52話 VS雪の王リベンジ③

 目を焼くほどのまぶしい光が視界すべてをうめつくす。
 雪の王の両手から放たれた閃光は大地を激しくゆらし、あらゆる角度から攻撃してくる。
 戦列の中央組ががんばってバリアはって防いでくれていたんだけど、お姫さまが転んでしまった。
「きゃあっ!」
 バリアが一気にうすくなり、割れた氷みたいにあちこちに亀裂が走っていく。
 すぐにカーライルさんが彼女をおこすものの、目を回してしまっているみたいでフラフラしている。
 その間にも雪の王の攻撃はずっと続き、シアーナ女性たちが苦しそうに悲鳴を上げながらバリアをはっている。
「きえええええええ!」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」
「姫さま……早く手伝って」
「助けて……」
「姫さま、大丈夫ですか!?」
「死んじゃう」
「重い。つぶれる……!」
「ど根性ぉぉぉぉ!」
 極寒の中だっていうのにすごい汗だ。
 でも彼女たちまでバリアを解いたら即全滅なのでがんばってもらうしかない。
 クーさま、まだ?
 後方にひかえている魔神をみると、彼はそしらぬ顔で呪文詠唱を続けていた。
 ……たまに水辺や氷なんかで自分の顔をみるんだけど、私ってこんな顔だったっけ?
 なんかいつもの自分と表情や雰囲気がちがいすぎて、別人みたい。
 魔神に操られてても私の身体なのになぁ不思議だなぁ。
 なんて考えていたら、いつのまにかオズが姫のそばにやってきていた。
 スケア2号が彼を乗せて連れてきてくれたみたい。
 彼氏が優しくはげましてくれたら、きっとがんばって戦えるよね。
 と思っていたのに、オズはドロシー姫をきっとにらみつけた。
「ちょっとしっかりしてよ! いちいち君を心配してたら戦えないだろ!」
「ご気分の悪い姫になんと冷たいことをいうのですか! 婚約者とはいえ許しませんぞ!」
 怒るカーライルを無視してオズは続ける。
「雪の王と王妃ぶっ殺して家族のカタキをとるんだろ!? それなのに君がこんなところでへばってちゃみんな死んじゃうよ! さっさとおきてバリアはって!」
「わ、わかってますううう! いまやろうと思ってましたぁ!」
 姫は顔をまっかにして目をつり上げたものの、さっと飛びおきてバリアを張りなおした。
 ヒビだらけのバリアが修復され、王の攻撃を押し返していく。
 シアーナ女性たちの顔色が良くなり、オズがにっと笑う。
「頼りにしてるよ、ドロシー」
 姫の顔が赤みを増した。
 きゃー。
 戦闘中にイチャイチャしちゃってまったく~。
 私がはしゃいでいる間に雪の王の攻撃は止まったらしく、一同が攻めこんでいく。
「顔と両手をそれぞれ同時にねらうんだ!」
 指示をだしながら、スケアに乗ったオズが雪の王の頭部をねらう。
 彼が剣をふり被ると、王の頭部が緑の光につつまれた。
 王の顔が少しずつでろんと溶け始める。
 毒だ。
 致命傷にはならないだろうけど、頭と両手を同時に破壊すれば王をたおせるってクーさまもいってたし、なんとかがんばって欲しい。
 でも、王がまたモンスターの大群を生みだしたから厳しいかも
 無限に回復できる雪の王とちがって、こちらはどんどん体力を消耗するし、兵士たちもけっこう死んでいる。
 これじゃあと20分ももつかどうか……。
 心配していたら、背後から歌が聞こえた。
 後ろの方にひかえた回復・支援チームである助祭たちだ。
 頭頂部だけがつるっとした奇抜な髪形にロングスカート。20~30代くらいのおじ……お兄さんたちは正直あんまり見た目パッとしない。
 それなのにいまは妙にかっこよく見える。
 テノールやバリトンの低音ボイスでつむがれる讃美歌がめちゃくちゃ上手いからだ。
 どこの歌手のコンサートかと思うほどの美声で歌いながら、彼らは息ピッタリで踊り続けている。30人以上もいるのに影みたいに動きがそろっているのだ。
 神を褒めたたえる内容でありながら、その歌はかなりハイテンポでノリが良い。
 聞いてるだけで気分が上がっちゃって、体が勝手に踊りだしそうになる。
 兵士たちも同じらしく、自分の何倍も大きなモンスター相手にひるみもせずにいどんでいく。
 この讃美歌で回復、攻撃、防御、スピードアップなどいろいろ補正もついてるみたい。
 これならなんとか……と思ったけどやっぱりまだ厳しそう。
 オズ、スケア、司祭が雪の王に集中攻撃して何度か破壊してるんだけど、すぐ再生してしまう。
 投石器や魔法使い、弓兵たちもがんばってるけど、モンスターの大群に邪魔されて大変そう。
 スノータイガーに乗った騎士たちは、姫のところまでモンスターたちが近づかないようにずっと戦い続けている。
 モンスターと兵士たちの死体がどんどん増えていくさまをながめていたら、左右になにかいることに気づいた。
 雪の王、モンスター、革命軍。これらがぜんぶ中央で戦っているとすると、彼らはちょっとはなれて左右からこちらを見守っている。
 姫たちが張るバリアにちゃっかり入りつつ、戦況をながめるだけでなにもしていないあの人たちは……えーと。
 なんとか帝国の人たちだ。
 いないなーと思ったら、なにしてんだろあの人たち。
 気になったから見に行ってみることにした。
 大丈夫。いまの私は幽霊みたいなものだからケガとかしない。たぶん。

◆

「でらべっぴんだけんどよぉ。あのお姫さん1人にこれだけの人数に命をかけさせる価値があるんかいな?」
「バカ、ただの女じゃねえよ。次期元首になる資格があると民に認められてる女だから欲しいんだろ」
「でもよお、うちの国にめとったらこの国の元首にはなれねえべ?」
「そこはアレよ。このまま勝てれば姫を元首にして王子を婿入りという形でシアーナ共和国が手に入るだろ。もしここで負けても姫と結婚して既成事実さえ作っちまえば、どうとでもなるだろ。いまの元首はとことん人望がないらしいし、他に元首になれそうなやつはいないんだから」
「そんなもんかねえ」
 これはもしかしてドロシー姫のことかな?
 ユーグリアス王国のライバルで、いまは協力者。
 味方のはずのなんとか帝国さんたちは、のん気な様子でおしゃべりしていて、だれも戦っていない。
 なんで? いまみんな苦しいから手伝って欲しいんだけど。
 オズはいったい彼らとどんな作戦会議をしたんだろう?
「しかしヒマだぎゃ~。眠くなっちまうど。おら世界一とウワサの王都の魔法使いが見たかったのに、来てねえしよお……」
「王の護衛らしいからな。こんな危ないとこまでこねーだろ、そりゃ」
 じっと観察していたら、大男と目が合った。
 フリッツ司祭やシアーナ男性に比べたら小さいけど、いかにもごつくてむさ苦しい感じの人だ。
 黒髪黒目で、たっぷりヒゲをのばしており、変わった鎧を身につけている。
 ころーんとした体型で、クマさんみたい。
「おいおまえ! なに盗み聞きしてるだ!」
 えっ、ウソみえてる!?
「だれかいるのか!? どこだ!?」
 大男と話していたやせた小男がキョロキョロとあたりを見回す。
 こっちは見えてないみたいだけど、大男の声が大きいから、周囲にいた兵士たちが一気に警戒した。
『ご、ごめんなさい! もしかしてみえてます?』
 大男はすごく怖い顔をして、太い指でびしりとこちらを指さした。
「あたぼうよ。おまえただの幽霊じゃねえべな? 名を名乗れ!」
『ゲボクっていいます』
「ゲボク……? 名無しの奴隷か? それにしちゃ魔性の気配がするだ」
 大男が首をひねり、小男がバンバンと彼の肩をたたく。
「ジアン、さっきからだれと話してんだ?」
「そこにゲボクって名乗る幽霊がいてさっきからおらたちの話盗み聞きしてただ」
「ゲボク? そいつぁユーグリアス王国の奴隷の名前じゃなかったか?」
 空気がぴりっとはりつめる。
 なんかまずいことしちゃった気がして、体もないのに冷や汗がでる感覚がした。