42話 エドラを探せ

「ただいまもどりました」
「お帰りなさいあなた」
 一仕事終えた雪の王は、早々に王妃のまつ城へ帰っていた。
 雪の王は巨大だが、胴体や足がない。
 だから、移動するときは雪となって飛んでいる。
 身体のサイズがちがいすぎて愛しの君ともふれあえないので、雪の姿で彼女の周囲にただよっていることが多かった。
 今回も、いびつな冷気のかたまりとなって王妃のまわりをフヨフヨしようとしたのだが、
「捕虜はどうしたの?」
 そっけない言葉でこばまれてしまった。
「捕虜……ですか?」
「ユーグリアス王国やアルバ帝国に文句をいわなきゃいけないから、何人か生け捕りにしてきてって、いったでしょう?」
 沈黙が流れた。
「そうでしたか……?」
 言われていたような気もするが、言われてないような気もする。
 シアーナ共和国には王妃と雪の王さえいればよいと思っているので、その他のことなどどうでもいいのだ。だからすぐ忘れてしまう。
「死体でもいいから回収してきて。いますぐに」
 王妃はバルコニーから白い平原を指さす。
「もう、雪にうもれていると思いますが……」
「いますぐに!」
 雪の王は苦笑すると、王妃の頭をなでて姿を消した。

◆

 エドラを探そう。
 とはいっても、どこへ飛んで行ったのかさっぱりわからない。
 雪の王の攻撃範囲が広すぎて、どの角度へ飛んで行ってもおかしくなかった。
 考えていたら、ルファスが提案した。
「聞きこみをしてみよう。シアーナ人はあまりダメージを負わなかったし、杖がどこに飛ばされたのか見ていた人がいるかもしれないよ」
 その手があったか。
 というわけで、ルファスと手分けしてそれぞれ聞き込みを始めた。
 オズたち革命軍はまだ出発していないから、シアーナ人は近くにたくさんいる。
 なのに、
「すみませーん」
 愛想よく近づくと、シアーナ人たちはおびえた様子で逃げてしまった。
「こんにちはー」
「ひえっ」
 勘ちがいかと思ったけれど、みんな逃げていく。
「ねえ、なんで逃げるの?」
 声をかけても無視。
 視線すら合わせてくれない。
 私がシアーナ人じゃないから?
 でも、ルファスの方をみると、みんなにこやかに会話していた。人だかりがルファスの姿がかくれているくらいだ。
「あのー」
 試しにユーグリアス王国の騎士に声をかけてみた。
「近よるな、汚らわしい!」
 おつきの従者っぽい人にしっしと追い払われた。
「こんにちは?」
 身分が低そうな兵士ならどうだろうと思ったら、
「……」
 気まずそうな顔で目をそらす人。
「魔物が1人でふらふらしてんじゃねえよ! 斬り殺されたいのか!」
 剣をぬいて威嚇する人。
 けっきょく、まともに会話してくれる人はだれもいなかった。
 もしかして私、嫌われてる……?
 ぽつーんとしていたら、
「まだ出発してなかったの? 僕らそろそろ出発するよ」
 お供を連れたオズが背後に立っていた。
「オズが優しくみえる……」
 エドラについて聞きこみしたいのにだれも相手にしてくれない。
 と相談すると、
「ルファスって爪が甘いよね。自分が気にしないからって、モンスターへのふつうの反応を忘れるなんて」
 彼はため息をついた。
 私は味方のモンスターだから攻撃してはいけないと命令されているけれど、やはりモンスターは怖いからこんな態度をとる、ということらしい。
 オズはお供の騎士2名に命じて聞きこみを手伝ってくれた。
「ありがとう」
「お礼なんていいから、ちゃんと雪の王たおしてよ~?」
「がんばります」
 オズはちらっとこっちをみると、小声でたずねた。
「ねえ君、いちおう女の子だよね?」
「そうですけど」
「やっぱり女の子って背が低い男は嫌いなのかな」
 それはドロシー姫のこと?
 と思ったけど、いわないでおく。
「身長以外に良いところがあれば気にならないと思いますよ。その、優しさとか……?」
 私からするとシアーナの男性は巨人すぎて逆にやだ。
 でも姫からすると、あの巨人サイズじゃないとイヤなのかもしれないなぁ。かわいい顔は好きじゃないとかありそうだし。
「優しくしても相手にされないんだけど?」
「えーとぉ……その人が大事にしている人やものにも優しくするとか?」
 わかんないよ、そんなの!
 私だってまともに恋愛したことないんだから。
「ふーん?」
 そんな生ぬるい会話をしているうちに、聞きこみが終わった。

◆

 ルファスとオズの従者たちが聞きこみしてくれた情報をまとめると。
 ここから北の林に金色に光るものが落ちていった。
 それを見ていた目撃者が4人くらいいた。
 オズたちと別れてその林へむかうことになったんだけど、とても歩いていける距離じゃない。
 そこで、前にちらっとみたケモノを借りていくことになった。
 種族名はスノータイガー。
 馬と同じくらい大きな、ネコ化の生き物。
 ネコ化だけあっていかついネコみたいな姿だけど、迫力がすごい。
 まっ白な身体に青いぶち模様。
 目は小さく、鼻とあごが太い。口からはみだした牙は短剣みたい。
 ふさふさして固い毛皮の上に簡単な鞍がついている。
 チンピラみたいな顔つきをした2匹はそれぞれ、アオとトラという名前らしい。犬みたいな名前だ。
 ルファスはアオにのり、私はトラにのることに。
「この子たちはよく飼いならされてるから大丈夫だと思うけど……他のモンスターと君の区別がつくように、匂いを覚えさせておこう」
 そういわれて2匹とご挨拶をしたら、なんかすっごいフンフンフンフン匂いかがれた。
 よっぽど怪しいのか、2匹で私のまわりをグルグル回って鼻を押しつけてくる。
 そーっと毛皮をなでようとしたら、アオは様子をうかがうようにゆっくりと口を開けて私の手に近づていく。
「ダメ」
 ルファスが厳しく告げると、アオはしゅんと耳を下げて口を閉じた。
「この子、いま私を食べようとしなかった?」
 ルファスがにっこりとほほえむ。
「甘がみだよ。敵意がないか試そうとしただけ」
 ちょっと不安だけど、いちおう2匹のOKがでたらしい。
 鞍の上にのると、トラは猛スピードで雪の上を駆けた。

◆

 振り落とされないようにしがみついていたら、あっという間に林へついた。
 先端がとがった三角形の木がたくさんならんでいる。
 奥へ入ってあちこち探していたら、トラがぐるると低くうなった。
「どうしたの?」
「上だ」
 ルファスの言葉に頭上をあおぐと、そこにはたくさんの赤い目が光っていた。
 キモッ!
 ついおじけづいたけど、夜の私と同じ目だと気づいた。
 まだ昼間だけど、木々でできた暗い影にたくさんのモンスターがひそんでいる。
 それは長い両手で器用に木から木へと飛び移り、「きっきっ」と笑ってこちらを見下ろす。
 うっすらとみえた毛皮は青く、サルの骨格。
「あのときの青ザル、生きてたんだ」
「気をつけて。かこまれた」
 ルファスの指示でトラから降りる。
 アオとトラは戦えるから守ってくれる、と2匹の中央へ押しだされた。
 ルファスが前へでて剣へ手をのばしたとき、それはあらわれた。
「なにあれ」
 上空から飛び降りてきたそれは、あきらかに大きかった。
 チンパンジーの群れにゴリラが1匹みたいなサイズ感。
 しかもその青ゴリラは人間みたいにピアスやネックレスをじゃらじゃらつけていて……私のエドラを装備していた。