51話 再会


 悪魔3姉妹、すえっ子キルベル。彼女は耳が良い。

 目、鼻、くち。すべてないのに、幼女の外見だからだろうか? ゴスロリドレスのおかげもあって、そういうお人形のようにみえる。ちょっとホラーっぽいけど、愛らしいふんいきだ。

 そんなキルベルちゃん。
 世界中あちこちへ飛びまわり、音をきいてゲボクを探していた。

 ”ゲボク”だけでは音が多すぎる。だから、”魔神”、”ゲボク”という2つのキーワードをセットで検索。
 検索結果1件。アリッタ共和国。

 しかし、現地へむかったらもういなかった。
 かすかにのこる魔力の波動。……どこかへテレポートした?

 またあちこちへ飛んで、同じキーワードで探した。でも、検索結果はゼロ。

 ……探し方を変えてみよう。ゲボクは魔神の心臓をもっている。魔神の魔力を探せば、見つかるはず。

 封印された魔神の体はあと1つ。南国サファルカに魔神の両足がある。
 だから、そこはのぞく。

 魔神にあちこち移動されると探しにくい。じっとしててもらうよう手話で伝えた。
 そしたら、

「どうせヒマだから俺も探す」

 と魔神。

 ”ゲボクちゃん”をそうとう気に入ってるらしい。魔神のゲボクはたくさんいる。だけど、最近は彼が”ゲボク”と呼ぶのはその少女だけになった。

 手下が死んでも「そうか」ですませる魔神。悪魔のだれかが行方不明になったら、すぐに忘れてしまうだろう。
 そんな彼が、こんなに熱心に探すだなんて……。

 ”美しい魂をもつ人間”ってそんなにいいの? ……味見してみたい。

 ゲボク捜索中にみかけたグリアス王国の女王。彼女も、美しい魂の持ち主だった。でも、女神ががっちりガードしていて、近よれなかった。

 ゲボクをみつけたら、ちょっとだけ……。
 キルベルは内心舌なめずりをした。

 そのご、ミザリーとも合流。魔神、ミザリー、キルベルで地域ごとに分担して探すことになった。

◆

 まっくろに焼けこげて、廃墟と化したニヘンナ村。
 だれもいない故郷をみて、私は頭をかかえた。

 ズキッと全身にいたみがはしる。
 目はあいてるのに、夢みてるみたい。変な光景がみえて、音がきこえた。

『それで、だれにやられたんだ?』

 ドキッとするくらい美しい、男の声。

『……ニヘンナ村の人たち』

 あ、これは私。

『ニヘンナ村ってどこだ』

『あっち』

 人さし指から炎が飛んでった。
 ドッカーンと燃えるニヘンナ村。

 ……あれ? もしかして、私がニヘンナ村を燃やした? 友だちも、おじさんも、おばさんも……私がみんな殺しちゃったの!?

「アカネちゃん、だいじょうぶ? 頭がいたいの?」

 ルファスが心配そうにこちらをのぞきこんでくる。
 白ネコ、メルズークはしゃがんでほほえんだ。

「そういえば、君って記憶がぬけてるんだっけ? 故郷をみたら、なにか思いだした?」

 その言葉に、背筋がふるえる。
 だまっておきたい、しられたくない。そんなみにくい考えがよぎった。

 ……でも、ムリだ。めのまえにこんなハッキリ証拠があるのに、かくしとおせるわけがない。

「私……この村の人たちを殺してしまったみたい」

 メルズークが首をかしげる。

「それがホントなら、ボクお嬢さんを殺さなきゃいけないよ」

 声はとっても優しそう。でもこちらを見る目は冷静だった。ほんとだっていったら、すぐにでもおそいかかってきそう。

「まってください! きっと記憶が混乱してるだけです。アカネちゃんはそんな子じゃありません!」

 ルファスがかばってくれるけど、うしろめたい。

「記憶を少し思いだしたんだ。なんか……手から火だして燃やしたみたい? 私が殺したってハッキリ感じたから、かんちがいとかじゃないと思う」

「君、魔法が使えるの?」

 とメルズーク。

「ちょっとあの木燃やしてみてよ」

 遠くにあるヤシの木。
 あんなの燃やせるかな? でも、たぶんできるんだろうな……。ニヘンナ村、黒コゲだし。

「えいっ」

 なにもおきない。

「てやーっ!」

 なにもおきない。

「燃えろっ」

 ヤシの木が爆発した。
 ハヘンがすぐ近くまでとんできて、ヒヤッとした。

「……いまの、私?」

 メルズークは小首をかしげる。

「もう1度やってみたら?」

 べつのヤシの木を指さす。

「燃えろ」

 ふつうに燃えた。

「なにこれ……こわっ」

 自分でやっててちょっとひいたよ。なんで魔法使えるの?

「決まりだね。お墓は故郷に作ってあげるよ」

 とメルズーク。

「まってください! まだ記憶をぜんぶ思いだしたわけじゃない。なにか事情があったのかも……」

 ルファスがネコの前にわって入る。
 私は大人しくしていた。

 死ぬのはイヤ。でも、本当に私がニヘンナ村の人たちを殺したんだとしたら……。それは、死んでおわびしないとダメなレベルだと思う。死刑も受け入れよう。

 でも、いたかったりこわかったりするのはイヤだな……。
 この小さな島で平和にくらしてたはずなのに。いったいどうしてこんなことになったんだろ……。

 考えてたら、ルファスとメルズークが会話を止めた。物音でもしたのかな? 遠くの林の方を見つめてる。

「アーちゃん?」

 ききおぼえのある女の子の声。

 林から長い赤い髪がのぞいた。ポニーテールがゆれている。灰色がかった緑の瞳。おっとりした優しそうな顔だち。緑のワンピース。

「リーナ?」

 ニヘンナ村にすんでた、幼なじみ。
 目があって、私たちは同時にしゃべった。

「生きてたの!?」

 おたがいかけよって、だきしめようとしたんだけど。リーナは途中で足を止めた。

「アーちゃん本物!? ピスキーじゃないよね?」

 マロボ島にすむ妖精ピスキー。イタズラが大好きで、妖精と人間の子どもをとりかえたりする。

「ちがうよ! リーナこそ、オバケじゃないよね? 他のみんなは無事なの?」

「アーちゃん髪どうしたの!? ズボンまではいちゃって! 男の子になりたかったの!? はやりのトランスなんちゃらってやつ? 女が好きなの? だいじょうぶだよ、私理解あるから!」

 2人でいろいろ話していたら、メルズークが間に入った。

「楽しそうなとこ悪いね、お嬢さんたち。ボクはメルズーク、こっちはルファス。君はこの子のお友だちかな?」

「ね、ネコ神さま……!」

 ネコがしゃべったーってびっくりすると思ったのに。リーナはあっさり受け入れていた。ネコ神さまってなに?
 3人がしゃべってる様子をみていて、気づく。

 なんかリーナがでかくなってる……。

 私より背が低かったはずなのに。いつのまにか私よりちょっと目線が高い。胸だっておなじくらいだったのに、あきらかにふくらんでる。

 おしりや太ももとかにも肉がついて……まるで、大人のお姉さんみたい。顔つきまでちがう。

「リーナ……いつのまにそんな大人っぽくなったの?」

「そお? もう14歳だからね」

 まんざらでもなさそうに彼女はほほえむ。おなじ歳なのに……私はちっとも変わってない気がした。