6話 騎士ルファスの事情

 世界でもっとも大きい、ユーグリアス王国。
 その王宮がある都市ダムザは”王都”と呼ばれている。
 王都がある国は他にもいくつかあるけれど、王都といわれれば、ほぼダムザのことだ。
 ダムザは世界の中心と呼ばれるほど栄えていて、多大な影響力をもつ。
 王都にはユーグリアス王につかえる騎士団がいて、その1つに黒ヒゲ騎士団というものがある。
 マヌケな名前だが、過去の戦争でたいへん活躍した伝説の騎士の二つ名「黒ヒゲ」から名づけたそうなので、誇りに思ってもいる。
 その黒ヒゲ騎士団の団長はゴズという大男。
 そして、ルファスはその跡継ぎ息子として生まれ育った。
 ムキムキで、初代団長黒ヒゲそっくりの父に対して、ルファスは母に似て細い。
 見た目もまるで女のようだとからかわれることがしょっちゅうで、小さいころはよくいじめられたものだ。
 父に厳しく鍛えられるうちに、父のしごきに比べればいじめっ子なんてどうってことないと気づいたのは12のときのこと。
 13歳から騎士団に入り、5年経ったある日。
 王宮から帰った父はルファスに母を頼むと告げて、夜逃げするように家をでた。
「王の命令でしばらく遠い国へ行く」
 そう聞いていたが、半年たってもゴズは帰ってこなかった。
 せめて詳しい説明をして欲しいとたずねると、王はようやく重い口を開いた。
 約100年前。
 世界中で暴れていた魔神を5つの国が力を合わせて封印した。
 魔神の身体は頭、右腕、左腕、胴体と足、そして心臓の5つに分けて、それぞれの国が1つずつ保管している。
 そしてユーグリアス王国は魔神の心臓を担当していた。
 心臓は王宮の地下深くに隠していたが、半年前にうばわれそうになった。
 犯人は、ジェネルという大男。
 遠い南国の貴族として公爵家に婿入りし、王宮に出入りしていた。
 しかし、実態は貴族ではなく、その貴族を殺して成り代わった野蛮な盗賊。
 彼は敵国タズタラナと、魔神を崇拝している邪教バクバと協力していた。
 忍びこんだのは少人数だったため、なんとか撃退できたが、ジェネルは逃げた。
 このまま城に心臓を置いてはいけないため、急遽ゴズと黒ヒゲ騎士団に頼んで隠し場所を変えたという。
 おとりとして他の騎士団たちにもニセモノをもたせ、各地へ旅立たせたが、ゴズからなかなか連絡がこなくて心配している。
「息子として、騎士団の一員として、彼の様子をみてきて欲しい」
 そんな王の命令にしたがい、ルファスは王都をでた。
 母親は王宮が責任をもって保護してくれるらしい。
 万が一、ルファスと父がもどらなくても死ぬまで面倒をみてくれるだろう。
 こうして、ルファスは隠し場所として教えられたマロボ島へやってきた。

◆

 追手にねらわれたため、何度か変更した結果がここだそうだが、もしかしたらまた変更して、別の場所にいるかもしれない。
 まずは父ゴズに会った人がいないかどうか聞きこみをしようとしたら、なにもしなくても勝手に人が集まってきた。
 辺境すぎて滅多に人がこない場所らしく、村に入ったとたん「よそ者がきた!」と大騒ぎでとり囲まれてしまったのである。
 武器を手にした男たちが物々しい雰囲気で話しかけてきたが、王都の騎士だと告げると警戒が解けた。
 騎士団の鎧を装備していなかったら危ないところだった。
 それからはなぜか女子供がよってきて、世間話ばかりされて疲れた。
 どうも娯楽に飢えていて、外の世界について知りたいらしい。
 この様子だと、ここに父は来ていないのかも……なんて思っていたとき、有力な手がかりを得られた。
「むこうにあるビエト村にいましたよ」
 女の子の1人が父を見たらしい!
 この島の女の子はみんな赤い髪に緑の目だから見わけがつかないけど、そのときは天使のように感じた。

◆

 村までショートカットするために森の中をつっきっていったら、妖精型のレアモンスターがでて苦労した。
 回復薬をかなり消耗してしまったし、魔力は半分以下になるしで散々だが、なんとか4日でたどりつくことができた。
 夜通し走り続けてくれた馬には感謝しかない。
 ビエト村に入ると、ニヘンナ村以上に警戒された。
 ムリもない。
 ビエト村は盗賊に焼き討ちされたかのように悲惨な状況だった。
 村の半分くらいが焼けて黒こげになっている。
 ケガ人も多く、若者が年寄りをかかえて移動させていた。
 すでに火は消えているし、ケガも手当されている。たったいまなにかに襲われたばかり、というわけではなさそうだが、いったいなにがあったのだろう?
 村人たちはみんな暗くおびえた顔をしていて、女子供はこちらに気づくと大声を上げて逃げ出す。
 すぐに、武器を手にした男たちが走ってきた。
「だれだおまえ! よそ者がこんなところになにしにきた!?」
 村人は長いクワをつきつけ威嚇してくる。
 ルファスは馬からおりて両手を上げ、敵意がないことをアピールした。
「私はユーグリアス王の命令で、ゴズという騎士を探してここへ来ました。黒ヒゲ騎士団のルファスと申します。私の仲間のゴズがこちらへうかがっていると聞いたのですが、ご存じないでしょうか?」
 村人たちがざわつく。
「ど……どうする?」
「あのオッサンと同じ鎧だ」
「しっ、だまれ」
「王さま」
「王都の人……」
 ぼそぼそヒソヒソとなにか密談していたが、とりあえず警戒は解けたようだ。
 やがてルファスは小屋に案内された。
 ヤシの木などで作られた質素な小屋だが、中はひんやりとしていて心地が良い。
 早朝にも関わらず外は30度をこえていて、日差しが目に痛かったのである。
 南国料理や茶などでもてなされ、まつこと2時間。
 体力が回復したころにようやく村長がやってきた。
 ……村人たちとなにか相談でもしていたのかもしれない。
 父ゴズは死んでいた。
 ゴズからの協力をもとめられて魔神の心臓をかくそうとしたが、突如やってきた異国の男がゴズを殺し、心臓をうばいさっていった。村の火事やケガ人もその男が暴れたときのもの。
「やつがいまどこへ行ったかはしらない。もうわしらを巻きこまないで欲しい」
 村長はそのように語った。
 ルファスがゴズの息子だと話すと、墓まで案内してくれた。
 死体をみていないからだろう、知らない人の墓のように思えて涙はでなかった。
 本当にただの勘違いで、どこかで生きていてくれたらいいのだが……。村人たちから聞いた特徴からして、父に間違いないだろう。
 墓の前で何時間もぼーっとしていたら、村人の子どもが足をぽんぽんとたたいてきた。
「おにーちゃん元気だして! お姉ちゃんがおじちゃんのカタキとってくれたから、もう悪い人はいないよ」
「お姉ちゃん? 悪い人?」
 どういう意味かと困惑していたら、その子の兄らしい少年が走ってきて子どもを連れて行ってしまった。
 なんだったんだろう……。
 とにかく、いつまでもこうしてはいられない。
 カタキ。そうカタキだ。
 村人に聞いた特徴からすると、父を殺したのはジェネル。
 やつを追いかけて父のカタキをうつ!
 王へ報告の手紙をしたためて送り、ルファスは島の港へ向かった。
 ジェネルは魔神の心臓を手に入れた。
 だが、心臓だけでは大した力はない。他のパーツも手に入れて魔神を完全に復活させようとするだろう。
 それならば、ここから1番近く、魔神の頭を封印している北の国。
 シアーナ共和国へ行くにちがいない。
 自分もそこへ行き、魔神の頭の前でジェネルを待ちぶせしてやる。

◆

『おおゲボクよ、死んでしまうとは情けない』
 どこからともなく、クーさまの声がする。
 死んでるのにまた死んだってどうーいうことですか、クーさま。
 ぼんやり考えていたら、でっかいバケモノがあらわれた。
 なんだろうコレ。恐竜? 怪獣? 見たことのない不思議な生き物。
 黒いオオカミに似ている。
 大きな口から鋭い牙がのぞいていて、ごつい手足にも刃物みたいな爪がある。
 背中には鳥みたいな黒い翼。
 長いしっぽはヘビそっくり……というかヘビだ。オオカミのしっぽなのにヘビの頭がある。
 どちらさま?
 聞こうとしたけれど声がでない。
 私の全身は粉々になってちらばっているからだ。
 周囲にはなにもない。上下左右すべて、闇におおわれている。
 バケモノは、岩みたいにゴツゴツした手で1つ1つ私の身体をひろい集めていった。

◆

 しょっぱい。暑い。べとべとする。
 痛いくらいの日差しがまぶしくて目を開けると、私は浜辺に転がっていた。
「……」
 どこ、ここ?
 とりあえずおきあがって、
「ひゃっ」
 つい悲鳴をあげた。
 私はなにも服を着ていなかった。生まれたままの姿で、砂と海水まみれになっている。
 えっ? なになに、なんで? 追いはぎ? レイプされた?
 半泣きで岩陰に走り、自分の身体をチェックする。
 ケガは1つもない。乱暴されたような感触も残ってないし、大丈夫みたい。
 ただし荷物がすべてなくなっている。
 ええ……どういうこと?
 周りにだれかいないか探してみたけれど、だれもいない。
 どうやらここは島のすみっこの断崖絶壁で、人がよりつかない場所みたいだった。
 海のむこうには、見覚えのある形の島……私の故郷マロボ島が小さくみえる。
 そして、その上空を巨大ピスキーが飛んでいた。
 羽根が片方ちぎれてるし、触覚や足がとれてるし、お腹から体液がもれている。かなりボロボロのひん死状態だ。そして、全身が焼けたみたいに黒こげ。
 どうしてあんな姿に、と考えてようやく思いだした。
 だいたいクーさまのせいである。
 巨大ピスキーにのりこんで無理やり海をわたろうとしたら雷に撃たれて、私たちは墜落した。
 私の身体は雷に焼かれてこっぱみじんに吹き飛び、服はそのときにすべて燃えて、荷物もなくした。
 魚に食べられていた私の身体を、1つ1つひろい集めて修復していくバケモノの姿を夢でみた気がする。
 アレってもしかしてクーさま……?
 ということは、いまは魔力を使い果たして寝てるのかもしれない。
「クーさまー」
 返事がない。
 うん、きっとそうだ。
 クーさまにはだか見られちゃったと考えると複雑だけど、ケモノ全開なお姿だったし。
 むこうも私のことゲボクとしか思ってないだろうし。
 魔神相手ならはじらう必要ないよね?
 うん、アレは魔神。人外。ケモノ。モンスターだから平気なの。
 でないと、トイレとかお風呂とかどうすればいいの……。
 心の整理をしてから、私は岩陰から顔をだした。
 なんとか島に流れついたことだし、北をめざしたいんだけど。
 服、どうしよう。