ノイズ・下
私が先日の真相をしったのは、1週間後のことだった。
少し前に大雨と地震で土砂崩れがおきた。
地元に影響はないものの、川や海付近に少し被害がでたらしい。
そのとき、斉藤さんの先祖の慰霊碑が壊れてしまった。
昔、先祖が娘を人柱にして川に沈めたときに建てたといわれる慰霊碑である。
斉藤家の女を何人も祟り殺してきたという少女の霊が暴走してしまったらしく。
霊障のおきた父親をかばって斉藤さんは車にひかれ、入院して生死の境をさまよっていた。
斉藤家に嫁入りしたわけでもなく、血縁関係もない私が襲われたことについては。
斉藤さんと親しくしていたからと、何人も祟り殺して見境がなくなってきたからだろうと和也は解説した。
彼は例の神社のおじいさんの協力を得ていろいろと奔走したらしく。
今後、あの少女が斉藤さんの家系や私を祟ることはないという。
ただし消えたわけではなく。
これからは川の神さまとしてずっとあの水底にいるらしい。
そして斉藤さんはそれを定期的に供養し祀る義務があるとかどうとか。
ちなみに、和也は西崎さんからもらったノイズがみえていたので、事前にわかっていたそうだ。
天災で慰霊碑が壊れること。
斉藤さんと私が危険にあうこと。
天災は止められないので、なにかあっても大丈夫なように私を見守っていたという。
……少し引っかかる単語だったけど、あまり深く考えないほうが良い気がするので聞き流しておいた。
和也のことは大好きだけど、美青年で両想いじゃなかったら許されないことしているなとたまに思う。好きだから許すけど。
斉藤さんは2日ほど意識不明の重体だったが、一命をとりとめた。
1ヶ月ほどで退院できるらしい。
「ある意味斉藤のせいで死にかけたわけだけど、あいつのこと怒ってる?」
和也が問う。
「ううん、ぜんぜん」
不可抗力だし、斉藤さんはなにも悪くない。
むしろ、彼が死にかけたと聞いて血の気が引いた。
「そっか。それじゃこのこと斉藤にだまっておいてやって。あいつ死にかけてたからなにも覚えてないみたいだけど。ひなのこと見失いかけたとき、場所を教えてくれたのはあいつの生霊だし。結果的にあいつのお守りで助かったわけだから」
お守りがなかったら別の身代わりが必要になっていたと彼は語る。
和也のこういう友達思いなところ、ひそかに好きだ。
斉藤さんにはロリコンロリコンいわれてるけど。共通の友人の下村さんや西崎さんとか。男友達の話を聞くと、ちゃんと友情も大事にしているのを感じる。
「ひなと斉藤の2人が危険ってわかってあいつ見殺しにした罪悪感とか。いままでの借りとか同情とかもあるしさ~。……あいつ、自分のせいでひなが死にかけたってしったら自殺しそうじゃん?」
俺が適当にごまかして説明しておく、と和也。
見た目はヤクザなのに義理堅いというか、責任感強そうだからなぁ斉藤さん。
斉藤さんを見殺しにしたと平然と告げる和也がちょっと怖かったけど。いちおう斉藤さんを弁護しているようなので聞き流しておこう。
「わかった」
それから、2人でお見舞いに行った。
斉藤さんはギプスや包帯、点滴をしていたけれど、思っていたよりは元気そうで安心した。
●余談
前から気になっていたことがある。
人柱にされた少女は、どうして斉藤家の女ばかりを祟り殺したんだろう?
最終的に斉藤さんのお父さんや斉藤さん本人も死にかけたけど。
私が彼女なら、まっさきに自分を殺した父親とかの男に復讐する。
斉藤さんのお見舞い中にそんな話をすると、
「当時、斉藤家には4人女がいたらしい」
と斉藤さんは答えた。
すでに他の見舞客もきていたらしく、花やらお菓子やらいっぱい置いてある。私と和也はお花、バイク雑誌や本などを差し入れておいた。意外と本が1番喜ばれた。入院生活はヒマなのだろう。
「そのうち1人だけ人柱にされたから、4人もいるのにどうして自分だけって妬ましかったんだろ」
姉妹の中からどういう基準で選ばれたのかは、あまり考えたくなかった。
●2人のその後
私は大人になってから和也と結婚して、高橋ひなたになった。
結婚式では斉藤さんがすごく喜んでくれた。
いつも仏頂面の彼が終始ニコニコしていたので、和也をふくめ、ふだんの斉藤さんを知る人たちが目を丸くしていた。
同居してから和也の不眠症はなりをひそめている。
精神的に余裕ができたからか、嫉妬やメンヘラっぽいこともほとんどしなくなった。
たまに夜中に目を覚ますと。
うっとりした顔で見つめられていたり、頭や身体をなでられていたりして思わずビクッとするけれど。
あと、幽霊がでて悲鳴をあげることもあるけれど。
おおむね幸せに過ごしている。