58話 悪魔オトバス召喚


 ようやくめまいが治まった。
 目をあけてまず見えたのは、たくさんのジャガイモ……いや、岩? ジャガイモそっくりの巨大な岩だ。

「ここどこ?」

 あたりすべて砂の山。おなじ色の砂山があったり、岩があったり……。そんな茶色いところを、虫がたくさん歩いている。

 逆立ちして岩を足でころがす、変わった虫だ。

 コガネムシやカナブンとにてるけど、色はレインボー。タマムシやニジイロクワガタみたいな色だ。そしてでかい。馬かな? ってくらいでかい。

「南国サファルカ。俺の両足が封印されてる場所……さっそく見つかったな」

「えっ?」

 クーさまが鼻先で虫をしめす。

「カラスナベケペ」

 なにその舌かみそうな名前。
 カラなんちゃらっていう虫たちがこっちをむく。

 ブブブブブブブブブブブブブブブブ!

「キャーッ!?」

 彼らはすばやく羽ばたいて飛んできた。すごく●キブリっぽい。やめてええええこっちこないでえええ!

 かと思ったら、岩をけっとばしてくるやつもいる。両手両足で岩をつかんで空をとび、上から落としてきたのもいた。

 なにこの虫、モンスター!? 敵なの!?

「こいつら、水魔法しか効かないからめんどうなんだよなァ……行け、オトバス!」

 クーさまの前に大きな魔法陣が浮かびあがる。
 そこから大きな大きな……手首がでてきた。

 うちのお父さんの手とにてるけど、青い肌。太くてガッシリしてて、筋肉質。指や手の甲にまでわっさーって毛がはえてる。なのに、ウロコと水かきまである。

 人と魚がまざった……半魚人って感じの手首だ。

『×××××××』

 バケモノは低い声でなにかうめく。ゆらりと指をゆらして奇妙なハンドサインをした。
 まぶしいくらい明るかった空が、夜のように暗くそまる。

 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

 雨が激しくふりそそぐ。雨と呼ぶにはちょっと大きすぎるかも。水のカタマリが虫たちを矢のようにつらぬき、岩をくだいていく。

「ギッ!」

「ギイイッ!」

 虫が全滅するまで、1分もかからなかった。
 サーッと雲がはれて、また明るくなっていく。広大な砂地が穴だらけになっていた。

「すご……」

 ついつぶやく。お父さんたちの攻撃をよけられたからって、強くなった気でいたのがはずかしいくらい。
 なんかもう、格がちがうって感じ。

「ご苦労」

 クーさまがいう。
 バケモノの手首はぬるっと魔法陣にもどり、消えた。

「いまのは?」

「悪魔オトバス。手下の1匹」

 そういえば、吸血鬼みたいなのも連れてたっけ。カラスの悪魔も召喚してたし……けっこう手下がたくさんいるの?

 最初は魔力がたりなくて、召喚できなかっただけなのかな。けっこう体をとりもどしてきたし。魔力がふえたからポンポン召喚してるってこと?

「……ちなみに私は何番目の手下?」

「おまえは特別だ。あいつらとはちがう」

 魔神はやさしくほほえむ。
 オオカミの顔なのに、美形すぎるせいかキュンときた。メルズークもそうだけど。ケモノでも美しいかどうかってわかるもんなんだね。

 そのへんのオオカミが子どものラクガキに見えてくるレベルの神々しさだ。

「あいつらは戦力、おまえは愛玩用(あいがんよう)。またはコレクションって感じだな」

「あいがんようってどういう意味?」

「かわいがるためのペット」

「ふくざつぅ」

 ちょっとうれしい自分がイヤ。
 魔神と対等になんて、なれるわけないのはわかるけど……なんだろ。なんかモヤッとする。

 もっと強くなって、彼の戦力になりたいの? いや、べつに。あんなバケモノたちに勝てるわけないし。
 かわいがってくれるのはうれしいけど……ペットかあ。うん。ペットあつかいがイヤ……なのかな?

 ペットが不満なら、私は魔神とどんな関係になりたいんだろ?

 1人でモヤモヤしてたら、オオカミが続ける。

「カラスナベケペは神の眷属だ。すぐ神が気づく。そのうちむこうからやってくるだろう。でもあいつほとんど寝てるから、数日かかるかもしれないな」

 美しいケモノはそういって、こちらを見おろした。

「いまのうちに手当してやる。髪は短いままがいいのか?」

 あっ、ケガのこと気づいてたんだ。

「ううん、髪ももどして欲しい……けど、そのまえに! 私って、大人になれないの?」

 ショートヘアも新鮮で楽しかった。でもやっぱりロングの方がおちつく。服もこのままだとめだつし、あとできがえよっと。

 ズボンの方が戦いやすいけど、女のズボンは時代を先どりしすぎてて……。スカートの下になにかはけばいいや。

「死人が成長するわけないだろ」

 あっさりいわれた言葉に、涙がにじんだ。

「やっぱり!?」

 リーナを見たときから、そんな気はしてた。たった1年なのに、なんかぜんぜんちがってたから。
 おちこんでいたら、青い目がのぞきこんでくる。

「……成長はしないけど、大人の体に作り変えてやることはできる。回復魔法で治せないほどこわれたときは、1から作ってるからな。どう成長するかは遺伝子でだいたい決まってるし、まあカンタンだ」

「やってやって! 大人になりたい!」

「中身がガキなのに、体だけ大人になってもな……心と体のバランスがくずれると、魂がこわれやすい。成人するまでは実年齢にしとけ」

「あ、うん。じゃあそれでいいや」

 クーさまはイヤそうにこちらをにらむ。不快そうな顔してもサマになるのすごい。

「ムネでかくしたいとか鼻高くしたいとかいうなよ? 人の欲望には終わりがない。生前ならともかく、死んでから原型なくすと自我をうしなう。だいたい、俺は本来のおまえが好きなんだ。いじりたくない」

「よくわからないけど、わかったよ。じゃあそれでいいから14歳にして」

 目元をもうちょっとキリッとさせて鼻も高くしたかったけど、ガマンするから!

「ハイハイ」

 青い光につつまれて、なくした左うでが帰ってきた。
 お帰り私の左うで!

「ありがとう! うでがないとやっぱり不便だったから、うれしい」

 顔をあげると、サラリと赤い髪がゆれる。やっぱりロングヘアおちつく~。

「ほら鏡」

 全身がうつる鏡をだして、クーさまが前足をのせた。

 14歳の私。
 リーナみたいに大人っぽいお姉さんになれてるかな!?

 ドキドキしながら鏡をのぞいて、

「なんか……あんまり変わってないね」

 私はちょっと肩をおとした。

 身長が少しのびて、胸もささやかに成長。おしりや太もももほんのり……。あとは、丸かった顔がシュッとしたくらい? 手足も少し大きくなったような……そうでもないような?

 全体的に気のせいレベルだ。

「1年ならそんなもんだ」

「リーナはもっと色っぽかったのに~」

 魔神はヘッと鼻で笑う。

「おまえに色気なんかいらない。そんなものあったら、また変な虫がわくだろ」

「さっきの虫、ヘンタイなの?」

「きんぱ……金色の虫だ」

「そんなの見たことないけど」

「……」

 クーさまは人間の姿に変わった。

 風になびくサラサラの黒髪。水色の瞳はオオカミのときとおなじ。高い鼻やうすいくちびるも、どことなく面影がある。

 肩はば広いし、背高いし。筋肉質だけど、腰は細い。男らしいのにスレンダーで華があるから、どこか中性的。顔や全身のシルエットがシャープで、スラリとしている。

 オオカミバージョンのときも神秘的だと思ってたけど……久しぶりにみる人間バージョンは攻撃力がすごい。
 「美」って文字がなぐりかかってくるようなインパクトがある。まぶしすぎて目がつぶれそうだ。

「そんなことより、きかせろよ。いままで、どこでなにしてた?」

 大きな手のひらがそっと私のあごをなでる。
 つられて上をむくと、キレイな顔がすぐそこにあった。

 鼻と鼻がくっつきそう。青い目にみとれて、目がはなせない。

「ちっ、近い近い!」

 うっかりキスしちゃいそうだったから、あわててはなれた。