60話 それはそれ、これはこれ


「魔神が復活し、封印された体をうばい返している」

 そんなウワサが世界で広まっていた。

 グリアス王国で心臓を、シアーナ共和国では頭を。
 グパジー帝国から右手、アリッタ共和国からは左手……すでに4つとり返した。のこるは最後の1つだけ。

 次にねらわれるのは、まちがいなくサファルカ国だ。

 しかし、サファルカ国は大して心配していない。
 4カ国がおそわれ、ひどい被害がでたというのに。

「魔神がおそいにくる? それがなんだい? うちはだいじょうぶ。やられたりしないよ!」

 国王タメフィスは非常にポジティブ。

「だってうちには神が3人もいるからね!」

 1人は太陽神ケアルー。

 最高神エーテルピアとほぼ同格の神である。
 サファルカ国ではケアル―の方を最高神と呼ぶくらいだ。

「その正体はエーテルピア神で、姿を変えているだけ」

 そんなウワサもある。彼らは自在に姿を変えられるからだ。
 しかしそれを否定する伝承もある。

「彼らはおなじ力をもつ双子の神で、昼の世界をケアル―が、夜の世界をエーテルピアが担当している」

 他にもいろんな仮説や伝説があるものの、どれが正しいかはわかっていない。

 太陽神の名のとおり、ケアル―は宇宙で1番の火力をほこる火属性である。
 彼が本気をだせば、世界がほろぶ。

 しかし、愛する子孫や国民のため、彼が全力をだすことはない。

 人々が焼け死ぬことがないように。ほとんど寝てすごし、力をおさえている。優しい神さまなのである。

 そんな彼を見守る2人めの神はラクアト。ネコの姿をした女神で、ケアル―の妻だ。
 罪人をさばき、善人に幸福をもたらす。

 そして3人め、ケアル―とラクアトの子孫。国王タメフィス。
 ラクアトの血がこく、ネコの姿をした神族だ。代々国王にのみ継承される、神秘の術を使う。

 神々の加護のおかげで、サファルカ国はほとんど負けしらず。
 砂漠の支配者として君臨し続けていた。

「魔神よ、くるならいつでもこい。再びおまえを封印してやる!」

 国王にしたがい、民たちはみんなよゆうたっぷりにかまえていた。

◆

 サファルカ国にある砂漠の町。
 ここはサファルーっていうらしい。遠くにお城がみえるけど、城下町みたいな感じなのかな?

 四角くて、いままで見てきたお城とはだいぶ形がちがう。色は白っぽくて地味。でもでっかいし、装飾もこってる。

 ああいうのを「宮殿(きゅうでん)」っていうんだと、クーさまが教えてくれた。

「町に入ってだいじょうぶなの? さっきの虫みたいに攻撃されたりしない?」

「おそってきたらそのとき考える」

「クーさまってけっこー行きあたりばったりっていうか……雑だよね」

「そうか? 勝つために必要な準備はしてるけどな」

 魔神はためらいもなく町へ入って行く。

 まわりは砂ばっかりだったけど、川の近くはずいぶん景色がちがう。草木がたくさんあるし、花までさいてる。大きなピンクの花がキレイだった。

 この川どこまで続いてるんだろ? 地平線の先をみても、終わりがない。

「そこの外国人、服買わない? 暑いでしょ、そのカッコじゃあ」

「わっ」

 なにもきてないのかと思った。ゾンビだからあんまり暑さわからないけど、マロボ島より暑いのかな?
 上半身はハダカ。下半身は布をまいただけ、みたいな男の子が話しかけてきた。

 うすい茶色の肌をした、黒髪黒目でかわいい男の子だ。

 よくみると、まわりの人もだいたいこんなカッコしてる。女の人はさすがに胸もかくしてるけど、露出は多い感じ。

「あなた服屋さんなの? まだ子どもなのに、もう働いてるんだ。立派だね」

「もう14歳だからね。ここじゃふつうだよ」

「14歳!? わっ、すごい! 私、おない年の男の子と話したの初めて!」

 急にきょうみがでてきて、ジロジロ見てしまった。
 これがウワサのおない年の男……!

 なんか……思ってたより子どもっぽいかも?

 ふだん年上か年下ばっかり見てるから、変な感じ。まだそんなに筋肉なくて、背も低い。でもちゃんと男の子ってふんいき。
 あと数年したら、これがムキムキになったりするのか……。

「えー、もしかしてスゲーいなかもん?」

「うん、ずっと島でくらしてたんだ。ねえ、握手し」

 頭の上になにかのった。

「ヒエッ」

 男の子が泣きそうな顔して、はしって逃げていく。

「あっ、貴重なおない年の男子が……!」

 記念にサインとか欲しかったのに。急用でも思いだしたのかな? トラから逃げるウサギみたいなはしり方だ。

「そんなにおない年がいいなら、俺が化けてやる。1週間……いや、3日あれば作れる」

 私の頭に手をのせていたクーさまがいう。なんかキゲン悪そうだ。

「え? クーさまは年上のままでいいよ。ぜんぜんおない年って感じじゃないし」

「……」

「クーさま、どうしたの? タンスの角に小指ぶつけたみたいな顔して」

「おまえはひどいやつだ」

 ほんのちょっぴり悲しそうな声。

「……まさか、ヤキモチやいてるの?」

「べつにぃ」

 すねてるみたいな顔するから、笑ってしまった。
 美人ってどんな表情もキレイなのね。

「ちょっとめずらしかっただけだよ。クーさまの方がカッコイイよ」

「……」

 ナイフみたいになってた水色の瞳が、少しおだやかになる。
 彼がかかんで顔を近づけてきたから、

「ちゅーはしない」

 その口元を手で押さえた。
 うらみがましい目で見られたけど、「それはそれ、これはこれ」ってやつだよ。

◆

「あんた声かけてきなさいよ」

「なにいってんだい、あんたがいきなよ」

 クーさまの美しさで人だかりができ始めたので、顔をかくして買いものをした。

 さっき男の子がいってたみたいに、いまの服だとめだつ。
 でも露出が激しすぎるのはちょっとね。ってことで、なるべく布の面積が大きいやつを選んだ。あとできがえよう。

 この国ってまわりが砂だらけ。建物も砂とほぼおなじうす茶色ばっかり。
 だからすごく地味なんだけど、そのせいかな?

 ハデな原色の服をきてる人が多い。店の天幕やしき布なんかも赤や緑とか。
 トータルでみると華やかで、見てて楽しい。マロボ島と少しふんいきがにてるし。

「買いものはこれくらいでいいや」

 消耗品とか、別の国で売れそうなものもいろいろ買った。
 北国で買ったものを売ったんだけど、ちょっと赤字。

 店主に見せたのは、魚卵にチーズ、チョコレートっていうお菓子。日持ちしなくて痛みやすいからって、買ったときより安くなってしまった。

 これなら自分で食べればよかったな。こんどは食料じゃなくて雑貨にしてみよう。
 なんて考えてたら、

「今夜は宿で休む」

 クーさまがめずらしいことをいうから、ドキッとしてしまった。
 いままでまったく気にしてなかったけど。最近なんかあやしいから、つい。

「……」

 キスとかしないよね?
 ってきこうと思ったけど、やめた。そこは信用しておこう。

 クーさまが本気になったら、私なんかいつでも自由にできる。でも、彼は私がイヤなことはしない。
 2年まつっていってたし。そもそもペット愛なのか恋愛なのかも不明だし。

 ちょっとドキドキしつつ、宿に泊まった。

「収納魔法を覚えたいんだろ? 飲め」

 魔神は両手いっぱいにためた彼の血をさしだしてきた。

 収納魔法は高レベルじゃないと覚えられない。だから魔神の血を飲んでもう1度レベルアップしろ。
 ってことらしい。

 手首きったりしたわけじゃないのに。どこからどうやって血をだしたんだろ?
 両手をかざしただけで泉みたいにわきでてきた。

 そのへんのモンスター食べるより複雑な気分になるよ、コレ。
 ルファスの血を飲んだりしたあとだし、いまさらかもしれないけど。

 まあでも収納魔法は欲しい。

「う、うん」

 甘くて苦い。でも飲みやすくて、クセになる。リンゴやブドウとにてるけど、鉄の味もする。
 飲み終わるとやっぱり、強いめまいがおそってきた。