47話 シアーナ城あらわる

「お城だ!」
「すげー」
 私たちについて外へでてきていた子どもたちが空を指さす。
 霧のように消えていく虹色のカーテンの奥に、大きな城が浮かんでいた。
 グリコの町より少し大きいくらい。
 すべてが氷でできていて、宝石のカタマリみたいにキレイだ。
 鏡のように風景を反射している。
 虹色の光につつまれて浮いていたその城は、ゆっくりと空から降りてきた。
 まるで日が沈むように自然な動きだ。
 やがて城は近くの海へとおりて、孤島のようにぷかりと浮かんだ。
「あれって、4つのオーブを破壊すればあらわれるっていう、王妃がいる城だよね?」
 ルファスに聞くと、彼も目を丸くしていた。
「たぶん。シアーナ城の場所はだれも知らないと聞いていたけど、まさか空にあったなんて……」
「ルファスがオーブを壊したとたんにあらわれたってことは、スケアはもうステラの町でオーブを破壊してて、ここにあるオーブが最後の1つだったのかな? 早く帰らないと勝負に負けるかも……トリルっていう子もぐったりしてるし、急ごう」
 ルファスはうなずき、マルティナへ告げた。
「結界がとけたことに気づいた元首がこの町を襲うかもしれません。なるべく教会からでないようにしてください」
 マルティナがうなずく。
「わかりました。トリルとアンナをよろしくお願いします」
 近くにまたせていたスノータイガーのトラとアオを呼び、この2頭に4人で乗って帰ることになった。
 ちっちゃい子だけで乗せると落っこちそうで心配だからだ。特にトリルは意識がないし。
 組み合わせはトリルとルファス、私とアンナちゃんだ。
「よろしくね」
「……」
 アンナちゃんはしばらく私をじろじろと観察してから、こくりとうなずいた。
 フード被ってるからあんまりみえないけど、この子もたぶんすっごい美人さんだ。
 髪の毛サラツヤだし、ちっちゃい手足の形も整っている。
 声は小さいけど、子ネコみたいに高くて甘い。
「アンナ、寝る」
 トラの背の上はすっごくゆれるし、酔ってもおかしくない。
 なのにアンナちゃんは私の胸元にこてんと頭をあずけるとすぐに寝てしまった。
 考えてみればいま深夜3時くらいだし、小さい子には辛い時間だろう。
 なるべくおこさないように、私はあんまりデコボコがない道を走った。

◆

 そのころ雪の王は、先日ゲボクたちをたおした辺りにいた。
 王妃にいわれて兵士たちの死体や装備を探しているのだが、予想どおり雪にうもれてしまってまったく見つからない。
 そもそも体が大きいから、小さい物を探すのは苦手なのである。
 かといって早々にあきらめて帰ると王妃が怒るので、せっせと雪を掘りおこしていた。
 シアーナ城を空に隠していた結界がとかれたのは、そんな時だった。
 虹色に発光するオーロラと共に空へあらわれたシアーナ城をみて、雪の王は急いで城へ帰った。
 王妃は無事だった。
 ただし争った形跡があり、周囲に50人くらいの死体が転がっている。
 そのうちの1人は太った男で、何度か見たことのある顔だった。名前は忘れた。
「ケガはありませんか? なにがありましたか」
 護衛にかこまれていた王妃が、青ざめた顔をこちらにむける。
「ロッソ大臣が反逆したの。前から信用できないと思っていたけど、私にしたがうふりをして殺す機会をうかがっていたんですって。あなたがいなくて、結界がとけてみんなが動揺しているいまがチャンスだと思ったんでしょうね。おかげで寝不足よ」
 いまいましい、とばかりに王妃がロッソ大臣の死体をけとばす。
「……」
 雪の王は少し考えて、彼女に手招きした。
「システィアーナ、こちらへいらっしゃい」
 王妃は不思議そうに片眉を上げたが、素直にこちらへやってくる。
「あと3歩下がって」
 指示どおり彼女が3歩下がったとき、王は右手を実体化させた。
 ふだんは水蒸気のような姿でいるが、その一部だけを本来の姿にもどしたのである。
 あらわれた巨大な手は、周囲に集まっていた護衛たちをまとめてわしづかみにし、そのままぶちぶちと握りつぶした。
 赤い果物をつぶしたような鮮血がしたたり、運良く手につかまれなかった護衛が腰をぬかす。
「ひえっ」
「雪の王、なにをなさるんですか!?」
「我々はあなたに逆らいません! ちゃんと王妃を守りました!」
「くそっ」
 身の危険を察したのか、一人の兵士が王に斬りかかる。
 王の手は蚊でもつぶすかのようにそれをたたき、男は動かなくなった。
「どうして……私たちがいったいなにをしたっていうの」
「王妃さま助けてください! 王妃さま!」
 同じ氷属性の相手に自分の攻撃は効かないとよくわかっているらしく、魔法使いたちは反撃せず、王妃に命乞いをする。
「やあよ、めんどくさい」
 王妃は軽く肩をすくめた。
 雪の王が王妃以外のすべての人間を皆殺しにして、城がすっかり静かになったあと。
 王妃は眠そうにたずねた。
「どういうつもり?」
「システィアーナは一生懸命に国のためにつくしているのに、だれも理解しようとしない。人間はもう信用できないから、いりません。あなたの護衛もすべてモンスターにさせましょう」
 雪の王は手を水蒸気にもどし、そっと王妃の頭をなでる。
 彼女はくすぐったそうに目を細めた。
「なにいってるの? メイドがいなかったらだれが私の髪を毎朝セットして、服を着せてくれるのよ。人間は必要だから、また適当にさらってきてちょうだい」
「……手先の器用なモンスターを作りましょう」
 雪の王が両手を組み合わせると、青い光と共にモンスターが生まれた。
 紫の長い髪に切れ長の瞳。
 あどけない顔だちと体格で、18歳くらいの少女にみえる。
 ただし上半身は服を着ておらず、下半身には黒と紫の毒々しいクモの足がついていた。 人とクモが合体したかのようなモンスター”アラクネ”である。
 王妃は顔を赤くした。
「服くらい着せなさいよ、バカ!」
「えっ……でも、これモンスターだし……すみません」
 雪の王があわててアラクネに服を作ると、ようやく彼女は機嫌を直した。
 それから壊れた結界について話をした。
 あの結界は古代人が失われた技術で作ったものだから、いまはもう修復する技術がない。
 だれが壊したかはわからないが、おそらくこの城に攻めてくるだろう。
 そのため、雪の王はここで敵を迎えうつことにした。
 自分が外へ出かけている間にまた王妃が襲われたらと思うと、そばを離れたくなかったのである。

◆

 途中少しだけ休憩をとって5時間くらい移動したあと。
 ようやくオズたちに追いつくと、すでにスケアが帰ってきていた。なんだか見慣れない外国の人たちもいっぱいいる。
 みんな黒髪で肌が黄色っぽくて、オリエンタルな服を着た人たちだ。
 つい見入っちゃうけど、まずはフリッツ司祭にトリルの治療を頼んだ。
「神のご慈悲に感謝なさい」
 回復魔法をかけたあと、司祭は告げた。
 トリルは2~3日休みながら栄養をとれば元気になるらしい。
「私はこのまま少年の手当てを続けますから、あなたたちはオズやスケアと話してきなさい。アンナ、でしたか? その子も私があずかりましょう」
 そういって、ルファスに耳打ちする。
「もう見たでしょうが、アルバ帝国の小隊と合流しています。ゲボクが見つからないように気をつけるのですよ」
 うなずいたルファスの横顔は、モンスターと戦っているときみたいな緊張感があった。