29話 四つのオーブを破壊せよ!

 装備品を盗まれそうになった後だし、怖くて眠れない。
 なんて思っていたのに、気がつけば朝になっていた。
 ドラゴンローブを着てブーツをはいたまま、エドラをだいて横になった姿に変わりはない。
 大丈夫、大丈夫。盗まれてない。
 本当は寝まきに着がえたかったけど、怖かったからそのまま寝た結果である。
 これなら、だれかがさわったら電撃が流れるだろうし……と考えてこうしたんだけど、あれからだれも侵入してこなかったみたいだ。
 盗むのはあきらめたのかな?
 いちおう、室内を照らして確認しよう。
 チラッとそう考えただけで、エドラが勝手に発光して室内を照らしだした。
 おかしな影はない。
 それはいいんだけど、ちょっとびっくりしてエドラをつつく。
「どうしたの? 最近妙に気が利くね」
 まるで私の心を読んでいるみたい。
 それに、前は目つきが怖かったのに、ちょっと視線が優しくなってきた気がする。
 もしかして、杖の力を使えば使うほど仲良くなれるのかな?
 ドラゴンスタッフの先端にとりつけられた、緑の目玉はおだやかにこちらをみつめ返していた。

◆

 今日は編み込みでアップにしよう。
 嬉しいことに室内の壁に氷でできた鏡が設置されていたので、それを使って軽く身支度をととのえる。
 イグルーの外へでると、大きな影が上空を飛んでいった。
 モンスター!?
 杖をかまえようとしたら、
「あれは支援物資を運んできた味方のワイバーンだ」
 見覚えのある女性がそう告げた。
 男のような短い刈り上げで、太い眉。
 肌はこげ茶色で、鼻が大きい。
 男っぽい顔立ちだけれど、服の上からでもわかるほど胸が大きい。
 筋肉がしっかりついていて腕も足も太い。
 けれど腰はきゅっとくびれていて、すらりと背が高い。
 食事ののったトレイを持っていた。
「し……しおなんとかさん」
「スケア」
 彼女はぎろりとにらんで訂正した。
 昨日、ワシに化けていた女性兵士さんである。
「ワイバーンって竜の一種ですよね? いっしょに戦ってくれないんですか?」
 杖になる前のエドラと比べるとちょっと小さくて、かなりトカゲやヘビに近い外見。
 赤と黒のしましま模様。
 上にだれか人が乗っているみたいだったけど、彼らはみるみる内に遠ざかって、小さくなっていった。
「ムリだ。急ぎの物資補給のためにここまでやってきてくれたが、あの赤ワイバーンは寒さに弱い。長時間ここにいると衰弱して死んでしまう」
「寒さに強いワイバーンはいないんですか?」
「ユーグリアス騎士団にはいない。シアーナにはいる。そんなことよりメシを食え。スープが凍るぞ」
 差し出された朝食は見たことのないまっかなスープ。
 野菜がたくさん入っていておいしかった。
 そして妙に丸くてツヤツヤしているパン。
 なんだか大きいなと思っていたら、中に卵とキャベツが入っていた。
 おいしそうだったんだけど、味がしないところをみると、こっちには魔力回復効果はないみたい。
 食事がすむと、すぐに会議へ連れて行かれた。
 昨日の場所へ行くと、みんなもう集まっている。
 私が来る前にいろいろ話し合っていたみたいだ。
「おはようございます。……昼間は目が光らないのですね」
 姫が不思議そうにつぶやく。
「おはようございます。そうなんです」
 うなずくと、中年男性が声をかけてきた。
「昨夜は私の部下が失礼をしたようで、申し訳ない」
 姫の近くに並んでいる、えらそうな一人だ。
 40歳くらいかな。
 高そうな毛皮と鎧をつけているけど、他の人たちより鎧は少なめ。
 ローブのような服装だし、魔法使いタイプなのかも。
 左腕のひじから先がなく、包帯がまかれている。
 妙に目が細くて、目を開けているのか閉じているのかわからない。
 彼はジークと名乗った。
「ところで私は駆け引きが苦手でね。単刀直入にいうが、その装備品一式を売ってはくれないか? 500万でも、1千万でも、言い値で買おう」
 1千万!?
 聞いたこともないような金額がでてきて耳を疑った。
 でも、この装備がないと私はなにもできないから、手放すわけにはいかない。
「お断りします!」
 彼は品定めするような冷たい目でこちらをジロジロと見つめる。
「そうか、気が変わったらいつでも言ってくれたまえ」
 この人がオズに命令したのかな?
 なんかちっとも悪いと思ってなさそう……。
「だから”逃げろ”っていったのに」
 そんな心の声が聞こえてきそうな顔をしたルファスと目が合った。
 彼は壁際でひかえ、気配を消している。
 逃げないってば!
 なにかジェスチャーでもしようかと思っていたら、いつのまにかジークがすぐ近くまでせまっていてのけぞってしまった。
 ひえっ。
「ところで、この装備品一式はいったいどこで手に入れたのかね? いずれも市場に出回っていない特注品のようだが」
 近い近い近い!
 私のドラゴンローブのスカートをちょっと手でつまんだので、思わず振り払ってしまった。
「子どもとはいえ、女性の服にふれるのは失礼ですよ隊長」
 ルファスが呆れたように口をはさむ。
 かばうようにしてくれたので、彼の背後にかくれてしまった。
「まるで私が変質者のような口ぶりじゃないか。世間的にはモンスターを女性あつかいする君の方が異常だぞ? すっかりたぶらかされおって」
 じーっと私の服や杖から目をはなさないジークが怖い。
「この装備品一式は魔神が作ってくれたんです。私にとって大切なものなので、なんといわれようとだれにもあげません!」
「じ、じじじじ神器だとお!?」
 ジークの糸目がクワッと真円に見開かれた。
 血走った二つの目が頭突きしそうな勢いで近づいてきて、ルファスとオズが彼を羽交い絞めにして止める。
「隊長! 隊長! 落ちついて! 姫もみんなもドン引きしてるから!」
 とオズ。
「しつこいですよ! 諦めてください!」
 とルファス。
「国宝級のレアアイテムじゃないか! 世界遺産に認定できるぞ! それをこんな鼻たれのガキが! もったいない!」
「鼻水なんかたらしてません!」
 でも、こんなに発狂するほど欲しがるんなら、前の服この人にあげても良かったかも。アレはなんの効果もない、ただのキレイで着心地の良い服だし。
「あの……雷竜エドラがいたあたりにでっかい剣があると思うので、あれならもらってもいいんじゃないですか?」
「あのアダマンタイトの大剣もおまえらの仕業か!?」
 ジークがつばを飛ばす。ひえええ。
「ちょっとゲボク! 燃料投下しないで! 隊長はコレクターなんだから!」
 オズに怒られた。
 なんやかんやヒートアップしてしまい、彼らが落ちつくまで10分くらいかかった。
 あの大きな剣もレアアイテムらしい。
 でも人間が使えるサイズじゃないので、国があの手この手で加工しようとしているのだとか。
 ちなみに竜の子は孵化してちゃんと逃げたみたい。
 竜の卵のカラが落ちていたとジークは語った。

◆

「思わぬことで時間をとられてしまったので、手短にまいりましょう」
 姫が場をしきり直し、テーブルの上に広げられた地図をしめす。
 シアーナ共和国は三日月型の大きな大きな国らしい。
 私たちがいる場所は三日月の下の先っちょ部分。
「王妃の雪の結界を壊すには、四大貴族の屋敷にある、四つのオーブをすべて破壊しなければなりません。まだ味方の少ない我々はなるべく安全な屋敷から攻めていくべきかと議論しましたが……残念ながら我々には選択肢があたえられていないという知らせを受けました」
「どういうことですか?」
「先日のモンスターたちの暴走。ゲボクの話と照らし合わせた結果、あの暴走はスカルコーンが魔神の心臓を手に入れ、パワーアップした気配におびえたからだとわたくしたちは推測しています」
「心臓を? たしかに、クーさまが持ってたので、とられちゃっててもおかしくないですね」
「パワーアップしたスカルコーンは屋敷と合体して巨大化し、動く要塞としてこちらへむかっているのです」
「合体? ようさい……?」
 どういうこと?
 姫が目線で合図すると、メイドさんが大きなお皿みたいなものをテーブルへ置いた。
 長方形で、あんまり厚みはない。
 中には水が入っていて、虹色のインクをたらして混ぜたような、不思議な渦ができている。
 やがて、渦が消えると雪景色が広がった。
 一面の白い雪。
 その純白の光景に、汚いシミができている。
 どす黒い煙のようなオーラをまとって動くそれは不気味な怪物だった。
 見覚えのある緑のかわいらしいデザインの城。
 その屋根と融合するように巨大なガイコツが生えていて、狂ったような笑みを浮かべている。
 さらに、ざっと10本以上はある触手が城壁をつき破り、クモやタコの足のような動作ですばやく雪の上を走っていた。
「キモッ」
 ついつぶやいてしまった。
 姫がうなずく。
「パワーアップしたスカルコーンです。これは偵察班がいまみている光景を映したものです。今日の夜にはここへ到着すると予想されています」
「えっ」
 夜になったら、このバケモノと戦わなくっちゃいけないの?
 それを理解してさっと血の気が引いた。血ないけど。