48話 悪魔3姉妹ミザリー、イザベラ、キルベル召喚
グパジー帝国でヘビガメ、皇帝をたおしたあと。
ゲボクと雷竜のがんばりにより、魔神は右手をとりもどした。
しかし、ゲボクたちがもどってこない。いまどこにいるのか、さっぱりわからない。
ゲボクには魔神の心臓をうめこんである。
だから、近くにいれば気配を感じるはず。……つまり、とてもはなれた場所にいる。
いったい、どこまで行ったんだか?
海におちて魚のエサにでもなってるのかもしれない。早くみつけて修復してやろう。
魔神は右手を軽く動かした。ゴキゴキと骨がこすれる。とりもどしたばかりの右手は、まだ骨のまま。1度魔力切れをおこしたせいだ。復活するまで少しかかるだろう。
でも悪魔の2,3匹くらいなら召喚できそうだ。
「ミザリー、イザベラ、キルベル」
正面の空中に3つの魔法陣が浮かびあがる。三角形のようにならんでいた。はしが重なりあっていて、1つの魔法陣にもみえる。
そこから、3体の悪魔があらわれた。
長女ミザリー。
赤い肌の顔に、大きな目玉が1つ。耳とくちはない。人間なら80歳くらいの外見。首までおおう、喪服のような黒のロングドレス。
次女イザベラ。
同じく赤い肌。顔には大きなくちが1つ。目と耳はない。人なら20歳くらい。胸としりは大きく、腰がくびれている。服も胸や太ももを強調するような、マーメイドドレス。
三女キルベル。
同じく赤い肌。顔にはなにもない。ウサギとネコの中間くらいの、大きな耳がある。人なら8歳くらい。黒と白の、ゴシックロリータドレス。
みんな赤いコウモリ羽があり、両手と同化している。足もコウモリだが、やはり赤い。
「お呼びでしょうか、魔神さま」
イザベラがほほえむ。歯ならびのよいキバがかがやいた。
「俺の犬が迷子になった。探してこい」
魔神は手短に告げる。
悪魔に愛想や社交辞令は必要ない。彼らは強者にだけしたがう。
魔神が封印されていた時は無視したくせに。力をとりもどしたら、こびへつらってくる。悪魔というのはそういうものだ。
「かしこまりました!」
ゲボクの特徴を伝えると、3姉妹は消えた。各地に飛んで、迷い犬探しを始めたようだ。
「……」
ただまつのはヒマだ。ヒマは嫌いだ。
あたりにはガレキと死体くらいしかないし。ここにいたって、しかたない。
アリッタ共和国でも行くか。
あそこには左手があるはず。
本当はゲボクにやらせたかったが……まってる間にとり返しておこう。
魔神はアリッタ共和国へテレポートした。
◆
テレポート先はのどかな町だった。
封印される前までは、ただの山だったはず。いつのまにか人間たちが山を切り開き、町を作ったらしい。
炎のオオカミは少しめだつ。かといって、ケモノ姿もあまり変わらない。人間バージョンが1番めだたないが、アレはこわれている。
消去法で、魔神は人間サイズの獣人になった。
「生神さま、ささやかですがこちらをどうぞ」
「あんた、神族かい? 出身は? もう観光はした? うちでごはんでも食べてかないか?」
「ワンちゃん、ワンちゃん!」
道行く人々が集まってくる。
「……俺にかまうな。ほっとけ」
いろいろめんどくさくて、魔神は逃げた。ぴょんと屋根の上にとびのる。それだけで、人間たちは追ってこれない。
どうせヒマだし、話し相手がいてもいい。
そう思わなくもないが、魔神にも好みがある。だれでもいいわけじゃないのだ。退屈な海の底にいたときなら、ともかく。いまはゲボクにしかきょうみがない。
……人間バージョンを修理しよう。そうしよう。アレが1番マシだ。
魔神にはいろんな姿がある。オオカミ、炎のオオカミ、獣人、そして人間。
本性は炎のオオカミだ。人間は仮の姿でしかない。
そして、人の体は調整がむずかしい。
「あ~……めんどくせ」
収納魔法でしまっていた、人の体を探す。
人間をまねて作ったタンパク質のかたまり。その頭は、とれてしまっている。
これがゲボクの体ならカンタンだ。くっつけておしまい。
しかしかりそめとはいえ、魔神のボディ。いろいろ高性能な魔法をしこんでいる。そうしなければ、魔神の力にたえられないからだ。
ふつうの人間の体と同じに作ったら、すぐこわれてしまう。
異次元にしまったまま、まずは頭をくっつける。角度を修正。傷ついた皮膚や血管、骨を修復していく。たとえ血を流さなくても、血管がないと人間にみえない。だから細部まできちんと作る。
魔神はクオリティにこだわるタイプだった。
たかが仮の体だしと血は入れてなかったが、やっぱり血も入れておこうか。ついでに防御力もうちょっと上げよう。また首きられたらめんどくさい。炎耐性と魔法耐性も追加して……。
修復が終わってから、体を異次元からとりだす。人体へ憑依して、こんどは獣人ボディの方をしまった。
これでよし。
作業を終えたところで、気配を感じた。
魔神の体が近くにある。
ゲボク?
とっさに思ったが、ふつうに考えてちがうだろう。アリッタ共和国には魔神の左手があるはず。それだ。
気配がした方角をみてみれば、でかいクラゲが飛んでいた。
「ほわわ~ん」
アリッタ共和国の守護神カイゲツ。
その腹の中に、魔神の左手が入っているのが透けてみえた。
◆
アリッタ共和国は評判のよい国だ。
平和主義で、むやみに戦争をおこさない。治安もよく、民は幸せそうにしている。
美しい海と島、空とぶ城がある観光地として有名でもある。
魔神の左手を保管してはいるが、悪用したりもしていない……いまのところは。
元首ゴチェフは酒を飲んで泣いていた。
50歳をすぎてやっと元首になれた。たくさん勉強をして、たくさん実践経験をつんで。やっと政治が楽しくなってきたのに。
「おきのどくですが……もって半年でしょう」
重い病気がみつかり、余命半年といわれた。
「この国では……でもグリアス王国なら……きいてます?」
医者がなにかいっている。ショックでなんにも頭に入ってこない。
ゴチェフはまじめな男だった。女遊びもせず、賭博もせず。仕事や人だすけばかり。良心にしたがって生きてきた。
がんばって働いたおかげで国の評判はいい。妻や子どもにも恵まれたし。いろんな人から好かれてる。
……なのに、なぜだろう?
死ぬといわれたら、すべてメチャクチャにしてやりたくなった。
良いことをしていれば、むくわれる。俺はいままで良いことをたくさんしてきた。だから、これからはハッピーなことばかりおきるはずだ。
そう信じていたのに、裏切られた。
やりたいことを我慢して、人につくしてばかりの人生だった。最期くらい、好きにしたっていいだろう。
国民みんな道連れにしてやる!
「カイゲツさまー!」
ゴチェフは守護神を呼んだ。