67話 太陽の衣


 ケアル―神殿の地下。

「……」

 こちらをにらんだまま動かない金ピカ虫と手下たち。
 私はちょっとおきあがってみた。

 チュインッ!

「うわああ!?」

 虹虫が1匹、ちっちゃいレーザー撃ってきた。
 金ピカ虫の大きな前足がふってくる。

 ズドオンッ!

「ひいい」

 はしって逃げてスライディング。
 ……あえて、そのまま地面へたおれてみる。

 攻撃されたらどうやってよけよう?

 ドキドキしたけど、やっぱり彼らは攻撃してこなかった。
 なんかしらないけど、たおれてるとおそってこないみたい。視線はバッチリ合ってるから、見えてないわけじゃない。

 どうして?

 はいつくばったまま虫たちを観察してたら、壁に気づいた。ここの壁……というより、あちこちの壁に絵がかかれてる。

 黄金像のところで見たのとおなじやつだ。
 神さまのまえにひざまずいて、足にキスする人間の絵。

”1つ、神を見てはならぬ。2つ、神にふれてはならぬ。3つ、神に話しかけてはならぬ”

 ここの入り口に書かれていた言葉を思いだす。
 もしかして……アレは言葉どおりの意味じゃないのかもしれない。

 たぶん、こういう意味だ。

 神はえらいから、立ち上がったまま見つめてはダメ。ひざまずけ。

 足にキスして忠誠をちかうのはオッケー。でも、それ以外の場所にふれてはいけない。

 目上の人にむかって目下の者から話しかけちゃダメ。神さまから話しかけられるのをまちなさい。

 まとめると、「神をうやまえ。失礼なことするな」ってことだと思う。

 ルファスが少しだけ教えてくれた礼儀作法と考え方がにてる。

『おいまてゲボク。なにしてる』

 クーさまからテレパシー。

「神の足にキスしたら攻撃されないかも……」

 私は床にはいつくばったままカサカサ進んでいた。金ピカ虫の足は近い。もうすぐだ。

『やめろ。俺にだってしたことないのによその神にするなんてふざけんなよ』

「なにいってんの。むしろクーさまの方がイヤだよ、足にキスなんて。いくら美形でもなんかヘンタイみたいじゃん」

 オオカミの姿のときならアリだけど。肉球さわらせてくれる?

『俺はダメなのに、ゴキ●リもどきはいいのか!?』

「虫の足にキスなんてキモイけど……まあ、虫だし。大きすぎて全体見えないからいいかなって。殺されるよりマシだよ」

 ちなみに、人型だったらぜったいイヤだ。しないしないしない。

『そのまま動かずにじっとしてればいいだろ。すぐそっち行くからなにもするな!』

「私が穴から落ちてったときは見すてたくせに……」

 なんなの、この魔神。
 でも、じっとしてるだけでいいなら楽かも。

 クーさま早く~。ヒマだよ~。
 床にコロコロころがりながらまっていたら、

「そなたはよのしもべか?」

「へ!?」

 ルビーのようにかがやく、赤い瞳がこちらを見ていた。
 カブトムシっぽい金ピカ虫のくちが動く。

「そなたはよのしもべか?」

 はははは、話しかけてきたんだけど!?

 ”神に話しかけてはならぬ”が言葉どおりなら、無視が正解。
 でも、私の解釈どおりなら、返事するのが正解。

 どっち!?

「そなたはよのしもべか?」

「は……はい」

 プレッシャーに負けて、私はうなずいた。
 赤い瞳がビカッとかがやく。

「ウソつきめ。死ぬがよい!」

 ケアル―神がおそいかかってきた。
 返事をまちがえたから、もうはいつくばっててもダメらしい。

「なんて答えればよかったの~!?」

 私ははしった。

 赤い炎が追いかけてくる。虹虫たちのレーザーも追いかけてくる。神殿内がどんどんこわれていくけど、外は見えない。やっぱり、なんかの魔法かかってるよね。ここ?

「クーさまおそいよまだ~!?」

「……じつはもう来てる」

 なんか高いところにいた。
 壁に立ってるんだけど、どうなってんのその足? 私がやったらまちがいなく落ちるよ。

「装備は!?」

「いやなんか面白そうなことになってるから。どこまでやれるか観ていたくて」

 なんでそこでときめいたみたいに顔を赤くするの!? クーさまの感情わけわかんないよ!

「ムリだから! 逃げるだけでせいいっぱ」

 こけた。
 金ピカ虫にふみつぶされる!

「ほら装備」

 そんな声がしたかと思ったら、虫が消えた。
 いや、消えたのは私の方みたい。気づけばクーさまに両手で持ち上げられていた。イヤな予感する持ち方だ。

「ありがとう……?」

「これは”太陽の衣(たいようのころも)”。神聖力による攻撃ダメージを受けなくなる服だ。神聖力以外の防御力はゼロだから気をつけろ。服はやぶれなくてもダメージは入る」

 いつのまにか着がえてる。どうやったの?

 服っていうか、全身装備らしい。

 髪はポニーテール。髪どめになんか宝石っぽいのがついてる。両耳にイヤリング。首かざり。肩とウデ、おなかが丸だし。でも胸元と下半身はしっかりかくれてる。

 女の子らしいデザインなのにズボンっぽい、ふしぎな服。手首と足首にもかざりがついてて、くつはぺたんこ。

 なんとなく踊り子っぽい、赤い服だ。

「これを着てれば消滅しない?」

 神さまたちから攻撃されてる。それらをかわして、クーさまが続ける。

「そう。武器はなかったけど、鏡があればじゅうぶんだろ。俺は女神ラクアトをたおしに行くから、ここはまかせる」

「やっぱりそうなるのね」

 予想できてた。

「いまのケアル―神は闇属性のアンデッドモンスターだ。おそらく、やつは朝と夜に属性反転する。朝になって光属性にもどったら、やつを攻撃する手段がない。夜のうちになるべくダメージをあたえておけ。たおせたらもっといい」

「アンデッド!? ケアル―神って火属性じゃなかった?」

「やつは火属性と光属性、闇属性のの3つもちだ」

 夜の間はアンデッドだから、虹虫のレーザービームくらって効いてたんだ。虹虫は光属性なんだね、たぶん。

「うわ~……勝てないと思う」

「ま、相手が相手だからな。期待はしてない。朝になったら逃げてこい。よゆうがあったら国王もたおせ」

「ちょっとやること多すぎない?」

「ガンバレ」

 魔神はニコッと笑って私を投げとばした。もちろんケアル―神の方へ。

「は~い」

 まあ、消滅する心配がなくなったしいっか。これで、つぶされちゃってもだいじょうぶ!
 がんばるぞ~。

◆

 金ピカ虫と虹虫たちから逃げながら、私は考えた。

 いまのケアル―神はアンデッドらしい。武器は鏡があればじゅうぶん、と魔神はいった。
 あの、アンデッドに効くっていう太陽神の鏡。

 これ、どうやって使うの……?

 とりあえずインベントリからとりだした。神にむけてみたけど、なんにもおきない。
 太陽の衣きてるから平気だよね? そっとのぞいてみた。なんにもおきない。

 ブブブブブブブブブブブブブブブブ……チュインッ!

 虹虫たちがまたレーザービーム撃ってきた。
 これも神聖力の攻撃だから、いまの私には効かないんだよね……?

「えいっ」

 もしかして~と思って、鏡でレーザーを反射させてみた。

 ビビビビビビビ……。

 虹虫たちにはぜんぜん効かない。でも、

「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!」

 金ピカ虫にはとってもよく効いた。
 ケガはしてない。でも、殺虫剤くらったみたいにひっくり返ってる。

「……効いた!」

 手足をバタバタさせる金ピカ虫に、私は何度もレーザーを当て続けた。