41話 まずは1人め

 ルファス、スケア、フリッツ司祭に魔神から聞いた話をした。
「いいよ」
 ルファスは二つ返事でOK。
「悪魔よされ!」
 フリッツ司祭は断固拒否。
「条件次第だな」
 スケアは慎重な態度をみせた。
「自分の身体をとりもどすため、魔神が雪の王をたおそうとするのは理解できる。ただ単にゲボクが私たちの血を吸って逃げたとしても、大した被害にはならない。奴隷の首輪がついていることだしな……このまま手ぶらで帰国するよりは、賭けてやってもいい」
「ルファス、スケア、ありがとう!」
「さんをつけろ。なれなれしいぞ」
 スケアはそっけなく返して、ルファスをみつめた。
「まずはルファスの血を吸う様子をみて判断させてもらおうか」
「いけません! 血はさまざまな魔法に使えます。悪用されたらどうするのですか!」
 司祭が怒り、ルファスはのん気に笑った。
「大丈夫ですよ、ナナシちゃんは悪い子ではないですし。みんなが見ている前なら安心でしょう?」
「ルファスはもうちょっと人をうたがった方がいいと思うよ」
 いつか悪い人にだまされそうで、こっちの方が心配になる。

◆

「おいしすぎると我を忘れて飲み過ぎてしまいそうだから、ルファスが私にあげてもいいと思う量の血をコップにそそいで欲しい」
 前回飲んだときおいしすぎてヤバい薬みたいだったからね……とはいえない。
「わかった」
 ルファスは木製のコップを用意すると、あっさり手首をナイフで切った。
 地面やテーブルにちょっとこぼれた血がもったいない。
「そのへんにしておきなさい。貧血でたおれますよ」
「はい」
 司祭の静止でルファスが腕を上げ、布でしばって止血する。
 すぐに司祭が回復魔法で傷をいやし、小さな革袋をルファスへわたした。
「鳥レバーの燻製です。体内で血を作るのに必要な鉄分を多くふくんでいます。一度死んで大量に血を失ったばかりなのですから、あなたたちも食べなさい」
 私とスケアにも同じものをくれた。
 司祭さまは基本的に回復役だから、ケガ人のためにいろいろ持ち歩いているのかもしれない。
「鳥レバー……」
 スケアが無表情でつぶやく。
「そういえばあなたは鳥の獣人でしたね。ブタのレバーにしましょう」
「いえ、問題ありません。私は食べたことはありませんが、ワシは鳥肉も食べますから。私はなんとなく食べたことがありませんでしたが」
「ブタレバーに変えてあげてください」
「余計なことをいわずにさっさと飲めチビ」
「はーい」
 ルファスの血。
 手首を切ったときは痛々しく感じたけど、最近戦いで負傷者や死人を見すぎたせいか、あんまり気にならなくなってきた。
 故郷にいたときはお母さんが指先をちょっと切っただけでも見ていられなかったのに。
 コップにそそがれたせいか、ぶどうジュースか赤ワインにみえる。
 香りもなんかそんな感じ。
 鉄がさびたような、いかにも血の匂いなんだけど。なぜか私にはオレンジジュースみたいに感じる。
 そのへんに売ってそうなやつじゃなくって、貴族さましか買えないような、高いやつ。
 一気に飲むのがもったいなくて、まずひとくち。
 口をつけたとたんに体中の細胞が喜んでいるのがわかった。
 すっごく身体に良いもの食べてる感じ。
 髪の1本1本から足のつま先まで、温かいものがじんわりとしみわたっていく。
 たぶんこれが魔力かな?
 ちびちびと楽しみながら飲んでいたら、
「おいしそうに飲むね」
 ルファスがちょっと恥ずかしそうに笑った。
「フルーティーでおいしいよ!」
 おつまみが欲しい。
「少し予想とちがったが、大丈夫そうだな」
 とスケア。
「私と勝負しろゲボク! 私に勝てたら、好きなだけ血をくれてやる!」
「勝負ですか? いったいなにで?」
「それはこれから考える」
 慎重派なんだか、考えなしなんだかわからない人だ。
「ナナシちゃんは戦いに関しては素人です。フェアな勝負をお願いします」
「ルファス、素人といってもゲボクはモンスターですよ。もう蘇生できないスケアと、何度でも蘇生できるゲボクをいっしょにしてはいけません」
「ふむ。そうだな……ゲボクには雷竜の杖もあることだし、どうしたら良い条件になるか」
「雷竜の杖ならありませんよ。雪の王の攻撃で全滅したときに紛失しました」
 あまりにさらりといわれたせいで、理解が遅れた。
 いわれてみれば、ない。
「エドラ! もどってきてエドラ!」
 あわててエドラを呼んだけど、反応がない。
 まさか壊れた……?
 考えてゾッとした。
「そういえば僕らの装備もなくなってますね」
 とルファス。
「基本的に蘇生魔法で服は再生できませんから。……なぜかゲボクの装備だけは肉体といっしょに再生されましたが、おそらくその装備の特殊効果でしょうね」
 司祭は冷静に告げる。
 ルファスとスケアは騎士の鎧と毛皮のローブを装備していたのに、いまはうすっぺらくて寒そうな布の服だけだ。
 私はドラゴンスタッフを持っていない以外は戦闘前のまま。
 ドラゴンローブとドラゴンブーツはほころび1つなかった。
「ジーク隊長がいってた、エドラの特殊効果ってこれだったのかな」
 そういえばクーさまが回復してくれたときもいっしょに治ってたっけ。
 あれはクーさまがそういう魔法を使ったんだと思ってた。
 いいながら、ルファスの血を最後まで飲み干す。ぜったいに残すものか。
「杖のないゲボクと勝負しても面白くないな。ユーグリアス王国がおまえと協力する価値もなくなったのではないか?」
 残念そうにスケアがため息をつく。
「まってください! 杖を探します!」
「いくら竜でもあのすさまじい攻撃にたえられたとは思えません」
 司祭もどこか同情的だ。
「いいえ! 杖が壊れていたら、魔神が教えてくれたはずです。もしかしたら代わりの武器をくれたかも。でも魔神はなにもいいませんでした。だからどこかにあるはずなんです」
「君は魔神を信じてるんだね」
 ルファスがつぶやく。
「ふむむ……では、これではどうだ? 我々には帰還命令がでている。だから我々がシアーナ共和国を脱出するまでに、雷竜の杖をみつけてもどってくるのだ」
「はい、やらせてください」
「じゃあ僕もナナシちゃんについてきます。監視役が必要でしょう?」
「……しかたありませんね」
 司祭はなぜか私をじろりとにらんだ。
「ちょっと! 人が撤収作業でバタバタしてるってのに、面白そうな話をしてるじゃん?」
 いつのまにか、だれかがイグルーの中へ入ってきていた。
 灰色の髪に緑の瞳。
 ルファスと同い年くらいのその少年は、戦闘前と同じ装備をかっちり着こんでいた。
「僕も混ぜてよ」
 魔力をたっぷりふくんだ、おいしい血の一人。
 そしてお姫さまの血をもらうためには協力をえる必要がある現場指揮官。
 オズだ。

◆

 オズの乱入により話はまとまった。
 私はルファスといっしょにエドラの杖を探す。
 そして、本来これから行く予定だったグリコの町へ行き、オーブを破壊。
 さらに、私たちと同じようにアルバ帝国も雪の王に全滅させられたため。アルバ帝国が行く予定だったステラの町へ行って最後のオーブを破壊する。
 できればアルバ帝国の残党を助けて恩を売る。
 これらすべてをオズたちがシアーナ共和国を脱出するまでにこなして合流すること。
 それができれば、スケア、フリッツ司祭、オズ、ドロシー姫の血を飲ませてくれるとオズは告げた。
「雪の王は僕らとアルバ帝国をたおしたと思って油断してるはずだ。ゲボクちゃんとルファスだけなら目立たないし、雪の王にも見つからないはず。僕らはともかく、姫の血を飲みたいっていうならこれくらい簡単にこなしてくれなきゃね~あははっ!」
 う~ん、めちゃくちゃ難易度高いけど、やるしかないか……。
「まってください! 私も! 私がステラの町へ行ってオーブを破壊してきます! 私がゲボクより先にもどってきたら報酬はなし、というのはどうでしょうか!」
 スケアが身を乗りだす。なにがなんでも私と勝負したいらしい。
「え? 別にいいけど、間に合わなかったら置いていくからね」
 とオズ。
 こうして私、ルファス、スケアは身支度を整えてから、同時にスタートした。
 審判はフリッツ司祭だ。
 オズたちはできるだけのんびりと帰国してくれるらしい。
 それにしても、エドラはどこにいったんだろう……?