24話 北の国のお姫さま

「結構です」
 特に助けはいらないみたいだし。
 野営地へのお誘いを断ると、オズは「どうして?」とこちらを見つめた。
 どうごまかそうかと迷ったけれど、ウソを考えるのがめんどくさくて、正直に話すことにした。
 いまなら、なにがあってもエドラで逃げられるし。
「私モンスターだから」
 フードを外すと、あらわになった赤い目をみて彼らがいっせいに警戒する。
 だいたい予想どおりだけど、オズは一瞬肩をこわばらせただけで、笑顔をくずさなかった。
 剣をかまえ、魔法の詠唱を始めた兵士たちを片手で止めて、変わらぬ口調で声をかけてくる。
「わあびっくり! モンスターなのに、どうして僕らを助けてくれたの?」
「ごめんなさい、別に助けたわけじゃないんです。モンスターの大群に襲われたくなかったから、必死だっただけなんです」
「えっそうなの!? そのわりには、君の電撃はキレイに僕らを避けてモンスターたちだけを殺していったけど」
 逆にこちらが「そうなの?」と聞きたい。
「もしかしたら、”できるだけたくさんモンスターを殺す”ってことだけ考えてたから、そのせいかも」
 人はかなり抵抗があるけど、モンスターを殺すことにためらいはない。
 故郷にいたときにケモノや魚をさばいて食べたりしてたから、その延長みたいに思えるせいかも。
 かわいいのや人型モンスターはちょっと微妙だけど、こっちも生きるためだからしかたないよねって感じだ。
 エドラに乗ったままふわふわと距離をとっていたら、オズはそのぶん近づいてきた。
「ねえ君、僕らと協力してシアーナ共和国の元首をたおさないかい!?」
 きらっきらした爽やかな笑顔でなんてこというの?
 私がぽかんとしている間に、部下たちが小声で彼をいさめる。
 「モンスターなんて」とか「ワナ」とか聞こえるし、悪口だろうなぁ。
 怖いし、もうほうっておこうか。
 考えていたら、オズは言った。
「あの力を見ただろ!? 彼女が味方になったらすばらしい戦力になるよ! 雪の王に勝つにはなりふり構っていられないんだ! それに考えてみて、彼女が僕らを殺す気だったらさっき殺してるはずだよ!」
 声が大きい男の子だなぁ~。
 部下たちは納得したのか、武器をおさめた。
 それをみて、おずおずと口をはさむ。
「……私の目的は魔神の封印をとくことです。それでもいいんですか?」
 部下たちが「うげっ」という顔をした。
 オズは目を丸くする。
「君ってバカだなー! なんでそんなことバカ正直にいっちゃうの!? 僕らユーグリアス王国の人間だっていってんだから、それは隠さなきゃダメでしょ。だまって利用すれば良かったのに!」
「ウソや駆け引きは得意じゃないんです」
 どうせバカだしー。
「……まあ、いっか! 人外の力を借りてるのはむこうだって一緒だ。僕だって姫のためなら悪魔とだって契約するさ」
 姫?
「こちらとしても味方は欲しいのでありがたいんですけど、あなたたち怖いから、イヤになったらすぐ逃げますよ。それでもいいですか?」
「うん、いいよ!」
 ただし彼らとしても魔神復活は困るので、あくまでも一時的な協力ということになった。
 シアーナ共和国と戦う間だけ協力し、終わったら敵対するという。
「でも、なんであなたたちシアーナの人たちと戦ってるんですか? たしか、いっしょに魔神を封印したお友達みたいな関係の国だったよーな……」
 同盟国っていうんだっけ、こういうの?
「そのへんは話すと長くなるからさ、僕らの野営地で話そうよ!」
 オズの言葉に、いままで黙っていた魔法使いが口をはさんだ。
「隊長、姫のいる場所に魔神の手下を連れこむおつもりですか?」
「そうさ」
 オズはまったく悪びれもしない。
「さっきの大群は野営地も襲っているはずだ。移動力と隠密性重視の偵察隊、ハヤブサ騎士団はぶっちゃけ弱いからね。野営地に残してきた僕らの仲間は、姫といっしょにもう死んでいるかもしれないし、まだギリギリ生きているかもしれない。だから、味方になるかもしれないこの子をイチかバチかで連れて行くんだ」
 初めて笑みをひそめたオズの瞳は静かに燃えている。
 邪魔をするならおまえを斬る。
 そんな殺気がビリビリ伝わってきた。
「文句あるやつ、いる?」
 しんと一同が静まり返る。
「じゃあ、出発!」
 オズの号令で魔法使いが杖を雪にザクッと突きさす。
 呪文とともに魔法陣が浮かびあがり、地面がもこもこと盛り上がっていく。
 雪人形とでもいうのかな。
 雪でできたいびつな怪物が生まれた。
 顔と首はないけれど、猛獣のような4本の足があってよつんばいになっている。
 兵士たちはなれた様子でその大きな背によじ登り、ケガ人を固定していく。
 雪人形の背に大きな杭を何本も刺してつかまっているけど、人形はダメージくらわないのかな?
「ゴーレムをみるのは初めて?」
 オズが問う。
 この雪人形はゴーレムというらしい。
 うなずくと、「君も乗っていいよ!」といわれたけど、お断りした。
 さっきから命令もお願いもしてないのに、エドラがけっこう思い通りに動いてくれている。
 なぜかはわからないけど、このままエドラに乗ってついていく方が安心だ。
 11人の兵隊さんたちをのせたゴーレムは折りたたんでいた手足をのばし、急発進した。
 動きはクマに似ているけど、ジャンプ力もすごい。
 スタートダッシュのジャンプだけで10メートルを一瞬で進んでいく。
 エドラの全速力と同じくらい?
 置いていかれそうになってあわてて追いつくと、オズがニカッと笑った。
「僕って昔からカンが良いんだよね。君は裏切らないって信じてるよ! 変なマネしたら殺すけど」
 それ、信じてないよね?

◆

 もしかしたら、またあの大技をやらないといけないのかな?
 またやれって言われても、できる自信がないんだけど……。
 なんて思いつつ、エドラの上でジュースを飲んで魔力回復をしていたら、野営地らしきものが見えてきた。
 まず目に入ったのは、炎の赤。
 白い雪におおわれた大地で、なにかがごうごうと燃えている。
 荷物かなにかあるのかな?
 白と灰色、黒の煙が空に続いている。
 地面には大きくて丸い、おまんじゅうみたいな形の小屋がいくつもあるけど、半分くらい潰れたりしている。
 雪でできているみたいに見えるけど、テントかな?
 だれか戦ってる。
 さっきの大群よりはマシだけど、私一人だったら見てみぬふりして逃げたいくらいのモンスターたちが暴れていた。
 その中で動くわずかな人影。
 あれは……剣士かな?
「ナナシ! あのモンスターぜんぶ殺せる!?」
 オズが問う。
「えっ、わかんない」
 つい素で答えてしまった。
 マーケットで「貴族とまちがわれるから敬語やめた方がいいよ」って言われたから迷うんだけど、身分が高そうな人相手にタメグチしたら「無礼者ー!」ってバッサリ斬られそうだしなぁ。
「わからない?」
 緑の瞳がぎらりと輝く。
 あ、うん敬語にしよ。怖い。
 貴族やセレブと勘違いされそうなときだけタメグチにしとけば大丈夫でしょ。
 殺意のこもった怒りのまなざしが恐ろしくって、早口で弁解する。
「私は連続攻撃できないんです。1度電撃を撃ったらしばらく使えない。なるべくたくさんしとめてみるけど……ちょっと時間がかかります」
「わかった!」
 オズはすぐさま指示をだす。
「スケアはナナシについてフォロー! ロブはこのままゴーレムにのって物陰にひそみ、ケガ人を守れ! その他、動ける者は僕といっしょにモンスターを撃退しつつ姫を探せ!」
 家柄やお金だけで騎士になったお飾りの隊長さんなのかと思っていたけど、どうやらそうでもないみたい。
「了解!」
 彼の部下たちが異口同音に返事をして、素早く動きだす。
 オズと数名はゴーレムから飛び降りて駆けだし、ロブという魔法使いはゴーレムを方向転換させる。
 ちらっと見えただけだけど、オズのジャンプ力とスピードは人間ばなれしているようだった。
 ゴーレムから降りて自分で走った方が速かったんじゃないかなってくらい。
 スケアと呼ばれた兵士は、光とともに巨大な鳥へと姿を変えた。
 モンスターかと思った。
 頭が2つある大きなワシだ。
 ワシはゴーレムから飛び立ってこちらへ近づき、エドラと並走する。
「イソゲ!」
 2つのクチバシから同時にでた言葉は、オウムみたいにカタコトだった。
「は、はい!」
 あわてて周囲を見回す。
 どこか、全体を見渡せるような高い場所は……と探して、すぐ近くにあることに気づく。
「スケアさん! 上に乗ってもいいですか!?」
 たぶん「ハア!?」とでも言ったんだろう。彼女は「ピキャアッ」と甲高く鳴いた。
「魔法使うには、一度杖から降りないとダメなんです!」
 言いながら飛び乗ると、ちょっと下降したものの、またすぐに上昇してスケアが告げる。
「ミカタをネラウナヨ!」
「はい!」
 野営地の上空で旋回を始めたので、私もエドラをかまえる。
 スケアさんの羽毛すっごくふわふわで気持ち良い……とか考えているヒマはないのだ。
 でも鳥の上だとぐるぐるチャージできないし、どうしよう。
 えーっと……。
 こんなのでも大丈夫かな?
 スケアさんこと双頭のワシにまたがったまま、杖の先端で円をえがくように回してみる。
 キュインッ。
 杖が反応した。
 大丈夫そうなので、杖でぐるぐるチャージしながら下の景色を観察していく。
 弱いといっていたわりに、オズたちはけっこう戦えているみたい。
 見たことない魔法もいくつか使っているし。
 ただ、やっぱり数が多すぎる。
 人とモンスターを合わせて、おびただしい数の死体が地面にたおれているけれど、まだまだ100匹くらいいる。
 あれぜんぶたおすには、いったい何回チャージすればいいんだろう……。
 とか考えている間に兵士が1人殺された。
 モンスター5匹にとりかこまれて全身を食い殺されていく。
 考えてるヒマはない。急がなきゃ。
 何回チャージしたか数えてないけど、ひたすらぐるぐるしてたからか、杖は赤色に光り輝いている。
 さっきの大技に比べたらまだぜんぜんチャージ足りてないけど、さっきよりモンスター少ないし、なにより急がないとまた人が死んでしまう。
 がむしゃらに10回くらいぐるぐる回して、杖をふるった。
「エドラ、よろしく!」
 その瞬間、空が光った。
 爆発と勘違いするほど巨大な稲光。
 まっくらな夜を昼間のように照らしだしたそれは、途中から百以上の細い電撃へと枝分かれしてみるみるうちにモンスターたちをつらぬき、燃やしていく。
 電光石火という言葉があるけれど、本当にそのスピードに目が追いつかない。
 エドラの電撃が確実にモンスターたちの息の根を止めていく光景をながめていたら、いまさら恐ろしくなってきた。
 この杖は、本当は私なんかがもってちゃいけないほど怖いものなのかもしれない。

◆

 スケアさんといっしょに地面へ降りていくと、オズたちが固まっていた。
 姫がどうとかいっていて、魔法のエフェクトみたいな虹色の光が輝く。
 杖をもった老人があらわれた。
 魔法使い風のローブを着た、枯れ木のような男性だ。
 その背後には1人の少女。
 16歳くらいかな?
 おでかけ用っぽいドレスを着たお姫さまだ。
 コルセットはきゅっとしまっているし、ドレスのスカートはふんわりと広がっていていかにも動きにくそうだけど、地面に引きずるほどは長くない。
 長いロングブーツがみえるあたり、走ることくらいはできそうだ。
 本物のティアラを見れるかなって期待していたんだけど、いまはティアラをつけてないみたい。
 代わりに、すっごく大きくて高そうな宝石とリボンがついた帽子をかぶっている。
 オズがいっていた”姫”ってきっとこの子だ。
 城下町でみた人たちと特徴がよく似てる。
 背が高くてすらっとしていて彫りが深い顔の造形。
 雪のように透き通る肌と、本当にまっ白な髪。
 でも、目だけはみんなとちがって赤かった。
 アルビノなのかな?
 同じ赤でもモンスターの私とはちがう、リンゴみたいなキレイな色の目だ。不気味に光ってもないし。
 それにやっぱり極上の美人!
 なぜか耳の先がとんがってるのが気になるけど、うっとりと見惚れてしまうような美少女だ。
 全身のあちこちにフリルがついた格好なんだけど、お人形さんみたいに似合っている。
「姫!」
 私がぽかーんと魅了されている間に、オズがお姫さまの近くへと駆けよる。
「ハヤブサ騎士団第1小隊、ただいまもどりました! おケガはありませんか!?」
 あからさまにほっとしていて、いまにも飛びつきそうな様子のオズ。
 でも姫は暗い表情。
 老人が前に進みでて、私を指さした。
「なぜあのモンスターを生かしたままにしているのですか!?」
 うん、まあ気づくよね。
 私の赤い目は闇夜でよく光る。