20話 雪のふる町

 ごうごうと雪が降り続ける、白い空。
 門番はいなくなったけれど、門は固く閉ざされている。
 だいたい20メートルくらいの高さで、厚みもけっこうありそう。
 赤いレンガ製のお洒落なデザイン。
 門の部分は黒っぽい鉄でできている。
 どこかに開ける仕掛けがあるんだろうけど、さっぱりわからない。
 どうやって中へ侵入するつもりかと思っていたら、
「大きな声をだすなよ」
「えっ」
 人さらいみたいな凶悪な顔でクーさまが私を片腕でかかえて、跳んだ。
 一度壁をけって、ひらりと城門のてっぺんに着地する。
 内臓が浮かび上がるような感覚に悲鳴を上げそうになり、私はとっさに口をおさえた。
 遠くの城門の上に、見はりらしい人影が数人。
 彼らがふり返るより先に、クーさまは素早く門の内側へとおりた。
 そのまま建物の物陰へ移動し、あたりを探る。
 そこにはたくさん人がいた。
 おそらく一般市民だろう。
 小さな子どもから30代くらいまでの男女がいる。
 なぜか老人はいないけれど、寒いから家の中にでもこもっているのかもしれない。
 彼らは買い物をしたり、食事をしたり。それぞれくつろいでいる様子だ。
 みんなモコモコに着ぶくれているのが、なんだかカワイイ。
「あの中にまぎれる」
「ムリですよ」
 急いでクーさまを止めた。
「ムリ?」
「私たちとあの人たちでは、明らかに人種がちがいます。あの中に入っていったら、すごく目立ちますよ」
「人種……?」
 私と彼らを見比べて、クーさまが私を地面へおろす。
「髪の色がそんなに重要なのか?」
 どこから説明したものか。
「ええと……髪だけじゃなくて、全体的にちがうんです」
 この国の人たちはみんな金髪か銀髪、または白髪に青い目。
 彫りが深くて、高い鼻。
 そして肌は雪のように白くて、背が高い。
 女性でも170センチ以上が基本みたい。男の人は2メートル越えもチラホラいる。
 そう説明しても、彼は不思議そうにしている。
「俺の身長と目なら髪をそめれば通用するんじゃないのか? 肌の色は少しちがうが」
 クーさまも白色人種よりの肌だけど、ちょっとちがう。
 でも、最大の理由は……。
「女の人はみんなめちゃくちゃ美人なのに、男の人はなんか地味っていうか……ごつい、むさい、いかつい系なんです。クーさまみたいな美形は浮きます。女装した方がごまかせるかも。……あと、私みたいな赤毛のちんちくりんもすっごい目立ちそうです」
 ほんと、どーなってるのこの国。
 あんな美女が母親だったら、男でもすごいイケメンになりそうなもんなのに。男女で美形レベルがかたよりすぎている。
「おまえ、人間基準ではブサイクなのか」
 クーさまがあわれむような目をした。
「ふつうです。美人じゃないけど、ブスでもブサイクでもないです」
 二度というな。ぜったいに。
「ふーん」
「……人間バージョンのクーさまってやたら美形ですけど、美醜わかんないのにどーやって作ったんですか?」
「人間をたぶらかすには、やはり美しい方がいいからな。世界で美しいといわれている男100人を参考に錬成した。価値観が極端にかたよっているデータは除外したから、一部の地域では通用しない美形だけどな」
 詳しく聞いてみたいことは山ほどあるけど、あんまりここで長話してはいられない。
「へ~……この国の男女そっくりの姿に私たちの姿を変えるとか、できないんですか?」
「ムリだ。俺はこの姿以外の人間に化けることはできないし、なんなら本来の姿にももどれない」
「どーいうことですか?」
「人体を錬成するのは手間と時間と魔力がかかるんだ。本来の姿にもどるにはどれか体を1つとりもどすか、この肉の器をすててまた精神体になるしかない」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
 頭が混乱してきたので丸投げすると、案外あっさり彼は答えた。
「隠れながら城へ潜入する。城ならなにか手がかりがあるだろ」

◆

 白くてふわふわの雪でデコレーションされた、レンガ作りの家がたくさん並ぶ城下町。
 なんだかメルヘンな景色のどまん中に、お城がある。
 このお城もまたかわいらしい。
 白と灰色の壁にあわいグリーンの屋根。
 丸みをおびた独特の形状は、一度みたら忘れられないほど印象的。
 だけど、そこにたくさんいる軍隊はさすがにかわいくなかった。
 お城をぐるりと囲むように、あちこちに軍隊がひかえている。
 ざっとみた感じ、歩兵と重装歩兵、弓兵、魔法使いかな?
 魔法使いはみんな女性だからか、重たい鎧じゃなくて、モコモコの赤いローブ姿に杖。
 男の兵士は鉄の帽子に、鎖かたびらに、全身鎧に盾と剣。
 そしてみんな、赤いマントをつけている。
 門番の趣味かと思ってたんだけど、この派手な服装は軍服らしい。
 一つの場所で長い間じっとしている人はモコモコ帽子とコートの着用を許されてるって感じかな?
 寒いところで鉄の装備はいかがなものかと思うんだけど……まあ、なにか対策してるんだろう。
「こっそり潜入はムリそうですね」
 小声で告げると、クーさまは早くもなにかの魔法を放とうとしていた。
 彼の手のひらの先に広がる魔法陣は1メートルほど、色は毒々しい赤。
 攻撃魔法な予感がして、あわてて止めた。
「ここは私にやらせてください」
「へえ?」
 意外、といわんばかりに彼がこちらを見下ろす。
「だってクーさまに任せたら殺しそうだし。それなら私がエドラの杖で気絶させてみます」
 もしかしたら手加減まちがえて殺しちゃうしれないけど、それでも生存率はクーさまよりは高いはず。
「殺しておいた方があとあと楽なんだが……まあいい。積極的なのは良いことだ。えらいぞ、ゲボク」
 いままで見たことないような、爽やかな笑顔でクーさまがニコッと笑った。
 よーしよーしと頭をなでられて、なぜか背筋がぞわりとあわだつ。
 クーさまに褒められると気っ色悪いなぁ。
 とても顔が良いのに、笑顔がうさんくさいからかも。
 嬉しいような嬉しくないような、ビミョーな気分を味わっていたら、主がなにかに気づいて魔法をかけてきた。
「いま、なにしたんです?」
「50度の体液は熱すぎたらしい。防腐魔法が切れて体がくずれかけていたから、30度にして治しておいた。この寒さでもダメージを受けそうだから、ついでに加護も」
「……それはどうも」
 人の体温って50度じゃないんだ。