68話 チャンスタイム終了のおしらせ


 太陽の衣(ころも)だったっけ? この服すっごく動きやすい。まるでサルみたいに身軽になれる。もともとゾンビ化してから運動能力アップしてはいたけど、それ以上。

 金ピカ虫のずつきをよけようとしたら、10メートルくらいジャンプしちゃった。
 この服なしだと5メートルくらいのジャンプ力。生前だったら1,2メートルが限界だったかな?

 負ける気がしない。

 虹虫たちはずっとビーム撃ってきてる。ビーム撃ったら自分の主人への攻撃に利用されるって、気づかないのかな?

「めのまえの敵をたおす!」

 って本能だけで動いてる感じ。

 ちょうしにのって鼻歌くちずさんでたら、よけそこねた。1回ビームあたったけど、ノーダメージ。さっき足がとけていたかったのがウソみたい。

 金ピカ虫と私は、人間の子どもとバッタが戦ってるようなサイズ感。

 頭、くち、両手、羽。全身を使って攻撃してくるけど、当たらない。速いし強くて重いけど……大きすぎるから。炎だって平気。太陽の衣を装備してスピードアップしたいまだと、よゆうでよけられる。

 1回だけケアル―神が黒いレーザービームを撃った。
 でも、あたってもなんの効果もなかった。

 黒くよどんだビームだったから、たぶん闇属性攻撃?
 おなじアンデッドの私には意味がないみたい。

 だから、ようしゃなく攻撃しまくった。

 虹虫のレーザーを鏡で反射して金ピカ虫にあてる。
 それを何度も何度もくり返した。

 でも、ちょっと気になることが1つ。この攻撃、ほんとに効いてるのかな……?

 攻撃するたびに金ピカ虫はひっくり返ってジタバタあばれてる。すごい苦しんでるけど、ぜんぜんケガしてないんだよね。いつまでたっても死なないし。

 もしかして、あんまり効いていない?

 心配してたけど、ちゃんと効いてたみたい。金ピカ虫の金ピカボディがとけ始めた。まるで葉っぱが燃えるようにゆがんで、デロデロとけていく。とけた場所は赤くって、血を流しているようだった。

 ちょっとかわいそう。ごめんね。でも負けるわけにはいかないんだよ。
 クーさま封印されたら私も消えちゃうだろうし。

「ラヌーが鳴いている……」

 びっくりした。

 ずっと悲鳴をあげるだけだったのに。ケアル―神がつぶやいた。
 カッコイイ男の声だけど、好みじゃないなぁ。クーさまの声が1番好きだ。

 でも、あくまで好みの問題だから、こっちの方が好きって人もいそう。クーさまは低音セクシー系。神はイケメェンって感じの声だ。物語にでればきっと英雄。メインヒーローなポジション。

「鳴いてるって、なにが?」

 耳をすますと、たしかになにかの声がきこえた。

 グエーグエーグエー……。

 カエル? いや、ちょっとちがう。鳥かな? 神殿の外にいるんだと思うけど、それにしてはよく聞こえる。

 ビシャッ!

 金ピカ虫……ケアル―神の全身がとけた。

 コガネムシみたいな体が赤い液体になって消えていく。その中心に、人間そっくりの大きな心臓が1つ。ずっと前にみた、魔神の心臓とよくにてる。

 心臓がドクンと脈うつ。

 その瞬間。心臓から新しい体が生まれた。
 羽根、羽根、羽根、羽根、羽根、羽根、羽根、羽根、羽根、羽根……。

 100? 1000? 数えきれないくらいたくさんの羽根。

 翼の中から、エメラルドグリーンの瞳が光る。

「ワシ?」

 頭は黒い。胴体は金色で、背中と翼はレインボーカラー。
 黄金像そっくりの、巨大な鳥があらわれた。

「禁をやぶりし者、死の翼ふれるべし」

 ケアル―神が白く光る。

「うわっ、まぶしっ」

 きっと、太陽の衣を装備してなかったらこれだけで消滅してた。近づくことすらできない、圧倒的な力を感じる。彼に近づくなんて、火山の火口に飛びこむようなものだ。

 逃げなきゃ。

 でも、体が動かない。手足どころか、目すら閉じることができない。

 神はゆっくり1度だけ羽ばたく。
 羽根が数枚ぬけて飛んできて……私の全身を細切れにした。

◆

「おおゲボクよ、死んでしまうとはなさけない」

 クーさまの声。
 目をあけると、彼にだきかかえられていた。

 ここはどこだろう? 明るい砂漠に太陽がのぼってる。……神殿の外?
 そっか。朝になってケアル―神が光属性にもどったから、負けちゃったんだ。

「そのフレーズ何度かきいたけど、気に入ってるの?」

「お約束ってやつだ」

 魔神はニコニコして私の頭をなでる。
 うっとりするような美青年なのに、うっとりできない。イヤな予感がしてきたから。

「太陽神を相手によくがんばった。これで3分の1くらいはやつの体力を削れた」

「あれだけやって3分の1なの!?」

 めちゃくちゃ攻撃しまくったのに!

「エーテルピア神とならんで最強とうたわれる神だ。太陽神の鏡がなかったら、ダメージすらあたえられない」

「でも、鏡を使わなくても虹虫のビームでひるんでたよ?」

「虹虫? ああ、カラスナベケペか。アレだけじゃダメージ小さすぎてすぐ回復する。鏡で神聖力を増幅させたから効いたんだ。まあよくやった」

 ケラケラ笑う魔神。あんまりほめられることないから、なんかちょっと警戒してしまう。うれしいから、なでられておくけど。

「ありがとう……?」

「ケアル―神の妻、女神ラクアトは捕獲しておいた。あとは国王タメフィスだ。今日の日没までに殺せ」

 あ~、やっぱり。そーいうこというと思ってた。

「……私がやるの?」

「やれ」

 笑顔で告げる魔神。鬼か?

「質問。クーさまの両足はとりもどせたの?」

「ああ。ここにあるだろ?」

 彼は長い足を子どものようにゆらす。

「仮の体と見分けがつかないよ」

「さて、それじゃ」

 魔神が私をどこかへほうりなげようとする。

「わあああまって! まだ質問させて!」

「日没まであと9時間。太陽の衣があるとはいえ、負けたら痛い目にあう。急いだ方がいい」

「痛い目って?」

「まず、装備をはぎとられたらふつうに消滅する。それを逃れたとしても……永遠にゴウモンされ続けるくらいは覚悟した方がいいな。死ぬことも許されず、ひたすら痛めつけられたいか? もちろん痛覚はオンにされる」

「なにそれ怖すぎるよ!?」

「俺は耐性あるからどうってことないけど、おまえはたえきれないだろうな。心が……いや、魂がこわれてしまうかもしれない。そんなおまえは見たくない」

「私だって、ゴウモンされるクーさまなんて見たくないよ。耐性あるからって痛いものは痛いでしょ? クーさまはプライド高いから、ストレスたまってかわいそうだし」

「……」

 彼は少しだけくちをあけたまま、こちらを見つめた。

「なに? うわっ」

 両腕でぎゅっとだきしめられてドキッとする。

 良い匂いするし、あったかいし。固くて広い胸板がきもちいい。人間のお兄さんにハグされてるみたい。正直まんざらでもなかったんだけど……。

 バキボキベキィッ!

「クーさま!? いま私のウデおれなかった!? 背骨とか、肩から変な音が!」

「かわいい! おまえはかわいい! ペットとしてか女としてかはわからんが愛してる! グッチャグチャにつぶしてやりたい!」

「やめて! ミンチになりかけてる!」

 クーさまが正気にもどるまで5分くらいかかった。
 私の全身はおれてはいなかったけど……あちこちの骨にヒビが入っていた。

「愛してるなら二度としないで。こんどつぶそうとしたら、なぐるから」

「悪かったよ」

 彼は無表情にもどって私を治療した。
 だれかに心配されるの、初めてだったからうれしかったらしい。

「部下の悪魔たちは心配してくれないの?」

「あいつらドライだから」

 と魔神は語った。
 意外とさびしいひとなのかもしれない。