21話 ゲボクは混乱した

 お城は円形。
 東西南北とてっぺんに兵士が配置されている。
 私たちがいるのは南の入り口。
 他の見はりに気づかれないように、素早く確実に気絶させなければならない。
 殺さないように、でも確実に気絶させられるていどの力。
 異次元に収納していた杖をクーさまから受けとり、私は杖をぐるりと回した。
 5回転くらいチャージすればいいかな?
「今回はそれだと目立つ」
 クーさまがそういって、私の手ごと杖をつかむ。
 背中に気配を感じる。
 私をすっぽりつつむような体勢に思わずドキッとしてしまった。
「クーさまちょっと近いですよ。そ、それに手をにぎるなんて……私お年ごろなんだから、もっと気を使ってください」
「は?」
 ふり返ると、彼は口元をへの字にまげて面倒くさそ~な顔をした。
「さんざん説明したと思ったが、この姿はただの擬態で」
「わかっててもイケメンにこんな近づかれたら緊張するんですっ」
「バカバカしい」
 クーさまが私の右手ごと杖を振り上げ、すぐに降ろした。
 トンッ。
 地面を軽くついたような仕草。
 キュインッ。
 同時に杖の先っぽにある竜の目玉が金色に光る。
 いつもは眠たげにトロンとしている竜の目がカッと見開き、血走った。
 トンッ。
 キュインッ。
 トンッ。
 キュインッ。
 トンッ。
 キュインッ。
 エネルギーチャージにはこういう方法もあったらしい。
 杖全体が金色に発光する。
 まるで燃えているみたい。
 杖の周囲には、火の粉みたいに金の光が飛んでいる。
 杖に溜めたエネルギーがちょっとモレてるみたいに感じた。
 台風の目みたいに、かすかに風がおこる。
 クーさまは私から手をはなし、城の上部にいる兵士を指さして、
「やれ」
 耳元でささやいた。
 ねえちょっとクーさま、それわざと?
 別になんにも変なこと考えてないってわかってても、イケメンの姿で近づいて、私好みの超美声でささやかれたら、好きになっちゃうでしょーが!
 八つ当たりパワーもこめて杖をふると、三日月型の電撃が兵士を射抜いた。
 悲鳴は聞こえないけど、死にかけのセミみたいにバタバタバタッともがき苦しんでたおれる。
「……死んでないですよね?」
「生きてる、生きてる」
 クーさまは軽口のようにいって、次は南側の入り口にいる兵士たちを指さした。
「次は2回でいい」
「はい」
 2回杖をついてからふると、彼らは電流をおびて小きざみにふるえ、雪の中へたおれた。
 急いで入り口へ走ろうとしたけど、やっぱり雪の上だと上手く走れない。
 国内だから、外よりは踏み固められてて歩きやすいんだけど、油断するとツルってすべるんだよね。
 見てる分にはキレイでいいけど、雪って不便。
 モタモタしていたら、クーさまにとんっと背中を押された。
「えっ」
 悲鳴をあげそうになって、口を閉じる。
 雪に混じっていた氷の上を一気につるーっとすべり、お城の入り口の壁に激突……する寸前。
 パニックになってエドラの杖をふったら、ざくうっと謎の手ごたえ。
 半泣きで目を開けたら、杖の先端が壁に突き刺さっていた。
 このおかげで、激突せずにすんだみたい。
 この杖、固すぎない?
 試しに杖で壁を殴ってみたら、面白いくらいガラガラとくずれた。
「遊んでる場合か」
「クーさまはもうちょっと私を丁寧にあつかってくださいよ」
 こそこそと城内へ入ると、すぐそこに兵士が4人いた。
 うええいきなり!?
 城内は城内で見はりがいるなんて。
 私がフリーズしている間に、クーさまが4人を殺してしまった。
 速すぎて黒い線がジグザグに走ったようにしかみえなかったけど、肉弾戦でやったんだと思う。
 大量の血がぼたぼた落ちたかと思うと、クーさまの右手が赤くそまっていて、床に転がる4人の兵士たちの身体がところどころ欠損していたから。
 心臓、または頭を一撃でつぶしたっぽい。
 悲鳴すら上げられずに死んでいった彼らの死体から、目がはなせない。
 クーさまってこんな怖い魔神だったっけ?
 くずれたはらわたや脳みそをみつめていたら、なんだか頭がぼうっとしてきた。
「早くこい、ゲボク」
 階段のところでクーさまがまっている。
「あ、はい」
 震える足でなんとか走った。
 いやいや、わかってた。ついさっきも門番殺してたんだから。
 このヒトは魔神って種族のバケモノなんだ。
 彼に殺させたくないなら、私がしっかり気絶させなくちゃ。
 階段をのぼりながら、また余計なことが頭に浮かぶ。
 クーさまの封印といたら、もっとたくさん殺すんでしょ?
 私がちょっと数を減らしても、意味なくない?
「シアーナ共和国の人たちに協力して、クーさまを完全に殺した方がみんなのためだよ」
 私の中の良い子がささやく。
「なにいってるの。クーさまには恩がある。願いを叶えてもらったんだから、ちゃんと役に立たなくちゃ。名前も知らない兵士なんてみんな殺しちゃえばいいんだ」
 私の中の悪い子が言い返す。
 どうすればいいのか、わからなくなってきた。
 クーさまが足を止める。
 階段上の廊下にも見はりがいた。
「ダメ!」
 混乱していた私は、とっさにクーさまの腕を引いてさけんでしまった。
「ゲボク?」
「そこで何をしている!」
 気づいた兵士がさけび、大勢の兵士たちがあちこちからやってくる。
 あっという間に、階段の下と上をふさがれ、周囲を囲まれてしまう。
「どういうつもりだ」
 クーさまがじろりとこちらをにらむ。
 水色の瞳が怒りに燃えていた。
「ごめんなさい……」
 申し訳なくて目をそらす。
 なのに、私は手をはなさなかった。
 この手をはなしたら、兵士たちを殺すだろうから。
「見はりが殺されてる! そいつらを捕まえろ!」
 魔法使いの1人がさけぶ。
 大量の兵士たちにはさみ撃ちにされて、私たちは捕まった。
 クーさまの舌打ちが聞こえた。