52話 ほぼ女子会

 荒れはてて、だれもすんでいないニヘンナ村。
 焼けあとしかないさびしい場所。もちろんイスもないから、私たちは立ち話を続けていた。

「アーちゃん、そのうでどうしたの!?」

 あ、気づかれた。
 リーナにいわれて、ギクリとする。
 いちおう服と包帯でかくしてたんだけどなぁ。やっぱり、片うでがないってめだつよね。

「わからない。記憶がなくって……死にかけてたところを、この2人がたすけてくれたんだ」

「たすけたのはルファス。ボクは殺しかけたんだけ」

「あー!」

 私はネコのうでを軽くひっぱった。フワフワでやわらかい。

「ややこしくなるからだまってて!」

 小声でいうと、彼は大きな耳をピッとゆらした。

「はぁ~い」

 めんどくさそうな顔しちゃって……。

「やっぱり、アーちゃんピスキーにさらわれてたんだ……」

 リーナがつぶやく。なんかすごい深刻そうにいわれて、ビックリした。

「どういうこと?」

 ピスキーにさらわれたおぼえはない。でも、なんか両手でブチンとたたきつぶしたような気はする。イモムシつぶしたみたいな感触が手によみがえって……ああああ、思いだすんじゃなかった。鳥肌たつ。

「アーちゃんが行方不明になってたあいだ、ニセモノがでたんだよ」

「ニセモノ?」

「そう。すっごく本物そっくりだったから、私もだまされちゃったよ。でも目が赤く光ってたから、うちのお父さんが気づいてたすけてくれて……アレってやっぱり、私のこともさらおうとしたのかな」

 おびえてうつむくリーナ。それを見て、なぜか胸がチクリといたんだ。

「ニセモノはどうなったの?」

「村の男たちが殺して森にうめたんだって。ピスキーを殺したから、仲間が怒ったみたいでさ。そのあとすぐ村が燃やされちゃったんだ。ぜったい人間にはできないような燃えかたでさ……こわかった」

 ダンッと心臓にオノを打ちこまれた気がした。
 もちろん気のせい。なのに、なぜかすごくおそろしくて、手がふるえる。

「だから村がなくなってるんだね。みんなは無事なの?」

 リーナはいいにくそうに眉をさげる。

「それが……変なんだ。女子どもは無事だったんだけど。男たちばっかりケガしたの。うちのお父さんもガレキにつぶされて、右手がなくなっちゃった。運よく死人はでなかったけど……みんな、ピスキーのたたりだっていってる」

「……右手がないと漁や狩りができなくて、大変だよね。家もみんな燃えちゃったみたいだし」

 なんかきもち悪くなってきた。めのまえがグルグルまわってる。
 私にはニヘンナ村を燃やした記憶がある。もしかしてそのニセモノって……。

「そう、大変だったよ。貯めてた食料もみんなダメになっちゃったし。みんなすごくピリピリしてた。だからさ……あの……村がこんなになっちゃったから、いまはべつの場所でくらしてるんだけど。行かない方が、いいと思うよ」

「どうして?」

「ピスキーが化けたニセモノ、本当に本物そっくりだったから。いまアーちゃんの顔みたら、またピスキーがきたってかんちがいする人いるかもしれない。あぶないよ」

 リーナは心配そうにささやいた。

「ピスキーやっつけるとこ、ちょっとみてたんだけど……ニセモノだってわかっててもかわいそうになったから。友だちがなぐられるところ、もう見たくないよ。しばらく村に入らない方が……あ、いけない」

「なに?」

「えっとね、ビエト村がモンスターにおそわれたのは……しってる?」

「しらない。なにそれ」

 ちょっと見ないあいだに、故郷がヤバいことになってる……。
 くわしく話をきくまえに、ルファスに声をかけられた。

「とりあえず、すわったら?」

 メルズークと2人でなんかやってると思ったら。ヤシの木でベンチ作ってたらしい。ちゃんと日陰になってて、4人分ある。

「はいどうぞ。続けて?」

 そこへ私たちをすわらせて、メルズークがヤシの実までくれた。ルファスの剣で半分にわったらしい。中にはぶあつい白い実。その中央に果汁がたまってる。

 果汁をのむと、なつかしい味がくちに広がった。
 ぬるいけど、ほんのりあまくておいしい。

「ありがとう」

 私とリーナがお礼をいう。彼女もココナッツミルクをのんでなごんでいた。ルファスとメルズークもそれぞれのんでいる。

 ここ暑いからね。水分とらないとたおれちゃう。私はなれてるせいか平気だけど。あいかわらず日差しはきついし、カゲロウがゆらゆらしてる。いまの気温は30度くらいかな~。

 でも、村の焼けあとでベンチにすわる4人って、なんかシュール……。
 これ死人がでてたらぜったいイヤだけど。ケガ人だけだから、まあいっか。

「アーちゃん、なんかすごい人たちといたんだね。1人は神さまで、1人は美少年なんて! ……ちょっとうらやましいかも」

 リーナがこそっと耳うちしてきた。

 ルファスはカッコイイから、みとれるきもちはよくわかる。こんな状況じゃなければ、私もキャーキャーいってたよ。まちがいない。

 メルズークはかわいいような、カッコイイような……いろっぽいニャンコだ。ネコなのに、はっきり美形ってわかる顔だし。スタイルもすらっとしてる。人間だったらすごいことになってそう。

「リーナ、その神さまってなに? さっきもネコ神さまとかいってたよね」

「アーちゃん、しらないの? 教会でちゃんと勉強しないからだよ」

「教会なら3回くらい行ったことあるけど……」

 教会にはいやしの力を使えるシスターがいる。だからケガや病気のときお世話になる。
 世の中には戦う神官やシスターもいるらしい。攻撃魔法みたいに神聖力を使うとか?

 でも、マロボ島のシスターはヨボヨボのおばあちゃんだ。攻撃魔法は使えないし、回復もあんまり……。

 子どもやお年よりが遊びに行く場所。
 この島の教会ってそんなイメージだ。勉強なんて、したことあったっけ? たまにおとぎ話をきかせてくれるくらい、だったような?

「1度くらいは、神さまのお話きかせてもらわなかった?」

「処刑されたエーテルピア神のお話なら」

「エーテルピア神は鳥。女神ラエリアはヘビ。カイゲツさまはクラゲ。……神さまはみんな、動物の姿をしてるんだよ」

 カイゲツさまってだれ? クラゲって動物かな? なんてツッコミはおいといて。

「たしかに、エーテルピア神が鳥だっていうのはきいたことある。神さまって人間の姿だと思ってた」

「神さまたちは人間の姿に化けるときもあるよ。このネ……メルズークさまみたいな。人と動物が混じった姿にもなったりするんだって」

「へー、そうなんだ」

「だから彼らを、神さまの一族。神族(しんぞく)って呼ぶんだよ。生きてる神さま、生神(いきがみ)って呼ぶ人もいる」

「へええ~。メルズークって大神官で神さまだったんだ」

「かんべんしてよ。ボクは人間のつもりなんだ。ちょっと見た目が毛深くて、寿命が長くって? あと神の血をひいてるから、神聖力があるってだけ。本物の神にはかなわないよ」

「ふ~ん?」

 ココナッツかじりながらきいてたら、リーナにつつかれた。

「ちょっと、あんた神さまになれなれしくない? もうちょっとうやまいなさいって」

「そうかな? でも人間だっていってるし」

「人間だとしても、お貴族さまでしょ! 2人とも!」

 それはそうかもしれない。ルファスはふつうにしてていいっていってたけど。ネコはさまづけの方がいいかな?

「べつにいいよ。ボクはかわいい女の子の無礼は許すことにしてる。リーナちゃんも、メルズークって呼んでくれていいんだよ?」

「め、メルズークさま……」

 白ネコにほほえまれて、赤面する乙女。

「リーナ、しっかりして。メルズークはきっと女ったらし」

 私の女のカンがそういってる。

「アカネちゃん」

 ルファスが遠慮がちにくちをはさむ。

「ビエト村の話はきかなくていいの?」

「あっ」

「あっ」

 リーナも私もすっかり忘れていた。だって、あなたたちがベンチ作ったりジュースくれたりするから!