37話 緊急招集

 ぽつぽつと白い雪がふる、灰色の空の下。
 地面の上にはうすく雪が積もっている。
 故郷のものとはちがう、トゲトゲした形の細長い木々が続く林と、町の境目。
 兵士たちが遠巻きに見守る中で、ルファスは告げた。
「ナナシちゃんは魔法使いだから、基本的に遠距離からの攻撃にてっして、敵が近づいてきたら逃げて欲しい」
 正確にいうと、私には適性がないから本来魔法は使えないんだけど、エドラの杖のおかげで雷魔法を使えている。
「この杖で殴るとけっこう強いから、魔法が使えないチャージ中とかは近距離攻撃した方が良くない?」
 エドラは1度使うと5分使えなくなってしまう。
 その間になにもしないのはもったいない。
「杖をうばわれたり、君が攻撃されるリスクの方が怖い。君1人で戦うわけじゃないから、チャージ中は他の仲間にまかせて」
「うん、わかった」
「ただ、それでもどうしても敵に接近されることはあるかもしれない。だから一応その時の戦い方も教えておくね」
 ルファスはそういって、まず”受け身”というやつを教えてくれた。
 なんか色々いってたけど、要するに”転んだり、落ちたり、投げられたりしたときにダメージを減らす動き方”のことらしい。
 頭、首、心臓、内臓、性器など身体の中心部分が人体の急所なので、そこを守るように動くのが大事なのだとか。
「時間がないからざっと一通り教えるけど、1日2日で覚えられるものじゃないんだ。今日はとりあえず聞くだけ聞いてね」
 とルファスがほほえむ。
「う……うん」
 高いところから落ちたときに回転して勢いを相殺する受け身とかも教わったけど、正直できる気がしない。
 ルファスはすっごい簡単そうにぱぱっとやっちゃうんだけど、実際にやってみると難しくて、彼の動きを目で追うだけで必死だった。
 遠巻きにながめている兵士たちも何人かマネしてるんだけど、できていないのがほとんどである。
「じゃあ次は素振りしようか。魔法をださずに杖の素振りだけ、できる?」
 ルファスが問う。
 うなずくと、彼はトントンッと木をかけ登り、高い所に生えていた枝を1つ切り落とした。
 地面をけり、木の幹をけって、空中落下しながら枝を剣で切り落とすという曲芸師みたいな技である。
 彼は杖をもっていないから、代わりに長い枝を用意したみたい。
 切り落とした長い枝を手にもどってきて、彼は何事もなかったかのように続ける。
「ナナシちゃんは杖の重さや大きさにふり回されてるから、まずは……」
 基本的な運動神経がちがいすぎる、この人。
 ポカーンとしながらも杖の正しいふり方や、突き、打撃のやり方なんかを教えてもらった。
 教えてもらった方法で杖をふると、適当にふり回していたときとちがってぜんぜん疲れないし動きやすくてびっくりした。
 それからは杖にのって空をとび、ルファスが投げる雪玉をよける訓練。
 手加減してくれたみたいなのにバンバン当たって墜落しまくり、謝られてしまった。
 あっという間に夕方になり、そろそろ夕食にしようかというとき。
 あたりにけたたましい鐘の音がひびいた。
 村の中央にある大きな大きな灯台にある鐘を、だれかが打ち鳴らしている。
 直後。
 野営地のあたりで赤い光がはじける。
「緊急招集の合図だ」
 ルファスが告げた。

◆

 急いで野営地へ行くと、そこにはすでにみんな集まっていた。
 ざっと100人くらいかな? 前にルファスが乗ってたケモノや馬も用意されている。
 みんな、といっても知らない顔が多い。
 クレア村で合流した援軍さんだろう。
 負傷者は国に帰されたのか、軽傷の人以外はいなくなっている。
 人数が増えたせいか10人ずつくらいにリーダーがいて、それぞれ点呼している。
 それらをさらに監督しているのがオズ。
「私はどうすればいいの?」
 おろおろとルファスに聞くと、彼はなにか聞かされているのか落ちついて答えた。
「僕らは特別班だから、こっち」
 待機していたら点呼が終わり、オズが声を上げる。
「ジーク隊長は負傷のため帰還した! 代わりに僕が隊長として任命されたため、おまえたちを指揮する!」
 彼がさりげなく手でしめした肩には、ジークがつけていた星型の勲章が光っている。
 ざわ、と周囲に動揺が広がった。
 ジーク隊長、帰っちゃったんだ。ドラゴンブーツとローブの能力のこととか、いろいろ相談したかったのに。
「僕らがたおしたスカルコーンと、そのオーブ1つ破壊したことは覚えてるよね? そして僕らの戦闘中、幹部と姫たちがここクレア村と連絡をとり、この地の住民が仲間に増えた。敵のシアーナ人と区別するために、彼らには緑の腕章をつけてもらっている。けして攻撃しないように」
 オズの隣には、いわれたとおり腕章をつけたシアーナ人の女性。
 やっぱり美女だ。
 金髪碧眼で耳が長く、ほっそりとしてて背が高い。腕につけた腕章は蛍光色でけっこう目立つ色をしていた。
「僕らがいるのはクレア村の西。東側には味方のアルバ帝国の兵たちがいる。アルバ帝国は僕らがつく前にこの周辺にいた敵のモンスター”セイレーン”をたおし、クレア村をを奪還。2つめのオーブを破壊している」
 知らない間に2つめのオーブが破壊されていたらしい。ラッキーだ。
「あと2つのオーブはステラの町とグリコの町にある。シアーナの北と西だ。そこで、アルバ帝国は北のステラへ、僕らは西のグリコへ行くことになった。姫は護衛とともに安全な場所で身を隠す」
 ここからさらに西ってことは、海の上にあるのかな?
「僕らの存在は敵に気づかれている」
 ふんふんと話を聞いていたら、オズの言葉に緊張が走った。
「ステラとグリコから、それぞれボスクラスのモンスターがこちらへ向かってきてる。町へつく前に戦闘になることが予想される。僕らの任務はそのうち1匹をたおし、町にあるオーブを破壊すること。くれぐれも警戒をおこたらないように」
 これから5分で各リーダーから小隊へ作戦説明。
 5分後に出発。
 そう告げて、オズはこちらへよってきた。
「ゲボクちゃん、君はスケアの指示にしたがってルファスと行動して。君3人チームだから」
「わかりました」
 この場合はひざまずいた方がいいのかな?
 迷ったけど、いまはみんな立ってるからそのまま敬語で返事してみた。
 スケアってだれだったっけ?
 とちょっと迷っていたら、目の前にあらわれた女性をみて思いだした。
 小麦色の肌に刈り上げた髪。たくましい身体つきの女戦士だ。
「ゲボクは鳥型の私にのって、空から味方を援護しろ。ルファスも同じように鳥にのって空を飛び、ゲボクのフォローをしながら敵を攻撃だ。ルファスは状況しだいでは地上におりてもかまわない」
 スケアはそういうものの、他に鳥はいない。
「2人のったらせまくないですか?」
「問題ない。私は分身できる」
 そんなのあるんだ!?
 おどろく私とルファスをみて、スケアが補足説明する。
「私は元々双子だった。生まれてくるときに身体が1つしかなく、1人になってしまったが、そのせいか6時間まで2人に分身できるのだ。……ちなみにふだん鳥になっているとき頭だけ増やしているのは、その方が視界が広くなるからだ」
 人の姿のときにやる気はしないがな、と笑う。
「へえー」
 世界は知らないことでいっぱいだ。
 やがて出発時間になり、私達はクレア村を後にした。