31話 VSスカルコーン②

 魔神の心臓をとりこんだスカルコーンは力におぼれ、理性のほとんどを失っていた。
 城を吸収し、兵士たちを魔物へ変えて強化し。
 次に望んだのは破壊である。
 暴れたい。手に入れた力を試してみたい。我こそは最強なのだとしめしたい。
 雪の王や他の魔族へ襲いかかっても良かったが、すぐ近くにちょうど良い敵がいた。
 ”魔神のゲボク”がいる。
 魔神の加護を受けたゲボクの居場所は手にとるようにわかった。
 いまや魔神の力はスカルコーンのものだから。
 力試しには物足りない相手ではあるが、肩慣らしにはちょうど良い。
 スカルコーンはまっすぐにゲボクへ狙いをさだめた。

◆

 おとり役のスノーゴーレムたちがスカルコーンへと突進していく。
 スケアの上で杖をぐるぐる回しながらそれを見ていたけれど、なんだか全然効いてないような……。
 スノーゴーレムたちはそれぞれスカルコーンへ殴りかかり、触手を押さえつけ、体当たりして奮闘している。人間だったら即死しそうな破壊力なんだけど、傷1つできていない。
 大丈夫かな……。
 ヒヤヒヤしていたら、スカルコーンが動きを止めた。
 ぬるりとした仕草ですべての触手が引っこむ。
 甲羅にこもった亀みたいに城が地面へついた。
「今だ!」
 号令とともに、オズ、ルファスなど剣士組がV字を閉じてO型陣形へと移動する。
 魔法使いと弓部隊はそのまま山にかくれながら待機していた。
 直後。
 私の50センチくらい横をなにか巨大なものが通り過ぎて行った。
 白っぽくてほんのり青い。触手と同じ氷みたいな材質。
 それは大きく口を開いたガイコツの口の中からのびて、スケアの左翼をつらぬいていた。
 なにその長い舌!?
 スケアが悲鳴を上げ、私は地面へと転がり落ちていく。
 雪山の坂道をぼんぼんはねながら、さっきみた光景が脳裏に浮かぶ。
 スカルコーンの体長はおよそ100メートル。
 私たちはそのさらに上空の200メートルくらいを飛んでいたのに。まさかあんなに速く長く舌がのびるなんて。ていうか舌なんてあったっけ!?
 頭まっしろで呆然としていたら、スカルコーンが舌をしまい、ぬるぬると触手が生えてくる。
 ゲゲゲゲゲッと笑う口の中には魔神の心臓があるだけで、舌はなくなっていた。
 触手が舌になってた?
「逃げろ!」
 スケアの声。
 我に返ると、スカルコーンの触手すべてが私めがけて振り下ろされていた。
 ミンチにされる!?
 逃げなきゃ、と頭では思うのに体が動かない。
 氷の岩みたいな触手が私の頭をつぶす寸前。
 ぼうっと空気が燃える気配がした。
 ルファスが私の頭上の触手を両断する。
 その勢いを活かしたまま流れるように右の触手を斬り、左の触手を打ち落とし。横からつっこんできた触手へ飛び乗って、円を描くように回転斬り。上下の触手を2つまとめて切り落としてしまった。
 赤い炎をまとった剣が10ある触手をみるみるうちに破壊していく。
 きれい。
 それに速い。なんて身軽なの。
 赤い線が走っているみたいでみとれてしまう。
「1人で逃げられる?」
 ほうける私にルファスが鋭く問う。
 こくこくうなずくと、彼はそのままスカルコーンのドクロへ駆けあがっていった。
 スケアは大丈夫なのかと探すと、彼女はすでに人型にもどり、仲間に助けだされていた。
 テキパキと応急処置をほどこされている。
 良かった、とほっとする間もなくスカルコーンがおたけびを上げた。
 ドクロの上にオズの姿。
 彼が剣をドクロへ突きさしたらしく、剣が金色に光っている。
 光は剣からスカルコーンの全身へとうつり、スカルコーンは苦しむようにがくがく小刻みに震えはじめた。
 剣を引きぬき、オズがさけぶ。
「集中攻撃!」
 まさにフルボッコ。
 雨のように弓矢と火の玉がふりそそぎ、剣士は斬りまくり、槍は突きまくる。
 スノーゴーレムもドクロを殴り続け、やがてドクロの部分にビシリと大きなヒビが入った。
 これ、私いらなくない……?
 その場からはなれて木の影に身をかくすと、
「離脱! 逃げろ!」
 オズがさけぶ。
 光が消えて、スカルコーンが再び動き始めた。
「GYAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOO!」
 おたけびと共にドクロから触手が復活した。
 暴れまわる触手は兵士をふっとばし、胸をつらぬき、頭をたたきつぶす。
 まばたき1つの間に2人が死んでしまった。1人は重傷で、他のみんなはまだ戦っている。
 ルファスを筆頭に、動ける兵士たちは仲間を救助しながら逃げ回っていた。
 オズは魔法使いたちになにか指示している。
 や、やっぱり私も戦わなくちゃ……!
 まだ一撃も当てられてない。スケアが衛生兵に回収されたから敵に近づけないとかいってる場合じゃない。
 物陰から杖をふるう。
 ドクロの両目はぽっかり穴があいているから、そこから心臓に当てられないかと思ったんだけど。
 電撃はドクロどころか10本の触手に当たった。
 なんで!?
 エドラのせいかと思って杖をみると「私のせいじゃない」とばかりにギロッとにらまれる。
 どういうこと?
「攻撃!」
 オズがさけぶ。
 電撃が当たった触手はすべて消滅していた。
 それはいいんだけど、ねらいどおりに当たらないと、味方に当たりそうで怖くて使えない。
 どうしよう……。
 オロオロしているうちに、黒い線が目の前を横切った。
 オズだ。
 木から木へと飛び移り、まるでトンボみたいな素早い動きで、ドクロに剣を突きさす。
 あの細長い剣は”斬る”ものじゃなくて、”突きさす”ことに特化した剣なのかもしれない。
 剣がまばゆく緑に光る。
 なにかの攻撃魔法かな?
 スカルコーンの全身が緑につつまれ、パキィンッとなにかがわれる音。
 ガイコツに小さなヒビが入り、じわじわとヒビの数が増えていく。わずかだけどダメージをあたえているみたい。きっと毒だ。
 ルファスが目の穴から中へ入り、心臓に炎の剣を突きさした。
「GYAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOO!」
 毒の効果が切れた。
 スカルコーンが全身をふるわせ、大口を開けて全身から強風をおこす。
 オズもルファスもふっとばされ、森のどこかへ落ちていった。まわりにいた剣士たちも、おがくずのように飛んでいく。
 山の上部にいる魔法使いと弓部隊は無事だ。いつのまにか彼らの前にスノーゴーレムたちがずらりと並び、彼らを守っている。
 スノーゴーレムの攻撃が効かないみたいだから、盾役にしたんだろう。
 キュインッ!
 ドクロの上に大きなつららみたいな、とがった氷の岩が生まれる。
 なにかするつもりだ。
 でも私はまだエドラが使えないし、魔法使いや弓矢部隊も指揮官がいなくなっちゃったからオロオロしている。陣形もボロボロだしスケアもいないし、どうすれば?
 キュインッ!
 キュインッ!
 キュインッ!
 パニックになっているうちに氷の岩が4つに増え、スカルコーンの瞳が赤く光った。
 目が合った!
 やばい、やられる。
 反射的に逆方向へ走りだしたものの、すぐに地面にたたきつけられた。
 左足になにか当たった。
 とっさに左足をなでようとしたら、ひざから下がなくなっていた。
 飛んできた氷の岩が突き刺さり、地面につぶされている。
「うわ……」
 泣きそうになったけど、泣いているヒマはなかった。
 残りの氷の岩が3つ、次々と頭上へ降ってくる。
 この距離じゃもう避けられない。
 クーさまごめんなさい。
 諦めかけたとき、山頂にいた魔法使いがさけんだ。
「しっかりしろ!」
 ボッと空気が燃える匂い。
 赤い炎が横から氷の岩をつらぬいた。
 火矢が2つ、火炎弾が1つ当たり、3つの氷の岩が音を立てて蒸発する。
 炎とはいえ、けっこう小さな火だったのに。あんなに大きな氷の岩が一撃で?
「あ、ありがとう!」
 考えている場合じゃない。私も役に立たないと。
 エドラに乗って上へ飛ぶと、スカルコーンはわざわざドクロを回して私を目で追ってきた。
 なんか知らないけど、狙われてるみたい。
 エドラが発光する。
 電撃が使えるようになったけど、杖にのったままじゃ攻撃できない。
 どうしよう、と悩んでいたら、弓兵と目が合った。
 そうだ。
「私がおとりになります! 避けるから攻撃して!」
「わかった!」
「攻撃!」
 兵士たちが口々にさけび、攻撃を始める。
 魔法使いたちが電撃や炎を。
 弓兵たちが電撃と炎の矢を雨のようにスカルコーンへとあびせる。
 灰色のドクロに小さなヒビが増えていく。
 でもあんまり効いてないみたいだ。悲鳴も上げてないし、ノーリアクション。
 一番効いてるのは電撃攻撃だけど、エドラに比べると威力が小さい。
 これじゃいったい何時間かかるか……。
「きゃっ!?」
 大きな8の字をえがくように上空を旋回していたエドラが、落下するように急降下した。
 地面すれすれまで降下し、そのまま横ばいに進んでからまた上空へともどる。
 落っこちそうになって天をあおいだとき、空の雲にまぎれてスカルコーンの巨大な舌がみえた。
 また、あれで狙われたんだ。
 そう何度もくらうと思うなよコノヤロー!
 エドラから飛び降りると、私はそのまま空中で杖を振り下ろした。
 電撃がまっすぐドクロへ直撃する。
「OHOOOOOOOOOOOOOO!」
 ドクロの脳天に穴が開いた。
 やった!
 そのままエドラに上空へ引っぱり上げてもらい、逆上がりするように杖へのる。
 ほぼ同時にスカルコーンが咆哮し、黒い霧をあたりへまきちらし始めた。