせ」
 とクーさま。
「ちょっとまってよ! 無限っていった? たおしてもキリがないやつらを30分ずっとたおし続けろってこと? しとめるのに時間がかかったらどんどん増えていくじゃん」
 思わず、といった風にオズが問う。
「やつは頭と両手がそろっている時しか魔法を使えない。ザコがうっとうしいならどれか壊せばいい。それもそのうち再生するが」
 やつをたおすには、再生するヒマなく3つの部位を破壊しなければならないと彼はいう。
「……クーさま、なんでそんなに雪の王に詳しいんですか? シアーナの人たちより詳しいような」
「100年くらい前、俺が封印されるときに戦った相手の1人だからな。よく覚えてる」
「あ、そっか! クーさまが昔負けた相手なんですね!」
「脳みそぶちまけたいのか?」
 ゴキリと魔神が右手を鳴らす。
「ごめんなさいごめんなさい」
 ルファスの後ろに避難すると、考えこんでいたスケアが口を開いた。
「雪の王は上空に浮いています。空を飛べる私ならともかく、他の兵士たちではそもそも攻撃が届かないのでは?」
 彼女が分身しても、乗せて飛べるのは良いとこ4人が限界だ。
 クーさまはこくりとうなずいた。
「そのための力をあたえてやる」
 みんな、心なしか顔色が悪い。
 魔神の力を頼ると決めたものの、やっぱりけっこう不安みたいだった。