16話 ウルタ騎士団

 故郷のマロボ島ではみんな顔見知りだから、ぼったくりする人なんていなかった。
 島をでてすぐにたどりついたアルタ村はしらない人ばかりだったけど、ちょっと雰囲気がマロボ島に似てた。
 冒険者用のマーケットはしらない人がもっともっとたくさんいて、みたことないものもいっぱい。
 だからけっこう怖かったんだけど、お店をみてまわるうちに恐怖なんてどこかへ消えてしまった。
「これ、ピスキー……なの?」
 うっかり敬語を使いそうになって、あわてて訂正する。
 大人相手にため口ってなんか苦手。
「いや、ピスキーはあつかってないよ。お嬢ちゃんがもってるなら買いとりたいくらいだ」
 タバコをくゆらせながら店主がいう。くさいからやめて欲しいなぁ。
 ぴかぴか光るキレイな露店。
 近づいてみると、光っているのはたくさんの虫カゴで、中には妖精が入っている。
 手のひらサイズの、かわいい小人。
 赤、黄、青と色とりどりで、顔や髪形もちょっとちがう。羽根がない子や、あきらかに性別があるのもいた。
「こいつはブラウニー、そのとなりはフェアリー、こっちはウィスプ。ブラウニーとフェアリーは100G。ウィスプは50Gだよ」
「ぜんぶ妖精だよね? 妖精なんてなんに使うの?」
「ペットにしようとするやつもいるが、オススメはしない。妖精は気まぐれだし、逃げるか死んじまうだけだよ」
「でも、おじさんは妖精を飼ってるんじゃないの?」
「俺はそのへんで捕まえて、死ぬまえに売りはらってるだけさ。長く手元に置いておけるもんじゃない」
「へえ~、それぞれどうちがうの?」
「ブラウニーはお手伝い妖精といわれている。お菓子をあげると、寝ている間に困っていることを手伝ってくれるのさ」
「困っていることって?」
「たとえば、代わりに靴を作ってくれたり、部屋の掃除をしたり……そんなちょっとしたお手伝いさ。1回やった後は消えちまうけどな」
「すごい、良い妖精なんだ」
 人を困らせてばかりのピスキーとは大ちがい。
 見た目もかわいいし、買いたくなっちゃう。
「ただし気をつけな。まずいものを食わせたり、いいかげんなあつかいをしたら復讐されるぜ」
 店主が笑う。
「大事にしないとダメなんだね」
「こっちのフェアリーは冒険者にオススメだ。人のケガを治してくれる。どんな重傷でもたちどころに元気になるぜ! ただし効果は1度だけ。あまり長く閉じこめておくと妖精が衰弱して消えちまう」
「わー、すごーい!」
「最後にウィスプ。……ぶっちゃけこいつはただの松明代わりだ。しかし雨風じゃ消えないし、松明よりも明るい。安いし買って損はないと思うがね。どうだい、お嬢ちゃん?」
 営業スマイルをむけられて、急に罪悪感がめばえる。
 こんなに詳しく話を聞いたら、買わなきゃいけない気分になってくる。
 でも、正直どれも必要ない。
 掃除してもらいたい家はないし、ケガしたらクーさまが治してくれる。それに私は暗闇でもよくみえる。
「ごめんなさい。いりません」
 おそるおそる告げると、店主はあっさり笑顔を消した。
「そうかい」
 が、ニヤリと口元をつり上げる。
「まあ、いい宣伝になったからよしとしよう」
 どういうこと?
「親父、1匹ずつぜんぶくれ!」
 冒険者風の男性がずいと割って入ってくる。
「ブラウニー1匹ちょうだい」
「フェアリーとウィスプを1匹ずつ!」
 他にも、周囲の人たちがぞくぞくと店主に声をかけていく。
 ぼうぜんと見ている内に、あっという間に妖精はすべて売り切れてしまった。
 なんで急に売れたの……?
 ちょっと考えて、ようやく気づいた。
 妙に声の大きいおじさんだなあと思ったら。店主は私との会話をちゃっかりセールストークとして利用し、周囲の通行人にアピールしていたのだ。
 商売人ってすごい。

◆

 それからウロウロして、マーケットのすべてのお店を見終わった。
 ぜんぶ買いしめたいくらいだったけど、なんとかガマン。
 荷物を入れるバッグや下着に着がえ、日用品……かわいい雑貨をちょっとだけ買った。
 あとはマフラーや手袋などの防寒具。
 北の国には雪っていうのがふってて寒いと聞いたから。
 そして魔力を回復できる携帯食料と、ジュース。
 買い物を終えるとちょうど日がしずんできた。
 周囲ではだんだんふつうの人が減っていって、かわりに怪しい格好の人が増えてきた。
 私もあんまり人のこといえないけど、お面やフード、カブトなんかで顔をかくしている人が多い。
 特に目立っていたのは、2足歩行する大きいネコちゃん。
 近くの人に聞いたら”獣人”っていうらしい。文字どおり、ケモノと人の特徴をあわせもつ種族なんだとか。
 人間みたいに言葉を話し、少しだけど服も着ている。
 模様は全身まっ黒で、短毛。黄色い目だけど、角度によっては緑に光る不思議な目。しなやかでスリムな体つき。長くゆれるしっぽ。
 めずらしくて見惚れていたら、むこうも気づいて「フフン」と自慢するようにほほえんだ。
 オスかメスかもわからないけど、確実に美人!
 美ネコというべき?
 大きな目。小さな鼻はキレイな形だし、うっすらと開いた唇がなまめかしい。
 完璧な仕草の流し目からはフェロモンがあふれていた。
 なんだかはずかしくなってフードをかぶり、顔をかくす。
 おそるおそるフードの隙間から外をのぞくと、獣人はもういなくなっていた。

◆

 クーさま、遅いな~。
 そろそろ目が赤くなりそうなので、フードをかぶったままうろつくことしばし。
 ヒマを持てあましていたら、
「早くしろよー、のーろーまー、ぐずー」
 なんかすごいえらそうなクソガ……お子さまがいた。
 10歳くらいかな?
 高そうな服をきてて、隣には従者。
 周囲では商人や召使たちがせっせと荷物を運んでいるのに、イスにふんぞり返って悪口ばかり。
 それも飽きたのか、足を引っかけて商人を転ばせた。
 高そうなツボが落ちそうになって、あわてて商人が受け止める。地面にスライディングしたものだから、商人の服が泥だらけになってしまった。
 お子さまはチッと舌打ちをして、商人のおしりをガスガス蹴り飛ばす。
「さっさとしろ! 父上にいいつけるぞ!」
「ひぃぃ! すみません坊ちゃん!」
 男の子より明らかに年上で立派な体格をした大人たちはぺこぺこと謝り続け、蹴られても殴られても大人しく彼にしたがっていた。
 まわりの通行人たちは眉をひそめ、ドン引きしているがだれも止めない。
「あの子、えらいの?」
 こそっと近くのお店の人に聞くと、お姉さんが小声で教えてくれた。
「このマーケットを管理しているウルタ騎士団の団長の息子ソガさまだよ。団長ににらまれたらマーケットを利用できなくなるから、だれも逆らえないのさ」
「マーケットなのに、商人じゃなくて騎士団が管理してるの?」
「大元は領主さまで、その命令で騎士団が管理して、許可を得て商人たちが商売している形だからね。特に銀行や医療施設は騎士団がじきじきに運営しているんだよ」
「へえ~……」
 そういえば、マーケットには立ち入り禁止エリアがある。
 あの辺りに騎士団がいるのかな?
 ガシャン!
 なにかがわれる、かん高い音。
 ふり返ると、商人が箱を落としてしまっていた。箱からこぼれているのは、ひび割れた食器。布でくるまれているけど、さすがに落ちた衝撃にはたえられなかったみたい。
「あー! われちゃったじゃないか! どうしてくれるんだよ!」
 ソガがさけぶ。
「おまえが蹴るからじゃないか……!」
 たまらず商人がいい返す。
「なんだその口の利き方は! こっちは雇い主だぞ!」
 ソガは従者に命令してムチを用意させると、商人をビシバシ打ち始めた。
「ひえぇぇぇぇ!」
 子どもの力だから、そんなに強くないはずなのに。
 攻撃力アップの補正でもついているのか、目をそむけたくなる威力。
 ムチでぶたれるたび、商人の服がやぶれて血がとびちる。さけた傷口がいかにも痛そうで、みていられなかった。
「やめなよ」
 それ以上やるとおじさんハダカになっちゃうよ。みたくないよ!
 近づいて声をかけると、ゲラゲラ笑っていたソガがこちらをふり返った。
「なんだよおまえ」
「その食器、私が買いとるよ。だからもうやめなよ」
 ソガが鼻で笑う。
「これはそのへんの安物じゃないんだぞ? おまえみたいなチビに1000Gはらえるのかよ?」
 チビって、この子私より背低いんだけど……。
「そんなにお金もってない。あなたが自分で割ったようなものなんだし、100Gにまけてくれない?」
 残り200Gしかないので、勘弁してほしい。
「話になんねーよ、この貧乏人が!」
 少年はしばらく高笑いしていたものの、やがて私の杖に目を止めた。
「よくみたら、おまえ良い装備してるじゃん。この杖となら交換してやるよ!」
「えっ」
 返事するより早く杖をうばわれて、血の気が引く。
 それ失くしたらクーさまに怒られる!
「か」
 返して、といおうとしたらソガにババババと激しい電流が走った。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」
 一瞬、彼の骨がすけてみえた。
「ぼっちゃん!?」
「ソガさま、ご無事ですか!」
 杖をとり落としてしりもちをついた少年に、従者たちがかけよってくる。
「私、なにもしてないんだけど……」
 ぽかんとしていたら、ソガがもう一度杖をつかむ。
「なんだ、いまの……ぎゃん!?」
 また彼の体に電撃。
 そんなにひどいケガはしてないけど、髪の毛や服がこげていて、皮膚もヤケドしたみたいに赤くなっている。けっこう痛かったらしく、泣きべそをかいていた。
「なんだこの杖、使えねー!」
 ソガが投げた杖をひろうと、ふつうにもてた。
 なんでだろ?
 雷竜エドラを食べた私には雷属性の攻撃が効かないから?
 それとも、いちおう私は杖の持ち主だからかな?
 しげしげと観察していたら、杖の先っぽについている雷竜の目玉の瞳孔が開いていることに気づいた。
 怒ってる……のかな? ただの寝おきにもみえるし、わかんない。
「あいつを捕まえろ! 僕を攻撃した! 父上にいいつけてやる!」
「攻撃したつもりはないってば」
 周囲にいた彼の護衛たちがむかってきたので、両手を上にあげて大人しくする。
 抵抗しなかったから乱暴はされなかったけど、あっという間にはがいじめにされて、地面にひざをつかされた。
 甲冑姿の騎士が杖をとりあげようとして、また感電する。
 そのひょうしに私に背中がぶつかり、かぶっていたフードがめくれてしまった。
「こいつ、魔物だ!」
 同情するような視線でこちらをみていた周囲の人たちが青ざめ、悲鳴をあげて逃げだす。
 たかが小娘とナメた様子だったソガの護衛たちの顔が強ばり、剣を抜いた。
 あ、やばい。また殺されちゃう。
 恐怖で体が硬直する。
 ソガが胸元から宝石のようなものをとりだして地面へ投げると、大きな音とともに赤い狼煙が空へ上がった。