53話 ゲボクのささやき

 私の故郷マロボ島には村が2つあった。
 リーナがすんでたニヘンナ村。もう1つは私がすんでたビエト村。

 ニヘンナ村は焼けてしまって、みんなひっこしたらしい。

「ビエト村は……モンスターのむれにおそわれたんだって」

 リーナがくわしく教えてくれた。

 大群におそわれて、なすすべもなく。たくさんの人が亡くなったそうだ。
 ちょっとでも生きのこれたのが奇跡だとか。

「アーちゃんのお父さんとお母さんは無事だよ。でも、そのときにアーちゃんが殺されたって。ビエト村の人たちがいってた。本当はピスキーにさらわれてたんだね。あそこ森もあるし」

 生きててよかった、と彼女は涙ぐむ。

「……」

「ビエト村とニヘンナ村。どっちもボロボロになっちゃったから、いまはみんないっしょにすんでるの。イタラ村っていうんだけど」

「……」

「ニヘンナ村の人たちにみつかるとまずそうだし……よかったら、アーちゃんのお母さんたちだけ呼んでこようか? 1人ずつ呼びだして話せば、誤解されないかもしれないよ」

「……そうだね。お願いしてもいい?」

「もちろん! じゃあ、さっそく行ってくるね。ここでまってて」

 リーナは林の奥へと消えて行った。
 それを見とどけてから、私は2人をふり返った。

「ねえ、私ってピスキーなの?」

 ルファスが眉をさげる。

「わからない。さっきの彼女もいってたけど、ピスキーってなに?」

「この島にすんでる妖精だよ。子どもをさらってとりかえたり、人を迷わせたりする……」 

 説明すると、メルズークが笑った。

「ちがうよ。ボク、ピスキーは見たことないけどさ。他の妖精やチェンジリング(とりかえられた子ども)は見たことある。君とはぜんぜんちがうよ。だってお嬢さんはどう見たってゾンビ系だからね」

「ゾンビ……」

 それはそれでヤだな。

「僕には人間と変わらないように見えるよ。メルズークさまは神族だから、人とは見えるものがちがうんだ」

「フォローありがとう、ルファス。もう妖精でもゾンビでもどっちでもいいけどさ……リーナがいってたニセモノって私のことじゃないかな? ニヘンナ村を燃やした記憶があるわけだし。自分のこと人間だと思ってるだけで、本当は……私”アカネ”じゃないのかな?」

 私って、人間を殺そうとして人間に化けてるモンスターなの?
 もうなにが本当なのかわからない。

「それはちがうよ。記憶を失くすまえにあったとき、君は元人間だっていってた。魔物におそわれた村をすくうために、魔神と契約して魔物になったんだって」

 緑の瞳がこちらを見つめる。どこまでも優しい声をきいていると、少しおちつく。

「だったとしたら、なんでニヘンナ村をおそったの? 魔物になったから、リーナをさらって食べたくなっちゃったの? というか、そもそも魔物の自覚がまったくないよ。だってどうみてもただの人間だし!」

 ……やっぱり、おちつくとかムリ! だってなにがなんだかわからない。生きてていいのか、死ぬべきなのかすらサッパリだよ。

「おちついて、アカネちゃん。ぜったいなにか事情があるはずだよ。すべての記憶をとりもどすまでは、ヤケにならないで。なにがあっても僕は君の味方だから」

「ルファス……やさしいね」

 なんていい人。なぜ恋におちないのか、自分がふしぎだよ。
 好みのタイプの美少年だし、やさしいし。好きにならない理由がない。目があっただけで胸キュンレベル。

 ……なのに、なぜか「好きになっちゃダメ」と感じる。なんで? モンスターと人間だから?

『もっと大事なひとがいるからだよ』

 一番つらかったとき、そばにいてくれたひと。私のみにくい心もぜんぶしってるひと。
 そんな答えが頭に浮かんで、ドキッとする。

 なくした記憶の中の、もう一人の私に話しかけられた気がした。

「じゃあ、足でも切ってみる?」

 メルズークがいきなりそんなこというから、逆に冷静になった。
 なにをいってんだこのネコさまは。

「大神官さま?」

 ルファスが彼をにらむ。
 白ネコはヘラヘラと答える。

「いや、まじめな話ね。手でも足でもいいから切ってごらんよ。自分がゾンビだってすぐわかるから。ゾンビに痛覚ないから痛くもないし。お嬢さんはちょっと特別なゾンビみたいだけど、たぶんそこはいっしょでしょ?」

「リスクが大きすぎます」

 とルファス。

「手足切るのはこわいよ」

 私もうなずく。

「そう? ゾンビの最大の長所って、致命傷でも平気で動けることだと思うけどね。ゾンビなら、なれておいた方がいいんじゃないかい?」

「……」

 自分が魔物かどうかたしかめられるなら……指の1本くらい、切ってもいいかな?

「アカネちゃん。上級ポーションもないのに、そんなことしないで。ずっと治らなかったらどうするんだ」

 まるで自分がやられるみたい。心配そうな顔されて、申し訳なくなった。

「そうだね、やめとく。痛くて治らないって可能性もあるし」

「ないない。君はぜぇ~ったいゾンビだから」

 メルズークがしっぽをゆらす。
 なんか腹たつから、しっぽをつかんでやった。……つもりだったけど、直前でヒュッとかわされた。

「やめてよ、エッチ」

 流し目でクスッと笑われて、はずかしくなる。

「しっぽってエッチな場所なの……?」

 小声でルファスにきく。

「おしりみたいなものなのかも」

 彼もよくわからないらしい。

 そんなこと話してたら、草むらの方から物音がした。
 リーナがもどってきたんだ。

 私は小声で彼らにきく。

「ゾンビとかよくわかんないけど、お父さんとお母さんには会いたいの。無事かどうかしりたいし、話してきていい?」

「わかった。僕はここで大神官さまとまってるよ。なにかあったらさけんでね」

 ルファスがほほえんだ。メルズークはしっぽをゆらゆらさせる。

「人間を傷つけるんじゃないよ。魔物と人間があらそった場合。たとえ人間が悪くても、ボクは人の味方をしなくちゃいけないんだから。ていうかルファスも本来はそうなんだけどね。ちょっとまえまでルールにきびしかったカタブツくそまじめ騎士さま? いまは不良騎士さまかな?」

「はあ。そんな風に見えましたか? 僕は自分の騎士道精神に反したことなんて、ありませんけど……」

「行ってきま~す」

 話し続ける2人をほっといて、私は草むらへはしった。

「リーナ!」

 おさななじみの少女がいると思っていたのに。
 いきなりお母さんと目があって、ヒヤッとした。

「キャアッ」

 腰までとどく、長い赤髪。黄緑色の瞳。
 色だけだったら、私とそっくり。だけど顔はぜんぜんにてない。

 いま何歳だったっけ? 34?

 久しぶりに見た母は、記憶の中よりちょっとふっくらしてた。まえはもっとやせてて、いつもキゲンが悪そうで。お父さんのまえでだけニコニコする。そんな人だった。

 でも、なんか……ふんいき変わった? ずいぶん表情がやわらかくなってて、幸せそう。

「お母さん」

 声をかけると、彼女は眉間にしわをよせた。