64話 神へ忠誠をしめせ


「また人形……これ、まさかケアル―さまが人に化けた姿?」

 神殿の奥は行き止まり。
 そこには黄金像がかがやいていた。

 さっきは鳥のワシだったけど、こんどは人間。エキゾチックな王冠をかぶって、金ぴかの玉座にすわってる。

 クーさまがきてるような、胸元のあいた服。全身に長い布をまきつけたようなかっこうだ。くつはやっぱりサンダル。

 ぜんぜんちがう姿なのに、目元はさっきとおなじだった。

「他の神にさまなんかつけるな」

 魔神が目をあけてにらんでくる。心がせまいよ、うちのボス。

 ところで神さま見ちゃったけど、いいのかな? これはニセモノだからセーフ?
 ……特になにも問題おきてないし、クーさまもふつうに見てる。本物じゃなければいいみたい。

「はあい。ケアル―神って目が赤いの? さっきの鳥も目が赤かったよね」

 ルビーかな? おなじ宝石が使われてる。

 こんなところに置いておく人形にルビーなんて、セレブだなぁ。でも、ネコの目みたいにスジが入っちゃってる。あんまり価値はないのかも。

 王冠やマント、玉座にたくさんの指輪。他にもじゃらじゃら宝石つけてる。赤、青、緑、黄色、水色……たくさんある。遠くから見ると虹色みたい。このレインボーカラー、どこかで見たような……。

「昔戦ったときはエメラルドグリーンだった。昼と夜で目の色が変わるのかもしれない」

「ふーん」

 そういえば私も、夜になると目が赤く光っていたっけ。いまは制御できるようになったけど。

 いま人いないしやってみようかな。……ダメだ。かえってみづらい。そこそこ明るいから、ふつうの目で見た方が見やすいや。

「行き止まりみたいだけど……またさわったらドアがあくの?」

 まわりの壁もなんかゴージャスだ。
 さっきの絵みたいな文字もあるけど、大きな絵もたくさん。さすがにこっちは文字じゃないよね。

 壁画(へきが)にかかれてるのは、神族と人間たち。
 ネコの神族たちが神さまを守ってる。人間たちは彼らにひざまずいて祈りをささげる。神のおかげで、この国は幸せになった。

 ……みたいな感じ?

 この国を攻めてきた敵を、神が焼き殺した。水不足で苦しんでいる民を、女神ラクアトが川を作ってたすけてあげた。そこへ神族たちが神殿と宮殿を建てる。

 などなど。いろんなシーンがえがかれてる。
 絵だから、文字が読めなくてもわかりやすい。

「ここの壁にはこう書かれてる。”神へ忠誠をしめせ”」

 クーさまが神の頭上を指さす。たしかになんか書かれてる。読めないけど。

「ちゅーせーってなに?」

「ひざまずいて足をなめろってことだ」

「ふぁ!? なにそれへ」

「それ以上いうと世界を敵にまわすけど、いいのか?」

「えっ」

「世界すべてと全面戦争するなら、もうちょっと各地で遊んでからにしたい。ゲボクのレベルもまだまだ足りないし。世界ほろぼしたら楽しみがへる。いまはやめろ」

「ご、ごめんなさい……でも、そんなちゅーせーとか、きいたことないけど」

「おまえはずっとへんぴな島にいたからな。世間しらずなのはしかたない」

 クーさまはそういってまわりの壁を指さした。

「ほら、そーいう文化なんだ。そーいう」

「……」

 いわれてみれば、たしかに。壁画にはっきりヒントがえがかれていた。
 神のまえにひざまずく人間たち。そこをよくみると、代表者が神の足にキスしていた。

 選ばれし者しかできないんだよ、とっても光栄なことなんだよってふんいき。

「べつに”なめろ”とまでは書かれてなくない?」

 騎士がお姫さまの手の甲にチュッとする。そんなロマンチックなあいさつだったら聞いたことある。それに近い感じだけどな……。

「ここには書かれてないな。でも、俺が見てきたやつらは足とかくつとかペロペロなめてた」

 ねえ、それってけっこう特殊なケースなんじゃない? ふつうはそこまでしないんじゃない? その人たちがちょっとアレなだけだと思うな。

「クーさまもやらせたことあるの!?」

「ねーよ、気色わりぃ」

「じゃ、じゃあやったことが」

「あるわけねーだろボケ!」

 クーさまが黄金像の顔をけった。

「あーっ、バチあたりっ!」

 黄金像の顔がつぶれて、宝石がくだけてとびちっていく。ほぼ同時に、壁画からたくさんの手がとびだしてきた。

 壁画にかかれた神族や人間たちだ。

 紙みたいにうすっぺらくて、グニャグニャしてる。彼らはクーさまの全身をつかみ、おさえつけようとする。

 つぶれた黄金像から、赤い光線がはなたれた。
 像の中に大砲でもしこんでたの? ってくらい巨大なレーザービームだ。

「おっと」

 クーさまが神族たちをひきずりながらよける。

「うわっ」

 私もとっさによけたら、パカッと床に穴があいた。

「たたたすけてクーさま!」

 ふわっと浮き上がるような落下感。

「ガンバレ」

 魔神は楽しそうに告げた。無表情っぽいけど目が笑ってるんだよ、目が!

「ひどい!」

 おっこちていく私。クーさまは自分だけ床をつかんでおちなかった。
 見すてないでよ~!

 ドボンッ!

 次は水の中?
 暗くて見えないけど、高いところからおちたみたい。10メートルはしずんだのに、まだ底がある。

 なんだろこれ、地下水? うっかりちょっと飲んじゃった。
 井戸の中みたいにせまくて、冷たい感じがする場所。

 なんとか水面までおよいだとたん。

 ガシャン! ガラララララララ……。

 天井からなにかふってきた。

 ヤバそうだったから、とっさに目を赤くする。暗闇で見えたのはトゲトゲのついた鉄板だった。大きくてごつくて重そう。

 神殿のトラップってやつ? 私を水中でくしざしにして、さらにペチャンコにしようとしてる? なんてえげつない。

「やめてよー! 神さまけったのクーさまなのに~!」

 半泣きでさけんだ。あとでクーさまが回復してくれるのはわかってる。でも、それまでグチャグチャ死体になってるのはイヤ。

「燃えちゃえ! ぜんぶ燃えちゃえ!」

 やけくそでさけんだ。
 暗闇の中で赤い炎がはじける。
 だけど、水には意味ないし。鉄板は炎をスルーしておちてくる。

 もうダメだ。

「わー! クーさまたすけてー!」

『おまえなぁ、こっちはこっちで戦闘中なんだ。もうちょっと自力でがんばれよ』

 頭の中に魔神の声がひびいた。

「クーさま!?」

『こんなこともあろうかと、おまえが寝てるあいだにいろいろしこんでおいた。世界中どこにいても居場所がわかるし、テレパシーで会話もできる。これでもう二度と迷子にならない。どこへ逃げても10分でつかまえてやる』

「わあ便利……ってそれどころじゃないよ! 私ミンチにされる5秒前なんだけど!」

『インベントリ使えよ』

「なにそれ?」

『収納魔法。使えるようにしてやったろ。なんでもしまっちまえばなんとかなる』

「こう!?」

 水に浮いたまま両手をあげてバンザイ。
 私をくしざしにしそうだった剣山がパッと消えた。

「はあ……はあ……」

 火事場のバカ力ってやつかな。さわらなくても手をかざすだけで収納できたみたい。

「できたよ、クーさま! ありがとう!」

『ちょうどこっちもかたづいた。このまま二手にわかれて宝物庫を探すから、見つけたら呼べ』

「うん、やってみるね」

 魔神の声がとだえる。

 この水も収納できるかな?

 試してみたら、できた。大量の水が一瞬で消える。でもかなり底が深かったみたい。
 私はまた地下へおちていった。