66話 VS金ピカヘンタイ虫


『ちょうどこっちもかたづいた。このまま二手(ふたて)にわかれて宝物庫を探すから、見つけたら呼べ』

 魔神はぐしゃりと黄金像(おうごんぞう)をふみつぶした。

 壁画からぬけでてきた者たちは、すでに消滅している。ふつうの人間ならやつらに手足をもがれ、黄金像のレーザーで焼かれて死ぬんだろう。

 しかし、魔神にとっては子どものいたずらレベルだった。ヒマつぶしにもならない。

 それはさておき。

 指示どおりここで神に忠誠をしめせば、すぐに宝物庫へ行けたはず。人間の神官たちは、ふだんそうやって供物を運んでいると思われる。

 ところが、神の像に攻撃したから正規ルートがふさがれてしまった。こまったものだ。これではどこへ行けばいいか、わからない。

 神殿のどこかに強いアイテムがあるのを感じる。ケアル―神の気配もする。だけど、近すぎて方向がつかめないのだ。

 ……てきとうに壁をこわして進んでみるか。

 なぐったり、けったり。神殿にさくさく穴をあけて、魔神は歩く。
 彼の右目は現在地をうつし、左目はゲボクを見守っていた。

 よしよし、がんばってるな。

 少女があわてふためくさまが、愛おしい。酒のんでつまみ食べながら観たいくらいだ。
 グパジー帝国ではあんまりじっくり観られなかったし。のんびり愛でながら進むとしよう。

 魔神はしばらくなにも考えず、ぼんやりゲボクをながめていた。
 しかしその間も体はしっかり動いている。

 神殿のあちこちに穴をあけ、トラップを破壊。あらわれた敵を瞬殺。
 そんなことをくり返し……気がつけば、おかしな部屋にいた。

 なんだここは?

 その広間は炎につつまれていた。足のふみ場もないほど、燃えている。

 天井はなく、夜空が見える。しかし神殿内なのはまちがいない。ぐるりと石の壁にかこまれている。床には迷路のようなミゾがあり、油が流れていた。

 もしかすると、神殿の中心部かもしれない。
 この神殿はたまご型。てっぺんにだけ穴があいてるなら、外から見えなくてもおかしくない。

 穴から侵入しようとした者は、炎に焼かれるというトラップらしい。

『悪しきもの、浄化の炎に焼かれよ』

 壁にはそう書かれている。
 おそらく、他のトラップにひっかかった侵入者もここへ誘導されるようにできている。

『迷える神のしもべ、祈りをささげよ』

 こっちは、この部屋にきた神官のためのヘルプか。
 敵じゃないのにうっかり迷いこんでしまった。あるいは神殿の管理のためにこの部屋をおとずれた。

 そんな場合はたすけてやろう。
 という優しさだ。

 サファルカ国に伝わるやり方でケアル―神へ祈りをささげる。そうすれば広間の火が消えるのかもしれない。

 しかし。

 このくらいなら、ふつうに通れるな。

 火属性の魔神には意味がない。彼は業火の中をスタスタ歩き、奥のドアへとたどりついた。

 鉄製のドアをけってこわすと、そこは……。

『クーさまたすけて~!』

 ゲボクからヘルプコールだ。
 魔神を呼べば、テレパシー会話ができるようにしておいた。

「どうした?」

 ぜんぶ観てたし、いまも見守ってる。でも、そんなにヤバイ状況とは思えない。本当にピンチなら、呼ばれなくてもたすけてる。

『なんかヤバそうなやつが……金ピカのヘンタイ虫がでたんだけど』

「金ピカのヘンタイ虫……?」

 それはもしかして、おまえの目の前にいるケアル―神のことか? 我がゲボクながら、最高ランクの神をヘンタイ呼ばわりするとは、たいしたやつだ。

『クーさまいってたじゃん。私が色っぽくなったら金色の虫がわくって』

「ああ、ルファスな」

 ゲボクが世話になったし、フラれてたから見逃してやったガキ。

 でも、またゲボクに近づいたら食ってやろう。あいつの血なら良い香水になりそうだ。まずくてくっさい血の匂いは、うまい血の匂いで上書きするにかぎる。

『いまルファスの話はしてないよ。エッチな虫がわくなんて……私14歳になって色っぽくなったのかな?』

「鏡見てからもう1度おなじこといってみろ。笑ってやる」

 顔がかわいいから、その気になればだける。でもまだ子どもだ。色気があるかといわれたら、ない。もうちょっといろいろ育って欲しい。

 人の成長は早いとはいえ、ほんとにあと2年で育つのか?

 この少女に対する感情に答えはまだでない。
 もしずっと色気がないままだったら、ペットとしてかわいがることにしよう。

『じょうだんだよ……あの金ピカ虫なんとかして。足がとけちゃって動けないよ』

「その金ピカがケアル―神だ」

『えっ』

 ゲボクは床にたおれたまま、虫を見る。

『鳥でも人でもないよ!?』

「ケアル―はエーテルピアとおなじく、変幻自在の神だ。なんにでもなれる。でも目はさっき見た黄金像とおなじだろ?」

『あ、ほんとだ。でもどうしよう。神さまバッチリ見ちゃったよ。見ちゃダメなんでしょ?』

「ああ、見るなさわるな話しかけるなと書かれていたが……なぜ動かないんだ?」

『それが私にもサッパリ。てっきりおそいかかってくると思ったんだけど、ずっと動かなくて。寝てるんじゃない?』

「まあいい。治療してやるから、そのまままってろ。ちょうど宝物庫にたどりついたところだ。おまえにあう装備がないか、探してくる」

『ありがとう!』

 髪も毛先がとけてるし、小さなケガがいくつか。足とまとめて全身治療しておいた。

 回復したとたん、ゲボクがぴょんとはねおきる。
 ケアル―神の目が赤く光った。

◆

 死んだふりしたセミみたいに動かなかったのに。
 ケアル―神があばれだして、私は逃げまわった。

「くくくクーさま、動いた! 神さま動いたんだけど!」

 私の炎よりずっと赤くて、熱い。巨大な炎のうずが室内を焼いていく。

『動いたな。まあガンバレ。良い防具を見つけたら届けてやるよ』

「なるべくいそいでね~!」

 人間だったら、とっくに肺の中が燃えて死んでそう。空気も少ないし。

 ブブブブブブブブブブブブブブブブ!

 金ぴか虫が羽ばたく。
 神殿の壁がハデにこわれた。外が見えるんじゃないかと思ったけど、むこうはまだ部屋が続いていた。

 このタマゴ型神殿、どんだけ広いんだろ? 外から見たときはそこまで広く見えなかった。なにか空間系の魔法でも使ってるのかな。

 ていうか、死の翼ってあれのこと? たしかにあんなでっかい翼が当たったら死んじゃうけど。虫の羽根で殺されるのはイヤだなぁ……。

 神は大きすぎて小回りがきかないみたい。炎さえよければ、逃げるのはそんなにむずかしくない。
 これなら、クーさまがくるまでもちそう。

 ……なんて。油断した私をあざ笑うかのように、敵がふえた。

「うげげっ」

 金ぴか虫がこわした壁のむこうから、見覚えのあるレインボーカラーがとんでくる。
 虹虫たちの群れは、空中で三角形を作った。

「ポウッ!」

 上空からふりそそぐレインボービーム。
 それは時計の針のようにぐるりと動いて、追いかけてくる。

「きゃーきゃーきゃー!?」

 私は必死ではしり続けるあまり、神の前足でころんでしまった。

 全身に当たったら魂ごと消滅。もう復活できない。
 じわりと涙がにじんだ。

 だけど。

「キイイイイイ!」

 ビームが当たって悲鳴をあげたのは、神だった。

「え!?」

 あの虹虫、神の手下なんだよね? なんで、手下の攻撃くらって殺虫剤あびたみたいに苦しんでるの?

 おかしなことはもう1つ。

 びっくりしすぎて動けないでいたのに。神も虹虫も私を攻撃してこない。
 まるで、おきあがるのをまっているみたいだった。