69話 日没まであと8時間30分


 どうやら、ここはお城のてっぺんらしい。屋根の上だから、国中を見おろせる。
 クーさまは女神をつかまえたっていってたけど。そのわりにだれもさわいでないのはなんでだろ?

「もういいか?」

 私を投げようとする魔神。

「まだ! 両足をとりもどしたなら、このまま逃げればいいだけじゃない? 戦う必要ある?」

「いい質問だな。理由は2つある」

 私を屋根におろして、彼はいう。

「1つ、やられっぱなしはムカつくから。2つ、太陽神からは逃げられない。この世界で日光が当たる場所はすべてやつのテリトリーだ。やらなきゃやられる」

「とんでもない神さまにケンカ売っちゃったんだね……」

 負けて永遠にゴウモンされ続ける自分を想像してしまって、身ぶるいした。

「ケアル―神と戦う必要があるのはわかったけど。女神と国王はなんで?」

「ケアル―にケンカ売ったら、妻と子孫も敵にまわるだろ。それに、こいつらこそがケアル―神の弱点だからな。利用させてもらう」

 とクーさま。なんかひどいこと考えてそう。

「たしか、ケアル―神って身内を焼き殺さないために力をおさえてるんでしょ? 妻と子孫を殺しちゃったら、本気だして世界ほろぼしちゃうんじゃないの?」

「そうならないために女神は生けどりにしてある。やつは女神のことは大事にしてるが、子孫はそこまで気にかけてない。安心して殺せ」

「うーん、ほんとにだいじょうぶかな……」

 なやんでいたら、水色の瞳がのぞきこんできた。
 サラサラの黒髪に、形のよい眉。キリッとつり上がった切れ長の目に、高い鼻。いかにも冷酷そうな目鼻立ちなんだけど、美しすぎてそれすら魅力的。

「永遠にゴウモンされたいか?」

 うすいくちびるが動く。ふつうにしゃべってるだけなのに、どことなくやらしい。

「イヤ!」

「じゃあガンバレ」

 そういって、彼は私をぽいっと落とした。

「あ~! まだききたいことあったのに!」

『なんだよ早くいえ』

 あっ、テレパシーあったね。そういえば。

「悪魔たちに戦ってもらえば、すぐ勝てるんじゃないの?」

『あいつら神とは相性悪いんだ。太陽神のまえにだしたら全滅する。国王だったら戦えないこともないけど、それじゃつまらないだろ?』

「勝てるかどうかわからないってときにスリルを楽しまないでよ」

『こういう時に楽しまなくて、いつ楽しむんだ?』

 ばっしゃーん!
 なんかどっかの水に落ちたけど、それどころじゃない。まだいいたいことがある。

「私が国王と戦ってる間、クーさまなにしてるの?」

『ザコのみっともない戦いっぷりを観てゲラゲラ笑う予定』

 あなたほんとに私のこと愛してる? 自分のしっぽ追いかけてグルグルまわる犬でも見るような気分なの?

「……」

 魔神の魔神っぷりにあきれていたら、視線を感じた。
 ふり返ると、ネコが1匹。

 おびえるように耳をふせて、前足で自分のムネをかくしている。ネコのおっぱいっておなかにあるはずだけど。神族っぽいから、人とおなじ場所にあるのかな? 毛むくじゃらだから、わからない。

「こ……こんにちは?」

 池みたい大きい入れ物に、たっぷりの水。気温が高いからぬるいけど、これ水だよね?
 それにつかるネコが1匹。お世話係っぽい女性が2人。ツボがたくさんおいてあって、なんか良い匂いする。

 もしかして、このネコ水浴びしてた? 
 たしか王さまって神族なんだよね。じゃあ、もしかしてこのネコが……。

「無礼者おおおおお!」

「侵入者ああああああ!」

 すぐそばにいたお姉さんたちがさけぶ。

「侵入者はどこですか!?」

 ドアをバアンとあけて、兵士たちが入ってきた。
 あ、やばい。つかまっちゃう。あわてて水からでて、窓からとびおりた。

「逃がすかぁっ!」

「ひえええ……!」

 ヤリ投げられた。当たらなくてよかった。
 ここは1階みたい。とびおりた先にはたくさんの兵士たちがいて、私はぴょんぴょん逃げまわった。

 太陽の衣をきて身軽になってなかったら、とても逃げられなかった。

 屋根の上までもどって、ようやく逃げきれた。
 ここもすぐ兵士が追ってくるから、どこかへかくれないと。

 私はサルみたいに壁をつたって、2階の窓へとびこんだ。

 ……よかった、ここにはだれもいないみたい。

 さすがお城って感じ。小屋を建てられそうなくらい広い部屋だ。見たことないようなゴージャスな家具ばかりおいてある。

 コソコソ窓の外をうかがいながら、考える。
 日没(にちぼつ)までにさっきの王さま……ネコを殺さないといけない。

 ヤダな~。どうせならもっときもち悪いバケモノだったらよかったのに。
 でも、やらなきゃやられるらしいから。しかたない。

 時間がないし、ネコを探そう。

 ギイイ。

 いきなり扉がひらいてビックリした。あわててベッドの下にかくれる。

 のっし、のっし、のっし……。

 ブタか牛が歩くような気配。そのあとに、たくさんの人間の足音がひびく。

「休むからもう下がれ」

 うちのお父さんより年上の……中年のオッサンみたいな太い声がした。

「危険です。まだ賊がいるかもしれません」

 足しか見えないけど、これは兵士かな?

「あんな子ども、怖くないわ。いざとなればよも戦える。1人にしろ。水浴びさせられて疲れたのだ」

 ん? 水浴び?

「……かしこまりました」

 おつきの人たちがさっていく気配。
 あれ、もしかしてこのオッサン……さっきの王さま?

 そろ~っとベッドの下からのぞいてみる。そこにはやっぱりネコがいた。
 さっきはあんまり見る時間がなかったけど、あらためて見ると……ぶちゃいくだ。

 ぽっちゃりっていうか、メタボっていうか。健康に影響がありそうなくらい丸い体型。手足が短くてずんぐりむっくり。

 黒と茶色のしまもようは、よくあるふつうのネコのがら。目は緑。でも、ケアル―神の宝石みたいな感じじゃない。ふつ~の緑。すごいタレ目で、アライグマみたい。

 顔だちは子どものラクガキみたいで……すごく……オッサンっぽい……。「ぶえっくしょい!」って大きいくしゃみしそう。

 まえにあったネコの神族メルズークは美形だった。女神ラクアトもセクシーで、華やかで……。

 だから、サファルカ国の王さまもキレイなにゃんこなんだろーなーと思ってた。
 まさかこんな感じだったなんて。

 どうしよう。私このネコ殺せないかも……。
 オッサンみたいな顔したブサカワにゃんこ、けっこう好きだから!

「だ、だれだおまえは!?」

 うわっ、見つかったぁ!