38話 VSエラー

「君はいつもそんな薄着で寒くないの? 上空はもっと寒いから、着こんだ方がいいよ」
「私は寒さを感じないから平気だよ」
 ルファスがコートや帽子、手袋など防寒グッズを山ほどくれたけど、動きにくくなりそうだから遠慮した。
 ふわふわモコモコのスケアの背中にのり、空を進むこと十分。
 町の外でまっていた味方のシアーナ人たちと合流して、一気に軍隊らしくなってきた。
 シアーナ人1000人、私たちユーグリアス軍が100人くらいかな?
 でも。
「あの人たちって、戦えるんですか?」
 私とスケア1号は後方、ルファスとスケア2号は前方を飛んでいる。
 なので私が乗っているスケア1号さんに聞くと、彼女は短く鳴いた。
「カレラはカザリだ」
 鳥型になっている時はしゃべりづらいのか、カタコトだ。
 シアーナ人のうち、戦闘力が高い者は王妃に徴兵され、見た目が美しい者は奴隷として売り飛ばされた。
 町に残っていた彼らはただの民間人だから、戦働きは期待していないとスケアは言う。
 たしかに、見るからにそんな感じだ。
 武器はオノやひのきの棒、クワ。
 鎧も盾もなく、普段着である。
 ただ、さすがシアーナ人というか。男性の体格はみんなマッチョだ。それに、女性には魔力もあるはず。
 ある意味、王妃に選ばれなかった彼らだけど、他国の農民よりは戦えるんじゃないかな?
「ワタシたちはあくまえでシエンシャだからナ」
 これはシアーナ人同士の内乱であり、私たちはそれにこっそり手を貸しているだけ。
 その建前を守るために、彼らにも戦場にいてもらわなければならないという。
 いちおう、赤ちゃんや小さい子を連れた母親はクレア村でまっているそうだ。
「このメンバーで王妃の選りすぐりの軍隊や、雪の王に勝てるんでしょうか……?」
 スカルコーンは運良く倒せたけど、なんかムチャな気がしてきた。
 こっちに向かってきているという、ボスクラスのモンスターも不安。
 失くした腕を再生できるくらいの回復魔法が使える、フリッツ司祭がいるのにジーク将軍たちは帰ったし。
 もしかして私たち、ユーグリアス王国に「死んでもかまわないメンバー」と思われているのでは?
 勝ったらラッキー、負けても損じゃない。みたいな?
「オクビョウモノめ。やる気がないならサルがいい」
 スケアは冷たく告げる。
 ユーグリアス王国は魔神の心臓をうばわれた負い目があるし、ライバルのアルバ帝国にひけをとるわけにはいかない。
 だから、勝算のある人員を送っているはずなのだ。
 あまり大っぴらにやるわけにはいかないから少数ではあるが、みんな精鋭ぞろい。
 我々と肩を並べて戦えることを誇りに思え、と。
「がんばります……」
 今回は作戦や陣形の説明もろくにされなかったから、捨てゴマあつかいに降格されたのかと思ったんだけど。
 見捨てられたわけじゃないみたい?


◆


 左右対称の大きな翼は黒、茶、白色のグラデーションカラー。
 太い眉は人間のときの面影がある。
 黄色くするどいクチバシ。
 首元には青い宝石のついたネックレス。私がお姫さまにもらった指輪と同じ石がついているから、効果も似たようなやつだろう。
 ずっと空を飛んでるだけでヒマだったので、私はワシ姿バージョンのスケアを観察していた。
 ちょっと前にネコの獣人をみかけたけど、スケアは鳥の獣人なのかな?
 あのネコも人間になれるのかな?
「ねえねえ、す」
 前方を飛んでいたスケア2号がけたたましく咆哮した。
 激しい警戒音を聞いて、スケア1号も同じように甲高く鳴く。
 あわてて前をむくと、ぞわっと体中の毛が逆立った。
 どーして王妃のモンスターって気持ち悪いのばっかりなの!?
 人型のクラゲにドクロを埋めこんだような造形のスカルコーンもどうかと思ったけど、不気味さでいえばこっちの方が上だ。
 いつのまにか周囲からは木々がなくなっていて、見渡す限り白い雪原ばかり。
 その氷の大地に青い道ができている。
 すさまじい勢いで氷をわりながら直進してきているバケモノがいるのだ。
 そのモンスターは人間に似ていた。
 5本の指がある、人と同じ形をした左右の手。
 丸い頭部。
 ただし、髪はない。目も鼻も口も、首さえない。
 胸はないが、胴体は人間そっくり。
 ただし足はなく、下半身は魚のようにヒレがある。
 全身水色だけど、”人魚”のように見えなくもない。
 でもこれを”人魚”とは呼びたくない。ロマンぶち壊しだからだ。
 ウロコとも皮膚ともちがう、ヌルリとした質感。
 例えるなら人間と魚の水死体を合成してできたようなおぞましさ。
 なにかの実験で失敗したできた、”人間のできそこない”みたい……なんて妄想してしまう。
「なんですかあれ!?」
 あれが敵なのはわかってるけど、キモすぎてついさけんでしまった。
「オウヒの手下、”エラー”だ!」
 スカルコーンも大きかったけど、エラーもでっかい。
 手のひらだけで大人が2人くらい乗れそうなサイズだ。
「クルゾ!」
 エラーはのっそりと右手を振り上げると、大地に向かってたたきつけた。
 上空にいる私たちには影響がないけれど、地上組は大変みたい。
 先頭にいたグループが100人くらい上空にふっとばされていく。
 地面がゆれているらしく、地上組が左右にぐらぐらとゆれ、どんどんたおれていく。
 氷の大地が大きくゆれて、ひびわれ、数十人が海に落ちた。
 ひええええええ。
 なんかもうさっそく3分の1くらいやられているような……。
「ボサッとするな! オマエの出番だろ!」
 スケアにしかられて我に返る。
 そうだった!
 とっさに杖をふるう。
 竜の目玉からほとぼしった金のいかづちはまばたき1つの間に空をジグザグに駆け、地上の巨大生物をつらぬいた。
「ヴモオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
 口がないのにどこからさけんでいるのか、と思ったら、脳天におへそみたいな穴が開いていた。
 大きく口を開けるように穴が広がり、牛のような悲鳴を上げてエラーがひるむ。
 目の前を黒い線が走った。
 ルファスが乗っているスケア2号だ。
 彼は一直線にエラーへつっこみ、炎の剣で頭を斬る。
 エラーは短い悲鳴を上げたけれど、傷は浅い。
 あんまり効いてない様子に冷や汗……もとい体液がわりのお湯がちょっとでてしまう。
「ミテイロ」
 スケアが得意そうにふふんと笑う。
 どういうことか聞く前に、理解した。
「なにあれすごっ」
 ルファスがすごいのか、スケアがすごいのか?
 たぶんどっちも、が正解だ。
 まるで何年もずっとこういう方法で戦ってきたみたい。
 彼らは息ピッタリの連携攻撃を連続で決めた。
 スケアがエラーの攻撃を次々にかわして接近し、ルファスが斬る。
 基本的にその繰り返しなんだけど、速すぎてほとんどみえないし、たまにすごいアクロバティックなことしてる。
 ルファスがスケアから飛び降りてエラーを斬りまくり、彼が地面に落ちる前にスケアが回収してまた上空へもどったり。
 エラーに投げ飛ばされたルファスをスケアが足でキャッチしてそのまま投げ返したり。
 同じようにスケアにのってるけど、私にはとてもできない……。
「ワタシは近距離パワー型とアイショウがイイのだ!」
「遠距離魔法使い型ですみません」
 そんなことを話しているうちにチャージ完了。
 単体攻撃だから杖を地面についてさらにチャージしたいんだけど、地面がない。
 さすがにスケアを突いたら痛いだろうし、下手したらスケアのお腹を貫通しちゃいそう。
 ちょっと迷って、空中で突くまねをしてみた。
 キュインッ。
 ドラゴンスタッフをつつむ電力が明るさを増す。
 あ、これでも良いみたい。
 ひたすら突いてチャージしている間に、地上組が体勢を立て直した。
 4列くらいに分かれてエラーへ襲いかかる姿がみえる。
 ルファスが右側上空へ移動すると同時に、大量の弓矢がエラーへ降りそそいだ。
 いくつかは魔法がこめられているらしく、赤や黄色に光っている。たぶん炎と雷属性だろう。
 シアーナ人たちも槍を投げたり、オノで斬りかかったりがんばっている。
 シアーナ人の女性が氷魔法を使っているみたいだけど、こっちは効いていないみたい。すぐに止めた。
 やっぱり氷属性同士って効かないんだ。
 なんて考えていたらエラーがのそりと左手を振り上げる。
 やばい。
 ただそれだけの動作なのに、威圧感がすごい。
 だって、その一振りで100人ほどを即死させられるほどの威力があるってさっき見せつけられたばかりだ。
 私が杖をふるうより先に、エラーの顔面むかって棒のようなものが突き刺さった。
 エラーの全身を雷と似た、けれどちがう黄色の光がつつむ。
 エラーは時を止められたように動きを止めた。けれどよくみるとガクガク痙攣している。
 オズが状態異常魔法つきの剣を投げたらしい。
 聞こえないけど、彼がなにかさけんだ直後。
 いままで以上の総攻撃が始まり、
「ヴモオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
 エラーの両手がくずれるように消滅した。
 けれど、状態異常も解けたらしい。
 腕を失くしたエラーが地面に頭突きして、周囲にいた人たちがふっとんだ。
 とっさにエドラをふるう。
 ひたすらチャージしていた杖は黒い雨雲を呼びよせており、空から特大の雷をエラーにたたきこんだ。
 爆発音。
 視界が黄色くそまり、なにもみえなくなる。
 空気がビリビリと震えて、スケアがたじろいだ。
 雲や煙が晴れたあと。
 大きくひび割れた氷の大地には、上半身を失ったエラーの肉体がたおれていた。
 見ているうちにボロボロとくずれていき、海にしずんでいく。
「やった! たおしましたよ、スケアさん!」
「ふん、スコシはヤクにタッタナ」
 スケアが空を旋回しながら、ゆっくりと地上へ降りていく。
 けれど、地上につく前にけたたましい警戒音がひびいた。
 スケア2号が鳴いている。
「えっ、なんで……うえええええええ!?」
 エラーの亡骸が消えた、その先。
 前方の上空をおびただしい数の白ワイバーンが飛んでいた。
 上には青くて毛むくじゃらのサルが乗っていて、なにか弓とか槍とかを装備している。
 休憩なしで連戦なんて聞いてないよ!