30話 VSスカルコーン

「簡潔に作戦を説明しよう」
 ジーク隊長がイスから立ち上がり、地図をさししめす。
「我々、負傷した将校たちは姫を護衛しながら安全な場所へ逃げる。その詳しい場所は君に教えるつもりはないが、この野営地より西とだけ伝えておこう。ここより西へは敵をよせつけるな。敵の攻撃が飛んでいきそうなら、身を差しだしてでも防ぐのだ。ゲボクの魔法は範囲攻撃が可能らしいが、我々を巻きこまないように気をつけたまえ」
 えらい人たちだけ戦わずに安全な場所に逃げるなんて。
 ちょっとズルい気もするけど、ケガ人とお姫さまだからしかたないかな。
 うなずくと、彼が続ける。
「残りはすべてスカルコーンと戦ってもらう。モンスターが活性化する夜は我々人間には不利だから、こちらから迎え撃って昼に戦う」
 ドクロ、剣、弓、杖、鳥、そして星のマークが描かれた氷の結晶が地図に配置される。
 魔法で溶けないように加工され、インクで色まで塗ってあった。
「スカルコーンの進路はこうだ。どうやってかは知らんがやつは我々を感知してまっすぐに向かってきている。それをここで迎えうつ」
 ジークがドクロの結晶を雪原に置く。
 そこは雪山にかこまれて道がせまくなっている場所だった。
 スカルコーンの巨体では身動きがしづらく、人間が身を隠しながら戦うにはうってつけだという。
「ところで君は昼間まともに戦えるのかね? なにか弱点があれば聞いておきたい」
「弱点……えっと、範囲攻撃も単体攻撃もできるんですけど、どっちも1度使うと5分くらい使えなくなります」
「ほう」
「あと、杖にのって飛んでる間は攻撃できないですね。それと、時間をかけて魔力を溜めないと威力が弱いです。スカルコーン相手だったら1時間くらいはチャージしないとダメかも……あと、昼間は私も身体能力が少し落ちるので、夜より動きがのろいしパワーもでないです。あとは……ああ、接近戦が苦手ですね。素手で戦ったりとか、したことないし」
「なるほど、なるほど」
 そこまで語って、ジーク隊長の視線に気づく。
 この人、私じゃなくてずーっとエドラの目を見てる……こわっ。
「おおむね予想どおりだ。ゲボクはスケアと組むように。先日のように、鳥になったスケアの背で攻撃を避けながら魔力を溜めるといいだろう」
 彼はもう1枚別の羊皮紙をとりだす。
 そこにはスカルコーンの絵が詳しく描かれていた。
「偵察映像を観察した結果、スカルコーンのドクロの内部に魔神の心臓があることが判明した。おそらくここが弱点だろう。やつは定期的に大口を開けて笑うため、そこをねらえ。ただし口を開けている時間が短く、魔神の心臓の体力は膨大なものと思われる。よって一撃必殺をねらって大技をしかけるのではなく、ほどほどに溜めた魔力で複数回の攻撃をしかけることが望ましい」
「は、はい……」
「魔神の心臓には、魔神の魂と魔力が封じられているといわれている。おそらくやつはなんらかの魔法を使うだろう。ゲボクが攻撃できない間は他の騎士たちがおとりになって時間を稼ぐ。陣形が乱れることもあるだろうが、基本的にはこの配置だ。くれぐれも味方を攻撃するなよ」
 ようやくジークがこちらを見る。
 視線が交差してゾッとした。
 私のことなんかこれっぽっちも信用してないと、ハッキリ伝わってくる冷たい目だった。
「現場の総指揮はオズに任せている。副官はスケアだ。彼らの命令にしたがうように」
 会議はそれで終わり、さっさと部屋を追いだされる。
 出入口の雪を踏みしめて、いおうと思っていたことを思いだした。
「雪の上が歩きにくいんですけど、みんなどうしてそんなにさくさく歩けるんですか?」
 顔見知りのスケアに聞くと、
「雪用の装備をつけていたり、氷の加護を付与しているからです。あなたには氷の加護はなかったのですね」
 代わりにお姫さまがそういって、自分の指から指輪を外した。
 金のリングに透き通った青い宝石がついていて、すごくキレイ。
「ブルートパーズの指輪です。これをつけていれば雪の上でも沈まずに歩けますし、氷魔法をかけられても凍結しなくなります。わたくしが使っていたもので恐縮ですが、よければさしあげましょう」
 私の指にはめようとしてきて、ぎょっとする。
「こんな高そうなものもらえません。それに、私がこれをつけたら、お姫さまの分が」
「似たようなものをたくさん持っているので、遠慮なさらないでください。そして、わたくしは回復魔法が使えます。失った腕を生やしたり、死人をよみがえらせたりすることはできませんが、もしなにかあれば探してください。オズならわたくしたちの居場所を知っています」
「ありがとうございます」
「……ただの、罪滅ぼしです」
 彼女は目を合わせず、こちらの首輪を見つめていた。

◆

 それからすぐに移動。
 荷物をまとめ、たくさんあったイグルーをぺしゃんこの雪にもどすと、作戦どおり雪山へむかった。
 私は杖で。他の人はゴーレムだったり、馬だったり。
 ルファス、オズ、スケアはなんか犬のようなネコのような、大きなケモノに乗っていた。
 小さいときのクーさまと似たようなサイズ。
 顔や身体の形はネコに似てるけど、牙がすごく大きくて、口からはみだしてる。
 白い毛皮に青いぶち模様で、エドラと同じくらい速い。
「それはモンスターじゃないの?」
 聞くと、ルファスは困ったような声で答える。
「人になつく生き物はモンスターとは呼ばないんだ」
 フードを被り、顔にもマフラーみたいなものをぐるぐる巻いていて、目しかみえない。
 腕も足もぶ厚い服でおおっている。
 私、顔や首元は丸出しなんだけど……もっと厚着した方がいいのかな。でも別に寒くないし。ドラゴンローブの下は短パンはいてるから、いっか。
「私もけっこう人になついてると思わない?」
「”なつく”といっても正確にはちゃんと細かい規定があって。奴隷の首輪をつけていない状態で、合計50人以上の命令にしたがった、とか。同じ種族で100匹以上がなつかないとダメとか。厳しい規定をクリアしたあとに国に認められて、ようやくモンスターのくくりから外されるんだ」
「そうなんだ……」
 私は1匹しかいないから、人と仲良くなれるようにがんばったとしてもずっとモンスターあつかいのままなのかな。
 なんて考えていたら、ルファスがたずねた。
「君は……ジェネルがどうなったか知ってる?」
「ジェネルってだれですか?」
「僕の父を殺した男」
 ルファスはいままでのことを語った。
 私の故郷で殺されちゃったえらい人がルファスのパパだったらしい。
 事実とちがうのは、魔神の心臓をうばおうとしたジェネルがもう死んでいること。
 ジェネルが魔神の心臓を盗んで逃げた、なんて。
 村長さんはどうしてそんなウソついたんだろ?
「まだ話してなかったっけ。……ジェネルがうちの村で暴れたから、殺してやろうと思って私が魔神を復活させたんだ。それで私は魔神のゲボクになって、ジェネルは魔神が殺したよ」
 本当のことを伝えると、彼はしばらく黙っていた。
「ジェネルの目撃情報がまったくないし、君はつい最近まで魔神と行動してたっていうから、死んでるかもしれないとは思ってたけど……すでに死んでる男を探してたなんて、マヌケだな」
 明らかに落ちこんでいる声にあわてる。
「そんなことないよ! ルファスのことよく知らないけど、少なくとも考えなしな私よりはずっと賢いと思うし。優しくていい人だよ!」
「……」
 彼はなにもいわず、まっすぐ私の目を見つめていた。

◆

 隊長に指定された雪山へ到着すると、それぞれいわれていたとおりの陣形をとる。
 名前は忘れたけど、V字型の陣形だ。
 私は鳥に変化したスケアへ乗り、スカルコーンよりはるか上空で待機。V字のまん中あたりである。
 ルファスは右端、オズは左端の山頂。
 それぞれ弓矢、魔法使いを奥にして、剣士たちと共にひそんでいる。
 V字の一番先っちょには、スノーゴーレムがたくさん。
 彼らがおとりになり、時間を稼ぐらしい。
「僕らには回復役がいない。あるのはわずかな回復ポーションのみだ! 負傷したら死ぬからヒットアンドアウエイを徹底して! ただし逃げるときは、敵を西へむかわせないように!」
 オズがさけぶ。
 ヒットアンドアウエイとは、”攻撃したらすぐ逃げる”ってことらしい。
 白い空に広がる、白い雪原。
 粉雪がふりそそぐ美しい氷の世界を、汚い泥のようなものが侵食していた。
 黒と紫、茶色が入り混じった煙をあたりへまき散らしながら猛スピードでこちらへ突進してくる。
 予定どおりあらわれたスカルコーンは山と変わらないほど大きかった。