45話 グリコの町

 私は杖にのり、ルファスはトラにのり。アオがそれについてきて、グリコの町へとたどりついた。
 グリコの町は凍った海の上に浮かぶ、神秘的な町だった。
 私の故郷よりちょっと小さいくらいかな?
 本当に海の上にでーんと町が乗っていて、沈まないのが不思議。
 ルファスの解説によると、町の下にはちゃんと地面があるらしい。
 夏には氷がとけて道が現れるんだけど、いまは冬だから完全に道がない状態だとか。
 私の故郷はずっと夏だから変な感じだけど、他の国には四季というのがあるとか、いろいろ教えてくれた。
 暗い夜空でほのかに光るグリコの町はとってもキレイ。
 ただ、その上空をモンスターの群れが巡回しているのが残念だった。
 大きな羽と角のある醜い悪魔で、ガーゴイルという名前らしい。
「あの町のどこかにあるオーブを壊せばいいんだよね? オズはなにかいってた?」
 ルファスに聞くと、彼は首をふった。
「なにも。トラとアオはこの辺の物陰にまたせておいて、僕らだけで中に侵入しよう。あのくらいの数なら、タイミングよく隠れれば大丈夫なはずだ」
 そんなわけでエドラに2人のりして、町の上空へ飛んだ。
 ガーゴイルたちが通りすぎていった後をすぐに通りぬけ、何度か屋根にかくれながらなんとか町の中央までたどりつく。
「あの1番大きな建物とか、いかにもオーブありそうじゃない?」
「あんな目立つところに隠すかな……?」
 ルファスはあんまり乗り気じゃないけど、他にどこを探せばいいかもわからないから、教会へむかう。
 グリコの町の中央には巨大な教会があり、すっごい存在感をはなっていた。
 星がついた屋根の下には鐘がついていて、そのさらに下に大聖堂が広がっている。
 窓にはめられている絵があんまり美しくて、ぽかーんと大口をあけてながめてしまった。
 まるで色とりどりの宝石で描いた絵みたい。
「ルファス、ルファス、あれなに!?」
「あれはステンドグラスっていって、簡単にいうとガラスに色をつけた芸術品だよ」
「ガラスってなに?」
「えっと、とけない氷っていうか……」
 そんな話をしながら屋根におりたとたん。
「ケエエエエエエエエエエエエエ!」
 耳をつんざくようなおたけびがひびいた。
 私が屋根だと思ってふんだのは、ガーゴイルの頭だった。
「うわっ!?」
 空だけじゃなくて、屋根にもいるなんて。
 さらにいうなら、体を屋根と同じ色に変化させてるなんて卑怯だっ。
 私が振り落とされてしりもちをついている間に、ガーゴイルのするどい爪が襲いかかってくる。
 ルファスがその頭に斬りかかったけれど、剣がバキンと砕けてしまった。
「チッ」
 ガーゴイルが怒ってルファスに飛びかかる。
 彼はひらりとかわすと、ガーゴイルの背に体当たりした。
 ガーゴイルが短い悲鳴をあげ、手足をもつれさせて屋根の下に転がり落ちていく。
「あ、ありが」
 お礼をいおうとしたけど、ルファスは困ったように眉を下げた。
「もう剣がない。それに、ガーゴイルに雷は効かないんだ」
「そうなんだ。じゃあ、見つからないように気を……」
 つけるね、というより先に状況に気づいた。
 さっきルファスが下に落としたガーゴイルが大きな羽で飛び、もどってきた。頭の角が片方折れてはいるけど、まだピンピンしている。
 それに、さっきガーゴイルがさけんだ声を聞きつけたみたい。
 町の上空を巡回していたガーゴイルの群れがこちらに集まってきていた。
 頭まっしろでフリーズしそうになったとき、女性の声が聞こえた。
「ガーゴイルは教会の中に入れません! 早くこっちに逃げて!」
 はるか下。
 教会の窓から白い服を着た女性が手をふっている。
 ルファスをふり返ると、彼は素早く私を肩にかかえて飛びおりた。
 落下するとき特有の背中がヒエッてなる感覚がして、肩がふるえる。
 ルファスは周囲の屋根や窓を転々と飛びおりて器用に地面へ着地した。
 その勢いのまま、開かれた教会の扉へすべりこむ。
 すぐに扉は閉じられた。
 ……まぶしい。
 明かりに照らされて目を開けると、ルファスにローブのフードをかぶせられた。
「顔をかくして」
 と彼が早口でささやく。
「お怪我はありませんか?」
 さっきと同じ女性の声がすぐ近くでした。
 そこでようやく、ルファスの意図に気づく。
 そっか、いま夜だから。私の光る目をみたら、グリコの町の人がおびえてしまう。だからフードでかくしてくれたんだ。
 強くなるとエドラに誓ったばかりなのに、ルファスに助けられてばかりの自分がはずかしくなった。
 この町についてから、びっくりして固まるばっかりで、まだなに一つまともに戦えてない。
 もっとがんばらないと。
 光る目がみえないように気をつけて身体をおこす。
 フードごしだから足元くらいしかみえないけど、そこには大人の女性と男性がいた。
「はい、おかげさまで助かりました。ありがとうございます」
 ルファスが丁寧にお礼をいって、自己紹介する。
「ナナシは顔に傷があるので、失礼ですがこのままの状態でお話をさせてください。僕とナナシはシアーナ共和国を元首から救うため、ユーグリアス王国とドロシー姫の使いとしてここへ参りました。みたところ、あなた方も元首と敵対しているようですし、協力して頂けないでしょうか?」
「まあ、もちろんです! 私はマルティナ。このグリコの町のシスターです。彼はペイン。町長であり、3貴族の1人でもあるジルチアゼム様が殺されてしまったあと、町のみんなとこの教会に立てこもってなんとかしのいでいました。しかし食料がつきてしまい、途方に暮れていたところなのです」
 よほど思いつめていたのか、彼女は涙ながらに語りだした。
 若い男や魔力が強い女たちはみんな元首の命令で戦争に駆り出され、いまもどこか遠くの国で戦っている。
 わずかな配給でなんとか生きていたが、モンスターたちがたびたび女をさらいにくる。
 元首の命令で他国へ奴隷として売りとばすのだという。
 逆らうと殺されるので、モンスターの入れない教会でたてこもることにした。
 しかし、そうすると配給がもらえないので飢え死にしそうになっている。
「どうか私たちをお助けください」
「もちろんです。しかし救援を呼ぶためにはまず外のモンスターたちを退治しなければなりません。ガーゴイルに効く武器を頂けませんか? 剣が壊れてしまい、武器がないのです」
 ルファスの言葉に、奥にいる人たちが喜ぶ気配がする。
 でも、すぐにとまどうようなざわめきが広がった。
 彼らを代表するように、マルティナが問う。
「お恥ずかしながら、みんなモンスターと戦ったことがありません。ガーゴイルにはなにが効くのでしょうか?」
 モンスターと戦える人はみんな戦争にとられてしまったのだから、残っているのは女子ども老人、ケガ人くらいなんだろう。
「水魔法か、氷魔法か、光魔法。あとは岩を砕けるような鈍器があるといいですね。ふつうの中剣くらいだとすぐに壊れてしまいます」
 ルファスの言葉を聞いて、ペインが奥へ走る。
「ハンマーあっただろ、もってこい!」
「だれか魔法使える子いる?」
 マルティナも魔法使いを探している。奥にいるのはほとんど子どものようだった。
「ねえ、ルファス。私にできることってないかな?」
 雷が効かないならほとんど役に立たない気はするけど、だまって見ているわけにもいかない。
「なるべく敵に近づくなといった僕がこんなことをいうのはとても心苦しいんだけど……」
 ルファスはとても申し訳なさそうに告げた。
「その杖、雷竜の骨と目玉と皮でできてるから、すごく固いんだ。その辺の剣よりとっても役に立つ。……だからその、がんばってそれでガーゴイルをぶん殴って欲しい」
 突いても効くよ、と。
「……がんばります」
 頭の中に”ガーゴイルに引きさかれる私の図”が浮かんでしまったけど、見なかったことにした。
 いやだって、雷効かないから安全なところから遠距離攻撃できないし。
 たぶんこの町にある武器でエドラが1番強いし。
 やるしかないと覚悟を決めた。