43話 VSスノーモンキーズ

「あのゴリラ、私の杖もってる! 氷属性っぽいのに、なんで電流が流れてるエドラをもてるの!?」
「正式名称はスノーモンキーだけど、たぶんあのアクセサリーのせいだ」
 わめく私にルファスが冷静に説明する。
 青い毛むくじゃらのゴリラがじゃらじゃらつけているアクセサリーには色とりどりの宝石がついている。
 それらは赤、黄、青、緑……炎、雷、水、風属性の加護があるそうだ。
 どこからひろってきたのか知らないけど、無敵か、このゴリラ。
 ちなみに、サルの正式名称はモンスター図鑑とやらに登録されてて読んだことがあるらしい。
「でも、あの杖に電気が流れてるようにはみえない。もしかしたら杖があのゴリラを主と認めたのかも」
「えっ……いつもは名前を呼んだら杖が帰ってくるのに、さっき呼んでも帰ってこなかったのはもしかして」
 なんて話しているうちにゴリラが杖をふるった。
 うわー!?
 雷を避けられる生き物はいない。魔神とかじゃない限りたぶん。
 杖から放たれた小さな雷はまばたきするよりも速く、ルファスをつらぬいた。
「ルファス!」
 ふっ飛ばされて木にぶつかり、彼は地面に転がった。
「大丈夫!?」
「……」
 気絶しているみたい。
 敵にまわったエドラの強さにぞくっと悪寒が走った。
 いままでさんざんモンスターをたおして頼もしかった杖だけど、アレをやり返されたらたまらない。
 チャージの重ねがけをしてなかったから死んでないけど、次くらったらまずいかも。
 ルファスはもう蘇生できないし、トラと青は氷属性だから1撃で死ぬだろう。
 マッチョの代名詞とされるくらい、ゴリラは全身ムキムキだ。
 杖のない私はまともに戦えない。
 まずい。これ一度逃げた方がいいかも。
「ウッホ! ウッホ! ウホホホホホホ!」
 ゴリラが二本足で立ち上がり、両手で胸をぽぽぽぽぽぽッとたたいた。
 なにかの合図だったんだろう。
「ギーッ!」
「ギャーッ!」
「キャキャキャキャキャキャキャキャキャ!」
 まわりをぐるりととりかこんでいたチンパンジーたちが狂ったように鳴き声を上げてぴょんぴょん飛びはね、地面へ降りてきた。
 そっか、エドラは1度使ったら5分使えない。
 だからその間子分たちに襲わせるつもりなんだ。
 ……ゴリラなんだから素手でも十分強いと思うけど、杖が気に入ってるんだろう、たぶん。
 なんて考えている間にチンパンジー集団がするどい爪と牙をむきだしにして飛びかかってきた。
「いやー!?」
 反撃しなくちゃ、と頭では思うのに身体がすくんで動けない。
 とっさに頭を両手でかばってしゃがみこんでしまった。
 ああ、きっとあのナイフみたいな長い爪でズタズタに引き裂かれたり、大きな口で内臓食べられたりするんだ。おそろしい。
 ガタガタ震えていたら、
「キイッ!?」
「キーッ!」
 サルの悲鳴がいくつも聞こえた。
 ん?
 痛覚がないのはいつものことだけど、振動さえもない。
 おそるおそる顔を上げると、チンパンジーが5匹くらい死んでいた。
「えっ、なんで?」
 きょろきょろとあたりを観察すると、私のまわり1メートルくらいが金色に光っていた。
 エドラの光に似てる。
――雷竜のローブとブーツだぞ!? ぜったいになにか特殊効果があるはずだ!
 武器マニアのジーク隊長の熱弁が脳裏に浮かぶ。
 まさかこれが特殊効果?
 でも、前に羽虫に集団リンチされたときにはこんな効果は……。
 フッと金色の光が消える。
「キーッ!」
「うわっ」
 くるな!
 念じると同時に光が復活した。
 飛びかかってきたサルがバチバチッと感電して死ぬ。
 自分を守ろうと意識するとこのバリアみたいなのがでるのかな? 集中してないとすぐ消えるし、威力は杖ほど強くはなさそう。
 羽虫のときは考える間もなくボッコボコにされてたから、そのせいかも。
 飛びかかるとバリアで死ぬとわかったからか、チンパンジーたちは動かず様子をうかがっている。
 これって攻撃はできないのかな?
 シャドーボクシングっぽくジャブを5発打ってみたんだけど、拳から雷が飛んだりはしないみたい。
 じゃあキックは?
 試しに宙をキックしてみると、キックした方のブーツがブオンと電気をおびた。
 足から電気は飛ばせないけど、ブーツをはいてキックすると雷ダメージもあたえられそう。
 バリアをだすほど余裕がなくて、とっさに反撃するときにいいかも。
「って、危ない!」
 チンパンジーたちは私をねらうのを諦めたらしく、迂回して気絶したルファスに接近していた。
 あわてて走ったけれど、それより先にトラとアオがチンパンジーたちを噛みちぎる。
 スノータイガーとスノーモンキー。
 どちらも同じ氷属性だけど、トラとサルならトラの方が強い。
 トラとアオは余裕を感じさせる笑みを浮かべ、ネズミをもてあそぶネコのようにチンパンジーたちを撃退していく。2匹くらい食べてた。
 私のバリアにふれたら2匹が死んじゃうかもしれないので、あんまり近づかないようにしてルファスへたどりつく。
「う……」
 ルファスがうめいて、目を開ける。
「よかった、ルファスおき……ぎゃん!?」
 私めがけて小さな雷がふってきた。
「ウホ?」
 いかつい青ゴリラが首をかしげている。
 あーびっくりしたー。びっくりしたー。
 いつのまにかチャージ完了してて攻撃されたらしい。
「大丈夫!?」
 ルファスががばっと飛びおきた。
「雷竜のローブを着てるから、雷属性の攻撃は効かないみたい。ルファスこそ大丈夫?」
 まだ少し身体がしびれるのか、ふらついている。
「平気」
 彼は両手をぐーぱーすると、剣をぬいた。
 短く呪文を詠唱して、剣に炎をまとわせる。
 改めてこっちをみて、おどろいた顔をした。
「それ、どうしたの?」
 電気バリアのことだろう。
「ローブの特殊効果みたい。意識してないと消えるけど、氷属性から身を守るには良いよ。ルファスも入る?」
 ちょっとせまいけど。
「いや、僕はあの杖をとり返してくる。トラとアオもいるし、ここなら安全だろうから君はここにいて」
 いうと同時に猛ダッシュ。
 雪にしずまなくなる氷属性のお守りを持っているとはいえ、なんで雪の上であんなに速く走れるのか。
 襲ってくる青チンパンジーたちをするりとかわし、たまに踏んづけて進んでいく。
 なんかめずらしく顔が怒っているようにみえた。ゴリラにやられたのがくやしかったのかな?
 迎え撃つゴリラは充電切れのエドラをこん棒みたいに大きくふり回し、ルファスに殴りかかる。
 そこから先はちょっと見えなかった。速すぎて。
 ルファスの剣技がすごいのは知ってたけど、ゴリラもなかなかの杖さばき。
 私の杖さばきがへたくそといわれたのも、これを見た後なら理解できる。
 刺すように急所をねらうルファスの剣を、ゴリラは杖ではらい、たたき落し、歴戦の剣豪のように斬りかかる。
 残像くらいしかみえないから正確な動きはわからないけど。
 杖には刃なんてついてないのに、かするだけでルファスの髪や服を切りきざんでいく。
 ルファスの剣には少しずつヒビが入り、増えている。
 ルファスもゴリラの腕を斬ってはいるんだけど、筋肉もりもりのゴリラは傷がついても大してダメージになってなさそう。
 そのうち、エドラの充電が完了した。
 ゴリラは人間みたいにニヤリと笑い、杖をぶんっとふりまわす。
 キュインッ!
 攻撃されるかと思ったら、ゴリラは杖をさらにブンブンと振り回し続けた。
 キュインッ!
 キュインッ!
 キュインッ!
 キュインッ!
 キュインッ!
 キュインッ!
 キュインッ!
 このゴリラ、チャージの重ねがけができることを知ってるんだ。
 なんで私より使いこなしてんの!?
「ルファス、逃げよう!」
 私は杖の攻撃をくらっても平気だけど、ゴリラパンチには負けるし。このままじゃ全滅だ。
 正午くらいのはずなのに、空は暗くそまり、ゴロゴロと大きな雷の気配をただよわせている。
「大丈夫!」
 ルファスは剣を上段に振り下ろした。
 けれど、ゴリラはすかさず杖を横にかまえてそれをふせぐ。
 勢いよくたたきつけられた剣は衝撃にたえきれず、粉々にくだけてしまった。
 やばい。ルファスが杖で串刺しにされる想像をして青ざめたけれど。
 剣の破片がゴリラの視界をうばったその瞬間。
 ルファスは残った剣の柄をゴリラの目に突き刺した。
 野太いおたけびをあげて、ゴリラが苦しみのたうち回る。杖が地面に落ちた。
 ルファスは黄色の宝石がついたゴリラのネックレスをひきちぎり、にぎりしめたまま杖へと手をのばす。
「ナナシちゃん、受けとって!」
「う、うん!」
 放物線上に投げられたそれを追いかける。
 落下地点でまっていたんだけど、まるでエドラが「嫌だ!」とでもいうかのように、杖は空中で不自然に止まった。