44話 VSエドラ

 まぶしい。
 雷が落ちたような光があらわれて、とっさに目をつぶる。まぶたの上からでもわかる強い光がおさまったあと、目をあけるとそこには雷竜が降臨していた。
 あちこちトゲトゲした骨格。ヘビのようににょろりと長い胴体にはいくつもトサカがついていて、2つの羽根が特に目立つ。
 全身をおおう固いウロコは緑の宝石のように光輝いている。全身に電気が流れているみたい。
 トカゲの親分というには、あまりに巨大で神々しい。
 雷竜エドラは4本の足を使わず、羽ではばたくわけでもなく。ただ杖の上空にふわふわとただよっていた。
 その姿はずいぶん前に見たときとほとんど同じだけど、前とちがって体が透きとおっている。
「エドラの幽霊……?」
 話しかけると、エドラは私がさっきだしたのと同じバリアみたいな電気の膜をはった。スノーモンキーはもちろん、トラもアオも、ルファスでさえ私たちには近づけないだろう。私とちがってかなり大きなバリアで、30メートルくらいはあった。
「わたしはずっとおまえを見ていた」
 つややかな妙齢の女性の声で、エドラがしゃべった。
 口はまったく動かしてない。杖の先端についているのと同じ目玉でこっちをみているだけだから、テレパシーかもしれない。
「しゃべれたの……!?」
 それならもっと早く返事してくれたら良かったのに。
「竜は強い者にしたがう。わたしをたおした魔神の命令だから、いままでおまえにしたがっていた。しかし魔神は死にかけている。魔神がいないなら、おまえに仕えてやるいわれはない」
「魔神を復活させるためにがんばってるんだよ。エドラが手伝ってくれれば、魔神ももどってくるよ!」
「だまれザコが!」
 説得してみたんだけど、逆効果だったみたい。
 エドラは大きな牙で私を噛みちぎった。
 はずなんだけど。
「ん?」
 私にはなんのダメージも入らなかった。
 エドラの頭部は私の身体をすりぬけてしまっていた。
 見た目どおり、実体がないみたい。
 幽霊とか魂とか、そんな感じなのかな?
 あたりの雪や木々がバチバチいってるところをみると電気はあるっぽいけど……。雷竜のローブを着てる私には効果がないようだ。
「そんなこといわずに力をかしてよ! なんならちょっと魔神呼んでみるから」
 エドラはガルルルと牙をむき、こちらをにらむ。
「うるさい! 魔神とわたしがいなければなにもできない無能めが……おまえに使われるくらいなら、あそこの剣士かサルに使われた方がマシだ!」
 エドラがガブガブと私を噛みまくる。
 実体があったらいまごろ私はミンチ状態だけど、幽霊だからまあいいか。
「そんなこといわれても」
 ゴリラとルファスの方が私より強いのは事実だけど、はいそうですかと諦めるわけにもいかない。
 かといって、ここでクーさまを呼んだらますます軽蔑されそうだし……う~ん。
「いますぐはムリだけど、いつかあのゴリラより強くなってみせる、ってことじゃダメ?」
「目標が低すぎる」
「じゃ……じゃあルファスより強くなる」
「どうせなら魔神をこえてみせろ」
「いくらなんでもそれはムリ」
 ルファスだってムリそうなのに。
 エドラはフンと鼻をならし、霧のように姿を消した。
 本体であるドラゴンスタッフがキラリと光る。
「なら試してやろう。30分以内におまえだけの力でわたしを捕まえてみせろ。できたらおまえの元へ帰ってやる。できなければおまえを殺して遠くへ旅立つ」
 警告のつもりだろう。
 ドラゴンスタッフはまっすぐ私のひたいをつらぬくように飛んできて、おでこにふれる寸前でぴたりと止まった。
 幽体で攻撃はできないけど、杖の方なら攻撃もできるといいたいらしい。
「わ、わかった!」
 答えると同時に杖を両手でつかまえようとしたんだけど、一瞬で逃げられてしまった。
 いっしょうけんめい走って追いかけまわすけど、ちっとも追いつけない。
 杖はわたり鳥のように自由自在に空をかける。
 ただ、いちおう情けはあるみたいで、私がジャンプしても届かないような高所には行かなかった。
 そうこうしているうちに15分が経過。
 ダメだこれ。ぜったい捕まえられない。
 夜になれば身体能力がアップするけど、まだ昼の3時くらい。あと15分以内になんとかしようと思ったら、なにか別の手を考えるしかない。
「ナナシちゃん、がんばって! なにか飛び道具やワナを使うのはどうかな?」
 私たちに近づけないので、遠くから見守ってくれているルファスがさけんだ。
「それいいね!」
 ワナか。ちょっとひきょうだけど、正攻法じゃエドラには勝てない。
「ちょっと道具とってくるからまってて!」
 ロープで投げ縄でも作ろうか。
 エドラにタイムを宣言してルファスの元へ走ると、それが目に入った。
「ゴリラ、殺したんだね」
 スノーモンキーたちはとっくに逃げていて、残っているのは死体ばかり。
 チンパンジーもどきたちの死体に混ざって、ゴリラがたおれていた。
「かわいそうだけど、人を襲うからね」
 お腹いっぱいで眠そうにしているトラたちをなでながら、ルファスがいう。
 優しい彼はモンスターを殺すのも心が痛むらしい。
 だけど、私が考えていたのはそういうことじゃなくて、少しまえ、魔神にいわれた言葉だった。
――人間のエサばっかり食べてるから強くなれないんだ。
 エドラに勝つ方法、思いついたかもしれない。
「ルファス、私がいいっていうまで目をつぶっててくれない?」
 素直な彼はいわれてすぐに目を閉じる。
「いいけど、早くエドラをなんとかしないとまずいんじゃない?」
「エドラを捕まえる方法を思いついたの。そのためにど~してもルファスには目を閉じててもらわないと困るんだ」
「わかった、いいよ」
 彼が目を閉じたのをよ~く確認してから、私はそろりとゴリラの死体に近づいた。
 魔神の理屈では魔力の強いモンスターを食べればレベルアップするはずなのだ。
 それなら、食べて強くなってエドラを捕まえるしかない!
 でもこんなはしたない姿をルファスに見られるわけにはいかないんだよ!
 てわけで時間もないしサクサク食べよう。
 スノーモンキーの部下の方、チンパンジーはあんまり魔力ないけど。こっちのボスザルはなかなか魔力があるみたいで、おいしそうな匂いがプンプンする。
 毛皮の上からガブリとかじると、まるで果実のような液体が口の中に広がった。
 あ、これトマトみたい。
 サルの肉なのにトマト味とはこれいかに。
 不思議だけど食べやすくって、ぺろりと平らげてしまった。
 口元をハンカチでふいて、
「ルファス、もういいよ」
 エドラめがけてダッシュ。
 特にパワーアップした実感はなかったんだけど、たしかにレベルアップしたみたい。
 羽根のように軽くなった身体は、右へ左へと飛びまわる杖をあっさりキャッチした。
「やった!」
「ちょうしにのるな。手加減してやったんだ」
 先端の目玉がギロリとこちらをにらむ。
「でも、約束……」
 フッとエドラのバリアが消えた。
「わたしにふさわしい主になれ。強くなるのをあきらめたら殺してやるからな」
 いちおう杖の主人として認めてくれたってことでいいのかな?
 雪の王と戦っている最中に杖にぐさーと刺される姿を想像してしまい、ぞっと悪寒が走った。
「……がんばります」
 杖を手にルファスのところへ行くと、彼はこちらをぼうぜんとした様子で見つめたままつぶやいた。
「ナナシちゃん、君もしかしてゴリラを……」
「ちがうよ?」
「でもゴリラの死体が消えてるし、同一人物とは思えないほど動きがよくなって」
「急ごうルファス。オーブを壊しに!」
 女の子がゴリラ1匹を毛皮ごと食べつくすなんてあるわけないじゃないですかーやだー。