26話 長い長い昔話2

「え~と、シアーナ共和国の人はみんな耳が長いんですか?」
 聞くと姫がうなずき、横でひかえていた貴族っぽい男の人が帽子を外した。
 彼はいかつくてシンプルなお顔立ち。
 でも耳は姫と同じくとがっていた。
 ウサギ耳の長さとネコ耳のとがり具合をたしてわったような感じだ。
 ということは、町でみた人たちもみんな耳がとがってたけど、帽子で隠れて気づかなかったってことか。
 姫の帽子は耳が隠れてないから、たまたま気づいたみたい。
「私は姫の護衛騎士カーライルと申します。補足しますと、我々がみなこの場で帽子を被ったままでいるのは決してあなたを軽んじているからではありません。この国では、つねに帽子をかぶっていないと凍死してしまうのです。ここのように寒さよけの結界をはっていれば死にはしませんが、習慣となっているのでね。もはや身体の一部であります」
「あなたはいつも話が長い」
 姫がたしなめ、彼がはははと笑う。
 たぶん、さっき姫の近くで死にかけていた騎士さんだと思う。
 元気に軽口をたたいてはいるけど、片腕を包帯でつっているし、胸や足など、他にもたくさんケガしているみたい。
 足元に突き刺してあるロングソードが恐ろしい。
「あと、平均寿命30歳といってましたが、町にお年よりがいなかったのはそのせいですか?」
 もう1つ質問をすると、姫が目をふせた。
「ええ、35も生きれば長寿といわれます。私もあと17年くらいしか時間がありませんから、後悔しないよう気をつけています」
 ん? あと17年ってことは……。
「13歳……なのですか……?」
「はい」
 彼女はきょとんとした様子でこちらを見つめた。
 見えない。
 16~18歳くらいかと思ってた。
 老けてる、というには美しすぎる。
 大人びている、または発育が良いというべきか。
「すみません、同じ年だったので親近感がわいて」
 ごにょごにょと言い訳したら、彼女たちにもおどろかれた。
「お若くみえますね」
 と姫。
「あはは……どうも」
「南の地方の人々はみんな幼く見えると聞いたことがあります。もしやあなたは南の出身なのでは?」
 カーライルが問う。
「そうですね。ここよりは……」
 答えながら気づいた。
 シアーナ共和国の人が大人びてみえることを前提としても、カーライルさんて三十路すぎに見えるんだけど……。
「ああ、気づかれましたか? そうです、私はそろそろ寿命です。ですが、姫のご家族をお助けするまでは死にませんぞ! ゴーストになってでも姫のおそばから……」
 まだなにかしゃべろうとしていたけれど、姫が机をトントンとたたいたら黙った。
「話をもどしましょう」
 姫が再び昔話を始める。

◆

 便宜上、元首システィアーナのことを王妃、雪の精を王と呼びましょう。
 王が来てから、国に大きな異変がおこりました。
 シアーナ共和国の女すべてに、強い魔力があたえられたのです。
 それは「王の力」だと王妃は言いました。
 国民すべてを満足させるほどの食糧を得るためには、奴隷売買だけではもう足りない。
 これからは、この魔力を使って生きていこう。
 ただし、王にさからえば魔力は消える、と。
 民は聞きました。
「なぜ男には魔力をあたえないのですか?」
 王妃は手短に答えました。
「王が嫉妬したから」
 と。
 雪の王は男たちに魔力をあたえないだけではなく、呪いをかけました。
 細身のイケメンばかりだった男たちの姿を、みんな筋肉ダルマにしてしまったのです。
 かつては目がぱっちりでまつ毛が長く、鼻やあごもすらっとしていたのに。
 いまの目は黒目が小さく三白眼か四白眼。
 まつ毛はゼロ。眉毛はごん太か、ゼロ。
 鼻は四角形、あごは割れあご。
 髪はみんなスキンヘッドです。

◆

 姫は不思議そうに語る。
「わたくしはいまの男性も素敵だと思いますし、いまでは民たちもゴツイ男を受け入れていますが……当時は女性のように細身で美しい男性が人気だったため、泣きくずれた女性たちが多かったそうです」
 私もそこにいたら泣いちゃうと思う。
 ひどい感想に気づくそぶりもなく、彼女は昔話を再開する。

◆

 女は魔力を、男は筋肉を手に入れて、シアーナ共和国は強くなりました。
 近隣の国々を侵略して吸収し、少しずつ大きくなっていきます。
 たくさんの戦争で勝ち、魔神封印のときも活躍して有名になりました。
 最近の民は飢えることもなく、表向きは良いことばかりです。
 しかし、民には不満がつのっていました。
 1つ、いつまで戦い続ければ良いのか。
 よその国から食料をうばうために戦い続け、民は疲れています。
 1つ、王の力には重大な欠点があり、安心できない。
 1つ、王妃の独裁政権が続いている。
 1つ、王妃がちょうしにのって他国にケンカばかりふっかけている。
 1つ、王妃に逆らうと奴隷として売られる。
 1つ、王妃はモンスターに人を管理させている。
 ……民の不満を数えればきりがありません。
「わたくしの家は貴族で、他国でいう公爵、伯爵などの地位にあたります。父が王妃に民の不満を進言し、家族すべてが反逆罪で投獄されました」
 姫は静かに告げる。
「わたくしもいっしょに投獄されていたのですが、乳母と騎士たちが命がけで逃がしてくれたのです。監視が厳しく、逃げられたのは身体の小さなわたくしだけでした……」
 細いうでが震えている。
 ムリもない。家族がみんな殺されているか、奴隷として売られているかもしれないんだから。
「シアーナ共和国にはわたくしの家の他に、3つの大貴族がいます。彼らと協力して国に反乱をおこそうとしたのですが、時すでに遅く」
 彼女の赤い目に影が落ちる。
 絶望の色がのぞく目だ。
「みんな王妃に捕らえられたあとで、人に化けたモンスターが貴族に成り代わっていました」
「あ、それ私も会ったと思います。コーンなんとか……えーと、えーと」
 あのクーさま殺したやつ! 許さん!
 名前がでてこなくてソワソワしていたら、
「スカルコーンに会ったのですか?」
 姫が目を丸くした。
「それそれ。会いました」
「よくご無事で……やはり、同じモンスターだからですか?」
「いえいえとんでもない! モンスター同士でも彼らは敵なんです。命からがら逃げた……というか、クーさまが……魔神が私を逃がしてくれたんです」
「魔神はまだ封印されているはずですが……」
「心臓の封印がとけたので、魂? だけ動きまわってて、私といっしょにいたんです。……でも、私のせいでスカルコーンに殺されてしまいました」
「魔神が、ゲボクを逃がすためにモンスターに殺されたというのですか?」
 何度も繰り返されると胸にズキッと突き刺さるからやめて欲しい。
「信じられない……あなた本当はゲボクじゃなくて、魔神の花嫁とか、娘とかじゃないのですか?」
「ないです! それはないです、ただのゲボクです!」
 周囲の人たちまでがざわざわと好き勝手なことを言い始めるのが、はずかしい。
 クーさまにとって私は牛や馬みたいなものなんだってば。
「わたくしが学んだ魔神とは、ちがうようです」
 姫はきょとんとした様子でそう言って、さらりと話をもどした。
「とにかく、3貴族がダメだとわかったときに、わたくしは見たのです。王妃が魔神の頭の封印をといて悪用しようとしている姿を」
 なんですと!?
「ゲボクは、先ほど魔神の魂が殺されたといいましたが、おそらくただの仮死状態でしょう。魔神を殺せたものは1人もいませんし、本当に滅びていればもっと大きな異変が世界にもたらされているはずです」
「良かった」
 ついホッとすると、彼女は複雑そうにほほえむ。
「魔神がバラバラに封印されていることはご存じですか? 魔神の身体はどれも凶悪な大量殺りく兵器です。頭には、魔眼とファイアブレスの能力がそなわっています」
「バラバラ封印はしってますが、魔眼とファイアブレスってなんですか?」
「ファイアブレスはその名のとおり炎の息。約1キロ先にもとどく炎の竜巻です。魔眼については、頭部についている2つの目が青く光るとき、その光を見たものすべてが即死するといわれています」
「見ただけで!?」
 ファイアブレスも怖いけど、魔眼やばいじゃん。
 なんて能力もってるのクーさま。
「悪用すればどれほどの人が死ぬか……わたくしは王妃を止めなければなりません。魔神の悪用は同盟の協定違反にもなるため、ともに魔神を封印した4つの国へ協力を要請しました」
「そこで、姫に協力するために来たのが僕ら!」
 いままで大人しくしていたオズが手をあげる。
「……と言いたいとこだけど~。残念ながら、魔神が悪用されたって証拠がないんだよねー、姫の目撃証言以外。だから、ユーグリアス王国としてはどうどうと騎士団を派遣できなかったんだよ。証拠なしにそんなことしたら、侵略行為と思われちゃう。そうなると、大国といえども他国から非難や制裁を受けるからね」
 なんかよくわからないけど、国っていろいろ大変なんだね。
「だから、僕らハヤブサ騎士団の偵察隊のみが少人数でシアーナ共和国に来たのさ。秘密だからだれにもいっちゃダメだよ!」
 ニコニコしながらオズが言う。
 秘密にしては声がでかい。
「証拠さえつかめればもっと大規模に騎士団を動かせる。だから、姫たちと共に偵察を繰り返していたんだけど、モンスターの大群に襲われて全滅しかけて……っていうところをゲボクちゃんに救われたってわけ!」
 オズの言葉を姫が引き継ぐ。
「オズたちの留守中に野営地がモンスターの大群に襲われ、同じくこちらも全滅しそうなところでしたが、彼が善戦してくれたおかげで、なんとか生きのびることができました」
 話をふられて、ルファスが答える。
「私はユーグリアス王国の黒ヒゲ騎士団に所属しています。いまの時点では軍隊を派遣できないため、個人単位でひそかにシアーナ共和国へ潜入して様子を探るよう国から命令を受けていました。この辺りに野営地があると聞いて来たため、そのうち他の騎士も合流するでしょう」
 個人単位ではあるが、名のある騎士が何人も同じ任務についているそうだ。
「いままでのことはだいたいおわかり頂けたでしょうか? それでは、これからの事をお話しましょう」
 姫がそう告げると、そばに控えていたメイドさんぽいお姉さんがテーブルに紙とペンを置いた。
 なにこれ?
 羊皮紙と羽根ペンということはわかるけど、なにか難しそうなことがずらずらと書かれている。
「あなたは魔神を解放するために行動しており、いずれ王妃と戦うことになる。わたくしたちの敵は同じで、おたがい戦力を増やしたがっている。だから一時休戦し、共に戦いましょう」
「はい」
 姫の言葉にただうなずく。
 そのつもりでここに来たんだけど、どうしてわざわざ改めていうんだろう?
 他の兵士たちにも納得させるためかな?
「それでは、この契約書を読んでからサインをお願いします」
「えっと、ごめんなさい」
 そう口をはさむと、周囲の空気がピリッとはりつめた。
 えっ、なに? 怖い。
 姫はうっすらと冷や汗をかき、兵士やおえらいさんたちがにらんでくる。
 オズのほほえみすら威圧的にみえた。
「……私、文字の読み書きができないんです」
 おそるおそる告げると、姫はほっとしたようにほほえむ。
「わたくしが契約書の内容を読み上げましょう」
「お願いします」
 こちらがとまどっている気配が伝わったのか、彼女が世間話のように補足する。
「シアーナ語がとてもお上手なので、意外だったのです」
「シアーナ語? 私は外国語できないですよ」
 今度は、さっきとはちがう雰囲気でみんなが静まり返った。