65話 VS虹虫


 落下しながら、ふと思った。
 けっこー高いみたいだし。このまま落ちたら、私グチャグチャ死体になっちゃうのでは?

 そこで、しまってた水を半分だした。
 バシャンと水にしずんで、落下が止まる。それから、またしまった。

 再び地下へ落ちていく私。
 1回止まったから、ちょうどいい高さになったみたい。

「とうっ!」

 なんとか無事に着地。
 そこは、大きなフロみたいな構造になっていた。

 石づくりの壁。床には、クサリのついた大きなセンが1つ。

 たぶん、このクサリは上の階にある部屋につながってるんだろう。だれかがこのクサリをひっぱると、センがぬけて水がなくなるしかけ。

 試しにセンをぬいてみた。予想どおり、そこには大きな排水溝。
 ここに飛びおりたら、外の川へ流されていくのかな?

 いざとなったらそうやって脱出してもいいけど、まだやることが残ってる。
 宝物庫ってやつを探すんだったっけ?

 カサカサ……カサカサ……カサカサ……。

 な、なんかいる……。
 出入り口は天井の穴と排水溝しかない。なのに、どこからきたんだろう? 虫らしく壁のすきまから?

 気づけば、私は大量の虫にかこまれていた。

 赤目モードのおかげで、暗闇でもわかるレインボーカラー。コガネムシとカブトムシの中間みたいな、特徴的なボディ。

 私よりでっかいバケモノサイズ。そんなやつらが、100匹くらい。
 床をうめつくし、壁にびっしりとはりつき。天井からブーンと飛んでおそいかかってきた。

「いやああああああキモイイイイイイイイイ!」

 おぼえてるよ! 名前は忘れたけどおぼえてる!
 このサファルカ国にきたとき、クーさまがやっつけたやつらだ。神のけん……け……手下ってやつ!

 モンスターとどうちがうのって見た目だけど。ケアル―神につかえてる、聖なる虫なんだよね。神殿の侵入者や魔物を撃退したりしてるのかな?

「燃えろ!」

 私を中心に、円をえがくように炎がはしる。

 人間だったら皆殺しレベルに燃えたのに。レインボー虫たちはびくともしない。むしろ体をツヤツヤさせて、元気になった気さえする。

 あっ、そういえば水魔法しか効かないんだったっけ。

「うわっ」

 横から体あたりされて、ふっとばされた。

「ちょっと」

 地面へころがった私を、べつの虫が足でけっとばす。逆立ちみたいなポーズで、なんか生理的にイヤ。とかいってる場合じゃない。

「うわわわわ!」

 まわりをかこんだ虫たちから連続でけられて、私はボールみたいにはねた。

 血はでてない。でも馬にけられたくらいの衝撃。頭けられたらつぶれちゃいそう。必死に頭を守っていたら、虫たちがカサカサ整列しだした。

 ならんだ虫の上にまた虫がのっていって……まるで三角形みたい。彼らはいっせいに羽根を広げた。

「えっなに」

 ビカッ!

 三角形から虹色のレーザービームが発射される。

 とっさにはしって逃げたけど、ビームのはばがでかすぎる。しかもこれ、よけてもしばらく追いかけてくる。逃げきれなくて、左足がやられた。

「きゃあああああ!?」

 光があたったとたん。熱くていたくて、涙がでた。
 左足のひざから下がデロリととけてなくなっていく。

 なんで!? 私アンデッドだし、痛覚オフだからいたみ感じないはずなのに。

 いたみなんて久しぶり……あれ、そうでもないな。ちょっとまえにもこんないたみがあったような……?

『にゃーん』

 頭にネコのなき声が浮かぶ。
 そうだ、あのセクシーフェロモンにゃんこちゃん。彼に回復魔法を使われたときもすごくいたかった。

 たしか、聖なる力のことを神聖力っていうんだよね。
 神聖力で攻撃されるといたいんだ、きっと。アンデッドモンスターによく効くってクーさまもいってたし。

 ヤバイじゃん! 神がどーとかいうまえに魂ごと消滅させられちゃうかも……ん?

 上の壁の方にまだ水滴がのこっていたみたい。ぴちょんと落ちてきた。それが頭にあたったとたん、

「キイイイイイイイ! イイイイイイ!」

 たしか長い名前の虫……もう虹虫でいいか、虹色だから。虹虫は殺虫剤かけられたGみたいにバタバタのたうちまわった。

 水魔法が効くくらいだし、水が苦手なんだ。
 そういえば、マロボ島をおそったキモイ虫も水は苦手だったっけ。それなら……。

「ポウ!」

 うわっまたレザービーム撃ってきた。やめて~!
 はしって逃げようとしたけど、できなかった。左足はとけちゃったし、足がいたくて動けない。

 虫たちが組体操して作った三角形から、レーザーがこっちへ近づいてくる。

「これでもくらえ!」

 私は収納魔法でしまっていた水をすべてだした。
 レーザーはすでに髪の一部にふれていて、毛先がとけていく。

 間に合わなかった……?

 死神にそっと背中をなでられたような気がした。
 だけど、私は見た。まばたきするより速く、水があたりをつつんでいくところ。

 虫たちは水中で苦しそうにもがいて……やがて水面に浮かんだ。死んだんだ。

 水をしまって着地する。片足がないから、バランスがとれなくてたおれてしまった。

「いてて」

 あぶなかった……。さっき怒られたばっかりで気がひけるけど、クーさまにヘルプしようかな。こんな状態じゃ、まともに動けない。

 カサカサ……カサカサ……カサカサ……。

 虫がはいまわる音がして、とっさにふり返る。
 まだ生きてるやつがいたの!?

 カサカサ……カサカサ……カサカサ……。

 いない。音がするからぜったいどこかにいるはずなのに、みつからない。

 ブブブブブブブブ……。

 とんでる! どっかとんでる! まさか上!?

 ちがう。

 なにかが爆発したと思った。ドカンとかベキバキッとか、いろんな音がたくさんまじってたし。壁がわれてくだけちっていったから。それに赤い炎も見えた。

 でもちがった。

 赤い炎を全身にまとった、巨大な虫が壁をつきやぶってあらわれた。

 ツノがないメスのカブトムシ。またはコガネムシ。そんな感じの丸っこい体つき。前足にはギザギザがついてて、顔に2本の触覚がある。

 私の身長くらい大きな目はまんまる。赤い宝石みたいにキレイ。

 さっきやっつけた虹虫とそっくりだ。でも彼らよりとっても大きい。壁の穴から顔と前足だけがでている。

 それに、この虫はレインボーカラーじゃない。黄金像みたいに金ピカボディ。
 クーさまがいってた、ヘンタイ虫だ!