55話 雪の王と世界で1番美しい女の子・後編

「どうしろっていうのよ。わたくしは国のことなんてわからないわよ?」
 一生遊んで暮らせると思っていたのに、父が死んで仕事をしなければならなくなった。
 しかし、システィアーナが無知なことはみんな知っていた。
 そして彼女は当時16歳。
 シアーナ人は短命の代わりに早熟なため、体はすでに他国の20歳と変わらない。
 美しく独身のシスティアーナが困っているのをみて、いいよる男は多かった。
 その筆頭がゲラーニ大臣。
「おかわいそうなシスティアーナ。私が助けてあげましょう。私の妻になれば、あなたは今までどおり毎日遊んでいるだけでいいですよ」
 ゲラーニ大臣は父と同じ32歳。
 父の右腕として国を支えていた重臣の1人だ。
 いきなり彼に抱きすくめられて、システィアーナは全身に鳥肌を立てた。
「無礼者!」
 キャーッと悲鳴を上げて衛兵を呼ぶと、穴があく勢いでピンヒールで大臣を踏みまくり、
「どうしてこのわたくしが! パパと変わらない年のジジイと結婚しなければならないのよ! きっしょく悪いっ! 死ね! このくそロリコンがっ!」
 激情に駆られてその場で処刑してしまった。
 その後も似たような男がたくさんいいよって来たものの、みんな殺してしまった。
 適当に年の近いイケメンと結婚してしまえば苦労せずにすんだのだが、最初のゲラーニ大臣がトラウマになっていたのである。
 そのせいで、システィアーナの家臣から政治に詳しい者はいなくなった。
 もちろん女性の家来にも政治に強い者はいたのだが、元首の暴走ぶりをみてすぐに愛想をつかし、みんな逃げた。
 つまり、いよいよ自分で考えて政治を行わなければならなくなったのである。

◆

「おなかが空いた」
「寒くて死んでしまう」
 国民の不満はだいたいこの2つである。
「ごはんを食べてストーブで温まればいいだけじゃないの?」
 とシスティアーナは答えたが、それではダメらしい。
 下々の者は食料やストーブがそもそもないという。それらを買うお金もない。
 体型を維持するために食事を残す彼女には想像もつかなかった。
 しかたなく色々勉強したすえに、システィアーナは父の政策を調べた。
 父は国民を奴隷として他国へ売ってお金を稼ぎ、そのお金で食料や火種、たきぎなどの物資を買おうとしていた。
 その計画途中に暗殺されてしまったようだ。
「あら良い計画じゃない」
 システィアーナは満足げにほほえんだ。
 ”美しい者には価値がある”という父の言葉を思いだす。
 シアーナ国民はみんな美しい。しかも、厳しい環境に関わらず人口はものすごく多いのだから、きっと良いお金になるだろう。
 計画はとても上手くいった。
 犯罪者を奴隷として売り飛ばしたお金で、国民に配給として食料や物資を配ることができた。
 餓死者も凍死者もずいぶん減った……それなのに、なぜか反発する国民がでた。
 人権がどうとかいってうるさかったからそいつも売り飛ばしたら、国民の反乱がおきてしまった。
 システィアーナは荒縄で拘束されて民衆の前に引きずり出される。
「わからないわ。1人を殺して100人助けるのが名君だって教科書に書いてあったのに、どうしてあなたたちはそんなに怒っているわけ? ねえおわかり? あなたたちが生きていて、そんなに元気にさけんでいられるのは、わたくしが奴隷を売ってごはんやストーブを買ってあげたからなのよ?」
 わたくしに感謝すべきよ。
 それが、彼女の最後の言葉だった。
 システィアーナはギロチン台で首をはねられ、町はずれに埋められた。

◆

 死んだはずのシスティアーナは、真夜中に墓場で目を覚ました。
 いかにもゴーストといった、霧状のモンスターが正面にたたずんでいる。
 よくみると両手と顔があって、人間のできそこないみたいな印象だ。
「なによ、あんた」
 しゃべってから気がついたが、ギロチンで切断された首がつながっている。
 首をさわると、赤黒い血がべとりと手についた。
 身体をおこすと、すぐそばにフタの開いた棺桶が転がっている。
 まさかこのモンスターが自分を蘇生させたのだろうか?
 疑わしくて目を細めると、モンスターはうやうやしくお辞儀をした。
「あなたが好きです、システィアーナ。だから助けた。私の妻になって欲しい」
 システィアーナはうんざりした。
 モンスターまで求婚してくるのか。首をはねてやろうか。
「嫌よ。わたくしモンスターとセックスなんかしないわよ」
「せ」
 求婚したくせに、そのモンスターはウブな乙女のように照れた。
 両手で顔をおさえ、いやいやと首をふって恥ずかしがっている。
「生殖目的ではありません!」
「それではどういう意味かしら?」
 モンスターの姿がゆらめいたかと思うと、上空に一瞬、巨大な顔と両手があらわれた。
 人間とは肌も髪もちがうし、角まで生えている。
 でも人型のモンスターでまあまあ悪くない造形をしている。
 美形ぞろいのシアーナ男性と比べればふつうといったところか。
 また元の霧状のいびつな姿にもどって、彼はいう。
「先ほどの姿が私の本性です。ここへ来るには目立つので、いまは姿を変えています。サイズがちがいすぎますし、種族もちがうので、その……よからぬことはけっして」
「だからどういう意味なのよ? はっきり言いなさい! わたくしはいそがしいのよ!」
 こうしている間に人にみつかったらまた殺されるかもしれない。
「私はあなたの心が欲しい」
 その告白は気に入った。
 いままでたくさん告白されたが、だいたい3つのパターンしかなかった。
 あなたは美しい、俺はすごい、妻になれば楽をさせてやる。
 それと比べたら1番いい。
「あなた何歳?」
「長く数えていませんが……きっと1000歳くらいです」
 父よりも年上だけど、見た目は若いしモンスターだからいいか。
「名前は?」
「雪の王と呼ばれています」
「なにそれ? 本名はないわけ?」
「忘れました」
「それじゃスノウとでも呼ぼうかしら。あなたが雪の王なら、わたくしは王妃ね……まあ悪くないわ」
「そ、それでは……!」
「いっておくけど、このわたくしにしみったれた貧乏暮らしなんかさせたら許さないわよ?」
「もちろんです!」
 雪の王と結婚したシスティアーナは彼の力で反乱軍を壊滅させ、元首の座をとりもどした。
 それから100年以上も政治に関わることになるとは、この時は夢にも思っていなかった。
 王は政治や国のことなんてさっぱりだったから、システィアーナがやるしかなかったのである。