63話 禁をやぶりし者、死の翼ふれるべし


 ネコの女神ラクアトに見つからず、通りぬけることができた。
 でも神殿の入り口には人間のみはりが立っている。左右に1人ずつ、大きな剣を腰にさげていた。

 メタボ体型のおじさんたちだけど、彼らはハダカじゃないみたい。頭からすっぽり白い布をかぶった白いおじさん。そして黒い布をかぶった黒いおじさんだ。

 ずっとみはりしてるもんね。ハダカだと体温調節が大変なのかも。

「ああ~。だりいなぁ~」

「早く家に帰ってビール飲みたいぜぇ~」

 なんて話してる。

 どうしよう?
 クーさまをふり返ると、彼は小声でささやいた。

「さわぐなよ?」

 イヤな予感。

 クーさまはそのへんの石をひろって、私たちとは反対側へ投げた。
 みはりの頭上高くとんで、おちていく石。

 カアン!

 石だたみの床に当たって、大きな音がひびく。みはりがびっくりしてそっちをむいた。
 そのすきに、クーさまは片手で私をほうり投げた。

 ちょっとおおおおおおお!?

 悲鳴をあげそうになって、ぐっとくちをとじる。
 私はさっきの石ころみたいにポーンと宙をまって、神殿へ入った。

 おじさんたちの頭の上をとおりすぎる日がくるなんて、夢にも思わなかったよ。
 彼らの視界に入らないようにするためだろうけど。高く投げられたからこわかった。

 エドラといっしょにたくさん空とんだ。氷龍からおっこちたりもした。
 でも、投げられる感覚はまたべつの緊張感があるよ……。

 頭からおっこちるまえに、クーさまが音もなく受け止めてくれた。
 彼は自力でジャンプしてきたらしい。

 大きな大きな白い卵にぽっかりとあいた、黒い穴。
 私たちはそこから中へ入った。

◆

 神殿の中はほんのり暗い。あちこちに置いてあるたいまつやかがり火でうっすら照らされていた。
 中は石の壁でできてるみたい。屋内にしてはずいぶん広い。

 まんなかにだれかいて、ビックリした。

 みつかった!?

 あせったけど、これはただの作り物みたい。

 人がさわれないように赤いロープでかこわれている。その中には金ピカの四角い台座。台座の上には、これまた金ピカのお人形。

「これって、本物の金?」

 ここにはだれもいないし、もうしゃべってもいいよね?
 きくとクーさまがうなずいた。

「ぜんぶ純金製。売りとばすか?」

「やめよう、さすがに」

 その黄金像(おうごんぞう)は、あきらかに神さまだった。

 丸い鏡をつかんだワシ。

 鏡の裏はやっぱり金だし、装飾もゴージャス。ワシの両目と翼(つばさ)には、宝石がたっぷり。ぜんぶで1億とかしそう……なのはおいといて。

 神秘的で近よりがたいオーラがただよってる。

「この鳥が太陽神なの?」

「にせて作ったマガイモノだけどな。太陽神ケアル―は満月の夜にだけ目を覚ます。つまり、タイムリミットは明日の日没だ」

「なんて?」

 なんかいま、サラッと大事なこといわなかった?

「明日の夜までにゲボクの装備を手に入れて、ラクアトをたおす。俺の両足をとり返して、国王もたおす。できなかったら俺たちの負けだ」

 答えながらクーさまは真水で私を洗い流し、さっと乾燥させる。
 これは水魔法? それとも収納魔法で水をとりだしただけ? まあどっちでもいいか。

「そーいうことはもっと早くいって!? ぜんぜん時間ないじゃん! ……あと、血は落ちたけど匂いとれてないよ」

 クーさまもキレイになったけど、やっぱまだ血なまぐさい……。

「まあ、いそげばなんとかなるだろ」

 魔神は自分と私に香水をふりかけた。

「あの……いそいでるとこ悪いけど、ふつーの消臭剤ない? 匂いきついときに香水かけたら、よけいくさくなりそう」

「消臭剤かけたらもっとヤバくなった。これが1番マシなんだ」

「そう……」

 たしかに、ふしぎとマシになってる。血のにおいをごまかしやすい香りなのかな?
 あとでしっかり水あびしよう。

「ってさっそくなにしてるの!?」

 クーさまは黄金像から鏡をとりはずした。

「こいつは使えそうだからいただいていく。あとはいらない」

 黄金像のまわりには供物がたくさんならべてあった。お花、肉、魚、パン、酒。お金とかいろいろ。

「えっ、装備は?」

「貴重なものは奥の部屋へうつしてるみたいだ」

 そういって彼が指さしたのは壁だった。

「部屋? ドアもなにもないよ」

「文字が書かれてる」

「文字? 絵じゃなくて?」

 ヒマなとき、クーさまには文字の読み書きを教えてもらってる。ルファスもちょっと教えてくれた。
 でも、こんな文字は初めてみた。どこの国の言葉ともちがってて、ぜんぜん読めない。

 オシャレなもようかと思った。

「”これより3つのことを禁ず”」

 壁にきざまれた文字を指でなぞって、クーさまがいう。

「”1つ、神を見てはならぬ。2つ、神にふれてはならぬ。3つ、神に話しかけてはならぬ”」

 ズズズ……。

 あたりがゆれ始めた。
 かくれて見えなかったけど、切れめが入っていたみたい。スキマから砂をこぼしながら、壁が上へ動いていく。

「”禁をやぶりし者、死の翼ふれるべし”」

 長方形の穴があいて、奥へ進めるようになった。

◆

 通路はせまくて、2人ならんで歩くことができない。大人1人がふつうに歩けるくらいのスペース。
 暗いけど、ちゃんとあかりが点々とおいてある。定期的にだれかがここをとおってるんだ。

 カサカサ……カサカサ……。

「なんか、いま音がしなかった?」

「さっき警告文があったし、神じゃないか? この神殿のどこかに本物のケアル―神がいるはずだ」

「でも、神さまっていま寝てるんでしょ? なにか動きまわってるような音だったよ」

「まあ神だから……寝ぼけてウロウロしてるんじゃないか? 俺もこの神殿へ入るのは初めてだから、くわしくはしらない」

「まずいじゃん、それ。さっきの禁をやぶったら、どうなるの? 神さま、すぐおきちゃうの?」

「いや、おきない。でも、禁をやぶったら負けるかもしれないな」

 他人ごとみたいにいうもんだから、あきれてしまった。

「クーさま、もうちょっと危機感もとうよ。また封印されたらヤでしょ?」

「そういわれても。あんなルール、俺にとってはカンタンすぎる」

「なんで? うっかり見ちゃうかもしれないよ」

「見てはならぬ? ずっと目をつぶってればいい」

 いいながら、彼はさっそく目をとじた。

 クーさまが目とじてるの、見たことなかった気する。水色の目がキレイだから見たい気もするけど。これはこれで……イイ。

「それで歩ける?」

「よゆう。気配と音でだいたいわかる。……いま鼻がやられてるから、匂いはあまりわからないけどな」

「頭から血かぶったりするからだよ」

 いろいろ終わったらちゃんと洗い流さないとね。
 彼はさっきと変わらないスピードでスタスタ歩いていく。オオカミってあんまり視力にはたよってないのかな?

「……じゃあ、ふれてはならぬ、もだいじょうぶなんだね。よけられるから」

「そう」

「話しかけてはならぬ、もオッケーってことかぁ。クーさまがよくても、私は自信ないよ。うっかりぜんぶやっちゃうかも……」

「ふ~ん? じゃあコレもってろ」

 さっき黄金像からとりはずした鏡だ。

「これ、なにかのマジックアイテムなの?」

「にたようなものだ。太陽神の”太陽”をあらわすシンボルとして使われた鏡だからな。強い神聖力がこもってる。アンデッド系モンスターに絶大な効果を発揮する」

「へー」

「まちがっても自分に使うなよ? 消滅するからな」

「えっ、あ、そっか。私アンデッド! 気をつけるよ」

 こわいから収納魔法でしまっておいた。

「太陽神ケアル―は全知全能。生と死、再生と消滅なんかもつかさどってる。”太陽がのぼるたびに生まれて、日没と共に死ぬ”そういう伝承もあるくらいだ。……もしかしたら、夜の間は」

 カタッ!

 物音がして、私はあわてて両手で顔をかくした。

 神さまきちゃった!?

 うずくまってじっとしていたら、

「行き止まりだ」

 とクーさま。
 目をあけていいといわれて、手を顔からどける。

 そこには、またふしぎな壁があった。